鉄欠乏性貧血症の発症原因,症状,予防,治療及び注意事項

 健常者の中年女性2人に1人が鉄欠乏性貧血の予備群と言われています。また、ポルフィリン症の患者さんに鉄欠乏性貧血が多く診られます。最近、鉄剤の摂取で急性肝炎になった中年女性2例を経験しました。鉄剤サプリメントの摂取には十分注意してください。

1.各年齢層における発症の原因
 ①乳幼児期:未熟期、食事摂取不良、牛乳貧血
 ②思春期:急速な成長、偏食、月経開始に伴う鉄需要の増加
 ③成人期:病的出血(消化管、泌尿器、痔核)、胃切除後、低・無酸症、月経異常(月経過多、子宮筋腫)、妊娠、出産、授乳
 ④高齢者:食事摂取不良(入れ歯、咀嚼力の低下)、病的出血(消化管、泌尿器、痔核)、胃切除後、低・無酸症、ヘリコバクターピロリ菌感染
 ⑤その他:異食症や消化管の悪性腫瘍などが挙げられます。

2.症状
 症状としては①顔が蒼白い、②疲れ易い、③すぐに息がきれる、④ 胸がドキドキする(動悸)があります。その他、⑤集中力の低下や意欲の低下(落ち着きがない)、⑥抑うつ気分、頭痛、めまい、体力・作業能率と感染抵抗力の低下、脱毛、むくみ易い、脆弱爪など全身の症状が認められます。爪の変化としてはスプーン爪(18%)、爪の脆さ、爪に凹凸が出現、縦皺が見立ち平坦になる、⑦舌炎、口内炎、口角炎、嚥下障害を合併などが挙げられます。

3.予防
 予防として、鉄含有食材と同時に鉄の小腸吸収を促進する食材を意識的に日常的に摂取してください。例えば、牛・豚・まぐろなどの赤身肉やレバーに含まれる“ヘム鉄”からの鉄の吸収率は約30%、これに対して、納豆、枝豆、そら豆、小松菜、ほうれん草といった植物系食材に含まれる“非ヘム鉄”からの吸収率は約5%ですが、両者一緒に摂るのが効果的です。非ヘム鉄(3価鉄は吸収されません)の摂取にはビタミンCや有機酸を含む食品を一緒に摂取すると、2価鉄に還元されて吸収が良くなります。また、ヘム鉄サプリメントの服用も有効ですが、基本は食事からの摂取です。
 吸収を抑制する食品としては食物繊維の大量摂取やリン酸塩やカルシウム塩を多く含む加工食品、タンニンを多く含むコーヒー、緑茶、紅茶、抗酸化物質のポリフェノール、また、穀類のぬかや胚芽および豆類に多く含まれるフィチン酸により鉄の吸収が妨げられますので注意が必要です。

4.治療
 治療として、病院から鉄剤の飲み薬が処方されますが、むかつきや吐き気、便秘(または下痢)といった副作用など、内服での治療が難しい場合には注射で投与します。血液検査でフェリチン値(貯蔵鉄)が正常化するまでに半年要します。緊急時には輸血が行われます。

5.注意事項
 鉄欠乏性貧血は、鉄の供給不足が原因ですので、サプリメントとして鉄やヘム鉄を摂取する患者さんや健康志向で摂取する健常人が多くみられます。しかし、鉄剤の摂取により急性肝炎になった症例を数例診てきました。鉄剤の摂取は自己判断でなく、血液の専門医の管理の下、適切な治療を受けてください。
 なお、「鉄欠乏性貧血~ヘム合成とミネラルバランスの関する新知見」として2021年11月8日に本資料室に掲載してありますので、こちらの方も参考にしてください。
(近藤雅雄、2025年3月10日掲載)

健康情報2.お茶の元素分析によるミネラル量と質の違い

 茶のミネラル(無機質)成分とその量は意外と知られていません。
 筆者らは国立健康・栄養研究所(現国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)千葉市環境保健研究所との共同研究で各種茶を誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)にて24種の元素定量を行いました。その結果、総ミネラル量は鳥龍茶が2594.3ppmで最も高く、麦茶が961.2ppmと最も低値(鳥龍茶>ほうじ茶>緑茶ほまれ>煎茶>静岡煎茶>宇治茶顆粒>カテキングリーン>玄米茶>宇治煎茶>麦茶)でした。この内、全茶においてマグネシウム(Mg)とマンガン(Mn)量が総ミネラル量の94.3(鳥龍茶)~98.1%(玄米茶)を占め、Mg量は60.4(鳥龍茶)~77%(玄米茶)、Mn量は1.9(麦茶)~40.4%(ほうじ茶)でした。

 抗酸化元素および必須元素Co、Cr、Cu、Mg、Mo、Mn、Ni、Se、V、Znの総量は総ミネラル量とほぼ比例していました。鳥龍茶はCo, Cr、Cu、Mg、Se、Vが多く,麦茶はZnが多いことがわかりました。
 汚染元素の定義はありませんが、Al、As、Cd、Pb、Snについて検討しました。茶腫の名前は避けますが、中にはアルミニウム(Al,175.6ppm)、砒素(As,0.425ppm)、鉛(Pb,3.608ppm)、錫(Sn,0.372ppm)と他の元素に比べて高値を示すものがありました。この数値はヒ素(宇治煎茶の22倍)、ビスマス(24倍)、鉛(20倍)、錫(16倍)に当たります。
 以上、茶中の元素量は栽培される土壌等の環境によっても影響を受けますが、茶種によって元素バランスおよび量がかなり異なっていることが分かりました。また、砒素、カドミウム、鉛含有量の多いものが確認されました。茶腫については成分分析表示のない物も多く,ミネラルの成分表示の公開も含めた検討が必要です。(近藤雅雄、2025年3月6日掲載)

健康情報1.健康食品は十分に情報を得てから摂取したい

 コロナ禍における自粛生活は健康食品の利用を加速させました。
 健康食品の使用目的は病気の予防ですが、病気の90%は活性酸素が原因と言われています(日本抗酸化学会)。こうした観点から、とくに活性酸素を除去する抗酸化成分を含む商品が、がん予防、動脈硬化予防、老化防止、免疫増強作用、美容などを宣伝文句に多数販売されています。
 しかし、この抗酸化物質を過剰摂取するとプロオキシダント作用、すなわち、本来活性酸素を除去するはずの健康食品が、逆に体内で大量の活性酸素を発生する原因となる場合があります。また、食物や医薬品との相互作用も考えられ、安全性についての保証は何一つなく、注意が必要です。さらに期待される効果がまったくない健康食品も多々ありますので、よく情報を得てから購入・摂取して下さい。
 栄養成分は基本的に食品から摂取することによって自然治癒力の強化など、さまざまな効果が発揮されます。 (近藤雅雄、2025年3月6日掲載)

運動力・持久力など、生活活動をサポートする5-アミノレブリン酸

 ミトコンドリアで生産される5-アミノレブリン酸(5-aminolevulinic acid,ALA)はタンパク質を構成するアミノ酸ではなく、生命維持に不可欠な赤い色素ヘム(赤血球中に存在するヘモグロビンのヘム等)を生産する生命の根幹物質です。
 このALAについてさまざまな検討をマウスと人で検討しました。その結果、①エネルギー生産量の向上による代謝促進、②体温上昇による免疫力向上、③運動負荷による疲労回復亢進、持久力の向上などの効果があることがわかってきました。
 健康寿命の延伸とQOL(生活の質)の向上には適切な食生活と運動習慣、休養が大切ですが、ALAはこれら健康生活をサポートするようです。そこで、ALAの健康効果についてわれわれの研究成果を科学的根拠に基づき下記のPDFで解説します。参照してください。(近藤雅雄、2025年2月27日掲載)
 PDF:持久力ALA

飲む健康ゴーヤエキス・プラス・難消化性デキストリン

~苦瓜(ゴーヤ)の豊富な栄養素と難消化性デキストリンを一包に凝縮~

Ⅰ.ゴーヤの主な成分と健康効果

 ゴーヤにはたんぱく質、炭水化物、脂質、ビタミン類、ミネラル類の5大栄養素を含み、エネルギー量は17Kcal です。この内、とくにビタミンB1、B2 、βカロテン、ビタミンC、カリウム、食物繊維が豊富に含まれています。
 ゴーヤは夏バテ・疲労回復、血糖値の調節、脂質異常の調節、血圧調節、むくみ・便秘の解消、ダイエット、老化防止・美肌作り、紫外線・シミ対策、貧血予防、肌荒れ・ニキビ予防などに有効であると言われています。とくにビタミンCはキュウリの14mgやトマトの15mgに対して5倍以上も含まれ、野菜の中で唯一、加熱に強いという特性を持っています。また、鉄分はほうれん草の約2.3倍含まれ、葉酸とともに貧血の予防になります。ビタミンB群は生体エネルギー(ATP:アデノシン三リン酸)の生産に不可欠で、疲労回復、皮膚や粘膜の正常化に、カリウムは腎臓でナトリウムの排泄に働きますので血圧の低下に各々役立ちます。
 苦み成分としてチャランチンとモモルデシン、コロコリン酸が含まれ、チャランチンとコロコリン酸は植物インスリンとも言われ、血糖値の正常化、糖尿病の血糖値改善(食後高血糖改善)に役立つと古くから注目されています。ヒトのインスリンと同様に肝臓や筋肉へのブドウ糖の取り込みを促進し、グリコーゲンの合成を促すことが報告されています。動物実験では糖尿病改善効果、抗ウイルス作用、抗炎症作用、コレステロール低下作用、抗癌作用、免疫調節なども報告されています。チャランチンやモモルデシンには活性酸素を還元する作用も報告されています。
 食物繊維は100g中水溶性0.5g、不溶性2.1g含まれ、腸内の善玉菌の増殖を促進し、糞便量を増やし、腸内環境を整えます。サポニンはコレステロールや老廃物を排出し、動脈硬化、糖尿病、がんの予防、胆汁酸の分泌や産生を促してコレステロール値を下げます。

Ⅱ.難消化性デキストリンの健康効果

 難消化性デキストリンは天然の澱粉から作られた水溶性の食物繊維で①食後血糖上昇抑制作用②食後中性脂肪上昇抑制作用③血清脂質低下作用④内臓脂肪低減作用⑤整腸作用⑥ミネラル吸収促進作用などの効果が報告され、安全な食品として消費者庁で認められています。

Ⅲ.飲む健康ゴーヤエキス+難消化性デキストリン

 難消化性デキストリンはゴーヤエキスと同時に摂取することで水溶性と不溶性のバランスが保たれることが推測され、食物繊維の効果とゴーヤの栄養分の効果に相加・相乗効果が期待できると期待されます。とくに、糖代謝と脂質代謝の改善に対する効果とビタミン、ミネラルなどの吸収促進が期待されます。
 飲む健康ゴーヤエキス+難消化性デキストリンはゴーヤの栄養素を丸ごと水、熱湯などで溶かしておいしく召し上がれます。そして、現代人の摂取量が不足している食物繊維を補給することができます。

飲用の注意
 ゴーヤには血糖低下作用のある成分が含まれていますので、効果の現れやすい子どもや高齢者および糖尿病患者の場合は飲みすぎに注意してください。また、妊娠中にゴーヤを食べると流産を起こしやすいと言われています。さらに腹痛や下痢といった消化器症状、頭痛などが現れた場合は摂取を見合わせた方がよいでしょう。近藤雅雄(東京都市大学名誉教授)
PDFもご参照ください。PDF:飲む健康ゴーヤ

5-アミノレブリン酸(ALA)による免疫増強とその機序

1.はじめに
 現代のストレス社会ではヘムオキシゲナーゼによってヘムの分解が促進するため、ヘム量が不足する。ヘムはアミノレブリン酸(ALA)からミトコンドリア内で生産でされる生体赤色素であり、呼吸やエネルギー生産、神経、内分泌、免疫の機能保持など、生命維持に不可欠な根源物質である。そこで、免疫機能の中枢である胸腺に対して、ALA・ヘムとの関連を検討した。

2.研究方法
 雌雄高齢マウス(約35~45週齢;BALB/ cAJcl,日本クレア(株))に体重1kgあたり2~10mgのALAを投与するように1日の飲水量に配合し7日間自由摂取させた(各群5匹)。実際の摂取量は飲水量から計算した。飼料はCE-2(日本クレア(株))を自由摂取させた。飼育終了後、胸腺重量、胸腺細胞数、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)活性、グルタチオンペルオキシダーゼ(GpX)活性、ヘム合成関連物質の測定およびジーンチップによる遺伝子発現解析、リンパ球の幼若化能およびサブセットなどを測定した。

3.結果
1)胸腺免疫機能に及ぼす影響
 ALA投与によって胸腺重量および胸腺細胞数が有意に増量し、その影響は高齢マウスで著しく、さらに雌に比べて雄の方が著しいことを見出した。ALAにより細胞の分化・増殖が亢進したものと示唆された。胸腺細胞のリンパ球(CD4, CD8)サブセットが雌雄マウス共に増加傾向を示した。さらに、ALA投与によって活性酸素を消去するSOD活性が有意に増加した。

2)ヘム合成に及ぼす影響
 血液細胞および胸腺細胞共にALAを代謝する酵素が次々と活性化され、ヘム合成量が増加した。この結果は、ALA投与によって胸腺の機能が回復・亢進することを示している。胸腺重量の増加は病理標本を作成・検討した結果、胸腺内リンパ球数の増加を認めた。

3)胸腺遺伝子発現に及ぼす研究
 胸腺細胞からt-RNAを抽出し、遺伝子解析を行った。その結果、ALA投与によって934個の遺伝子の発現量に変化が見られた。さらにトランスクリプトミクス解析からSOD遺伝子の発現などが確認された。

4.おわりに
 胸腺は加齢により萎縮し、それと共に免疫機能が低下することが分かっているが、ALA投与によって萎縮抑制のみならず、若年期の重量にまで回復することを証明した。さらにSOD活性の回復による抗酸化機能の増強が確認されたことは極めて重要な知見である。つまり、ALAは高齢者の免疫力増強と若返りに効能があることを示している。
 これまでに胸腺の萎縮を抑制または回復させる因子は発見されておらず、ALAは免疫機能に影響を与える新しい因子として、今後大いに注目されるであろう。
 一方で、健常者においては性差・年齢にかかわらず一日に約0.5~3mgのALAが尿中に排泄されている。同様な結果はマウスでも認められることから、ALA投与による生体影響についてはさらなる科学的検証が必要である。
 現在、ALAが健康食品や医薬品として商品化されているが、ポルフィリン代謝異常症を有する人は絶対に用いないでください。  (近藤雅雄:平成28年11月25日掲載)

PDF:ALAと免疫3

健康を体感できる食品「サルバチア ホワイト チアシード」

チアシードは中南米原産サルビア科の植物。現地では古来から「生命維持にはチアシードと水があれば足りる」と言われ、他の穀物に混ぜたり飲み水に入れたりして摂取してきた。粒の大きさはゴマよりも小さく、いちごの表面の粒位で、白と黒がある。白い粒の方が栄養学的効果は高く、これを品種改良したスーパーチアシードが「サルバチア」。水を含んだ時にもチアシードは約10倍、サルバチアは14倍と膨む。
 サルバチアの主な栄養成分は、脂肪33%(オメガ3系脂肪酸は総脂肪の59%)、炭水化物36%(食物繊維81%)、タンパク質20%、ビタミン・ミネラル11%を含む完全栄養食品です。ダイエット時の食事や運動時の栄養補給、生活習慣病予防やアンチエイジングなど多方面で健康保持を目的として注目されています。
 また、生体の機能保持に不可欠なオメガ3系脂肪酸(DHAやEPAなど)はサーモンの8倍以上、葉酸はほうれん草の5倍、マグネシウムはブロッコリーの5倍、ミネラルは牛乳の6倍、抗酸化物質はブルーベリーよりも多く、タンパク質も大豆より多いことが報告されている。これだけの栄養素を一度にとることができる完全栄養食品はなかなかなく、男女・年齢問わず、日常の食生活に取り入れたい食品です。
 (近藤雅雄:平成28年11月22日掲載)

PDF:サルバチアホワイトチアシード

野菜果物に多く含まれ、目の健康に良いゼアキサンチン

ゼアキサンチンルテインと構造が類似したカロテノイで、光によるダメージから網膜を守ることが報告されている。目の網膜、とくに黄斑とレンズ部分に集中しているが、エイジングにしたがって濃度は低下し、加齢黄斑変性の危険性が高まる。また、喫煙者でも黄斑色素濃度の低下が見られると言う。米国では、加齢黄斑変性患者が1千万人以上存在し、この内、45万人以上が既に視力を失っていると言われている。ハーバード大学が行った研究ではルテインとゼアキサンチン摂取の多いグループは低いグループに比し、加齢黄斑変性の危険性がかなり低いという。
 ゼアキサンチンは自然由来のカロチノイドの一つで野菜や果物に多く含まれている。パプリカ、ホウレンソウ、カボチャ、マンゴー、トウモロコシ。この中で、パプリカはゼアキサンチンとルテインが多く含まれるが、赤いパプリカはゼアキサンチンが多く、黄色いパプリカはルテインが多く含まれている。

野菜や果物に多く含まれ、目の網膜の健康に働くルテイン

 ルテインとはカロテノイド(食品に含まれる赤、黄、橙などの色素の総称)の一種で、ゼアキサンチン(黄斑中央部の主要な構成物質であるが、網膜周辺部位ではルテインが主要な構成物質である)と共に黄斑部にとくに多く含まれているが、体内で合成できない栄養素で加齢によって減少する。
 ルテインは抗酸化作用によって目の酸化ストレスを防ぎ、パソコンなどから放射される強い青色光や紫外線から黄斑部を守っている。エイジングによって体内のルテイン量が減少し、加齢に伴う白内障や視力低下・失明を招く加齢黄斑変性などの様々な目の障害を増加させるとの指摘があり、今後の研究が期待されている。ルテインを含む緑黄色野菜や果物を日常的に摂取している人は、網膜を保護する黄斑色素の濃度が高く、加齢黄斑変性や白内障になる確率が低いと言われている。さらにDHAを一緒に摂ると目に対する抗酸化作用が増強すると言われている。
 ルテインはケール、シソ、モロヘイヤ、ヨモギ、パセリ、乾燥プルーン、アボガド、ホウレンソウ、小松菜などの野菜医や果物に含まれている。

こころとからだの健康(13)目の病気の予防に必要な栄養素と食品

 近年、スマホやコンピュータ、大画面テレビなどの急速な発展による生活環境の変化に伴って眼精疲労・ドライアイを自覚する人が増加すると共に白内障、緑内障、加齢黄斑変性などの失明に至る眼病が注目されるようになった。これら背景にはスマホやコンピュータの発展以外に高齢人口の増加と日常的なストレス、偏った食事、無理なダイエットなどによるビタミンやミネラル類の過不足など、栄養障害が考えられることから目の病気も生活習慣に関わる疾病と言える。

 目はこころとからだの健康維持に重要であり、目の病気は様々な行動の妨げとなるなど、日常生活への負の影響は計り知れない。疲れ目やかすみ目で悩んでいる人、スマホやパソコンなどで目を四六時中酷使している人や自動車やトラックのドライバー、飛行機のパイロットなどは一度自分の食生活を見直すことが大切である。普段の食事を意識して摂取する習慣を身に付けたい。食事で摂取できない時は視力回復のサプリメントや緑黄色野菜、果物などを積極的に摂りいれることも考えたい。

 世界の中でも日本人の視力低下は著しく、最近の調査では約83%の人がメガネかコンタクトを使用し、近視の低年齢化が問題となっている。目に関することわざは多数あるが、その中で「目は心の鏡」「目は人の眼(まなこ)」と言われるように、目はこころとからだの入力部位であり、こころとからだを映し出している。目は生体すべての感覚情報の約80%を占めると言われ、生体に入る情報は目に依存していると言える。

 人間において、視力が形成されるのは生まれてから後天的に徐々に発達し、5~7歳位までに完成すると言われている。したがって、この期間における目のケアーにはとくに十分に注意したい。また、目は12~13歳頃から老化が始まると言われている。生涯において目を大切にするこころを持って、目の健康に気を配り、食環境と同時にストレス解消の方法を自分なりに考え、美しい目を保持したいものである。

 本稿では目の病気の予防・対策に必要な栄養素・食品について調査を行った。論文の内容はⅠ.視覚と目の病気(1.視覚の性質、2.目の病気、3.失明の原因となる疾患)、Ⅱ.眼病の予防に良いとされる栄養素と食品(1.眼精疲労・ドライアイに良い栄養素、2.近視抑制に良い栄養素、3.白内障、加齢黄斑変性などに良い栄養素、4.抗酸化物質の機能、5.ブルーベリーは目が良くなる食べ物の代表)、Ⅲ.眼に良い栄養素(1.抗酸化物質、2.ビタミン類、3.ミネラル類、その他)からなる。(近藤雅雄:平成28年2月8日掲載)
 内容詳細は以下のpdfを参照されたい。 PDF:眼の病気の予防・対策に必要な栄養素{pdf}

油脂の健康効果~「こめ油」「クリル」「亜麻仁油」の健康効果

1.こめ油
原料:米糠
成分:米糠に特有の成分γ‐オリザノール(オリザノールA、オリザノールC)とオレイン酸、ビタミンE(α‐トコフェロール、α‐トコトリエノール)、ビタミンK、鉄などを含む。γオリザノールとはフェルラ酸とステロールとが縮合したエステル類の総称。
効果:以下のように多様な効果が知られている。
①自律神経調節作用:自律神経失調症の緩和に有効、自律神経のバランスを整え、肩こり、眼精疲労、腰痛、更年期に起こりやすい不定愁訴などの症状を改善する。
②皮膚の健康維持作用:皮膚の血行をよくするとともに、皮脂腺の機能を高め乾燥性の皮膚疾患を改善する。老化した角質を取り除き、皮膚の表面を膜で保護する。また、シミの原因となるメラニン色素の増殖を抑え、紫外線吸収作用があり、皮膚の酸化および老化を防ぐ。皮膚の血管を拡張し、血液循環を促進する。
③血中脂質改善効果:脂質代謝に関与し、コレステロールを低下させる。また、コレステロールの吸収・合成を抑制する効果が知られ、高コレステロール血症や動脈硬化症など脂質異常症の予防・治療薬に多く利用されている。
④生殖機能改善作用:無月経、卵巣機能障害、性腺刺激作用などの効果。
⑤抗酸化作用:ポリフェノール成分で、ビタミンEとともに抗酸化作用が知られ、脂質過酸化防止、リノール酸の体内作用の強化、ホルモンバランスの改善、脳や皮膚の老化防止などが知られている。
⑥その他、抗ストレス作用、成長促進やがん治療効果、心身症改善効果などが知られ、医薬品および化粧品としても利用されている。医薬品としての副作用は発疹・かゆみなどのアレルギー症状、眠気•嘔吐、吐き気•下痢、脱力感、倦怠感、また、0.1%未満であるが、めまいやふらつき、頭痛、便秘、食欲不振、腹痛、口内炎、動悸、むくみ、などの症状が報告されている。

2.クリル
原料:オキアミ類
成分:EPAとDHA
効果:オキアミから抽出されるクリルにはDHA、EPAを豊富に含む。DHAは脳内に存在する主要な多価不飽和脂肪酸であり、脳の発達と機能のために重要である。脳のシナプスに豊富に含まれ、ニューロンでのシグナル伝達に関与していることが示唆されている。記憶の要である大脳辺縁系の海馬にも多く含まれる。脳の代謝・血流改善作用として、①血管壁や赤血球の細胞膜を柔らかくする。②神経伝達物質の産生量を増やすことが知られている。また、ストレス耐性を強化する働きもあるという。注意欠陥多動性障害(ADHD)の子どもに症状のわずかな改善が認められたという報告がある。 さらに抗酸化成分のアスタキサンチンが含まれ脂質過酸化防止に有用である。

アスタキサンチン
ビタミンEの約1000倍の抗酸化力とされ、自然界で最強の抗酸化物質との指摘がある。
主な効能は脂質の酸化防止、LDLコレステロールの低下、動脈硬化の予防・改善、糖尿病性白内障の進行抑制、ストレスなどによる皮膚の免疫能低下の抑制、紫外線による皮膚の酸化防止、炎症抑制、ビタミンAの生産、概日リズムの調節などが言われている。最近、脳血管性認知症やアルツハイマー病、糖尿病の合併症、白内障、加齢性黄斑変性症などの予防効果が期待できると注目されている。

3.亜麻仁油
原料:亜麻仁種子
成分:αリノレン酸
効果:オメガ3系脂肪酸の一種であるαリノレン酸は、体内でエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)に変換される。亜麻仁油にはα-リノレン酸がゴマの約100倍含まれ、脂質異常症患者の血中中性脂肪と超低比重リポタンパク質(VLDL)値を全般に低下させると言われている。
効果としては学習能力や記憶力の向上、認知症予防、アレルギー症状の緩和、血流改善、エストロゲン作用、便秘解消、高血圧、動脈硬化、心血管疾患、骨粗鬆症、糖尿病、がんなどの生活習慣病予防など多様な効果があると言われている。ドイツでは慢性の便秘、緩下剤誘発性結腸障害、過敏性腸症候群、腸炎、憩室炎での使用を承認している。 (参考文献:Wikipediaなど)(著者:近藤雅雄、平成26年11月23日)

こころとからだの健康(10)脳に良い食品、機能性食品とその成分

 脳は大脳(皮質、辺縁系、基底核)、間脳(視床、視床下部)、脳幹(中脳、橋、延髄)および小脳から構成され、心身(こころとからだの働き)の司令塔である。特に大脳皮質は感覚・運動の統合、意志、創造、思考、言語、理性、感情、記憶を司る人間としての最も重要な器官であり、その中でも前頭連合野は人間としての中枢とも言うべき、様々な重要な働きをし、哺乳動物の中では一番重たい。
 脳は骨格筋、肝臓に次いで基礎代謝量が高く、多くの栄養素を必要としているため、栄養の摂取バランスの異常や不足は脳の機能にダメージを与え、こころとからだに様々な影響を与える。その代表的なものとして、近年、アルツハイマー病やうつ病などの疾病が大きな問題となっている。
 2012年の世界保健機関の報告によると、認知症患者は毎年770万件増加し、その数は世界中で3,560万人と推定されている。これが2030年までに倍増、2050年までに3倍以上(1億人以上)になると予測されている。認知症には①アルツハイマー型、②脳血管性認知症、③レビー小体型認知症、④ピック病(前頭側頭型認知症)、⑤混合型認知症、⑥その他などがあるが、この内、70%近くがアルツハイマー病という。
 そこで、認知症やうつ病などの脳の障害を予防し、脳(こころとからだの司令塔)の働きをよくする食品および有効成分について文献調査を行い、こころとからだの健康に役立つ資料とした。
 掲載した食品および機能性物質は以下の24食品、24物質であり、その詳細はpdfに掲載した。

1.脳(アンチエンジング)の活性化が期待される食品
 亜麻の種(亜麻仁油)、イチョウ葉、オリーブオイル、カワカワ、くるみ、ココア、コーヒー、魚、ザクロ、センテラ(ゴツコーラ、ブラーミ、ツボクサ)、SOD様作用食品、セイヨウオトギリソウ、セイヨウカノコソウ、ダークチョコレート、納豆、ニンニク、ビルベリー、ブルーベリー、ほうれん草、豆類、松葉、ムール貝、ヨヒンベ(ヨヒンビン)、緑茶の24食品。

2.脳に良いとされる機能性物質
 アスタキサンチン、アントシアニン、イソフラボン、カテキン、γ‐アミノ酪酸(GABA、ギャバ)、ギンコライド、グルタチオン、コエンザイムQ10、サポニン、ジメチルアミノエタノール、食物繊維(不溶性食物繊維、水溶性食物繊維)、タウリン、テアフラビン、テアニン、DHA、トリプトファン、ビフィズス菌、分岐鎖アミノ酸(BCAA)、フェルラ酸、ホスファチジルセリン、ポリフェノール、フラボノイド、メラトニン、レシチンの24物質。
 原稿は以下のPDFを参照されたい。(近藤雅雄:平成27年10月6日掲載)
PDF:脳に良い食品、機能性食品

コリン前駆体「ジメチルアミノエタノール」の脳への影響

 コリンの類縁体であり、神経化学伝達物質であるアセチルコリンの生化学的前駆体である。自然界ではイワシやアンチョビといった魚類に多く含まれている。脳に対してポジティブに作用する例とネガティブに作用する例の両方が報告されている。
 効果として、短期的には注意力や集中力の向上、気分の高揚が見られるが、長期投与の効果は不明である。摂取量が適量よりも多すぎると寿命を縮める結果になるのではないかと危惧されている。長寿を目的とした摂取には科学的根拠がなく、避けた方がよい。

植物センテラ(ゴツコーラ、ブラーミ、ツボクサ)の人への影響

 インド・南アジア・東ヨーロッパなどが原産の植物で、葉の部位が西洋ハーブとして利用される。インド医学であるアーユルヴェーダに取り入れら、中国の「神農本草経」に記載があるという。
 北米の先住民は皮膚炎の治療薬や利尿剤として使用し、東洋医学では身体的な悩みからくるうつ病などの治療に使われている。
 効能としてはリラックス効果や記憶力の回復、精神状態(うつ状態、ストレス状態)の改善や鎮静効果、また、脳内の神経伝達物質を調整し、脳の働きを活性化するという。その他、去痰、風邪によるうっ血解消、産後の回復を早める、血行促進、静脈炎の腫れや痛み緩和などが知られている。動物実験では学習能力と記憶力が改善されたとの報告がある。

スーパーフード亜麻の種(亜麻仁油)のサプリメント効果

 日本ではあまり見かけないが、海外ではスーパーにて普通に売られているスーパーフード。種は小さいが100g当たり脂肪41 g、食物繊維28 g、タンパク質20 gと豊富に含まれている。
 最近、亜麻の種子から得られる亜麻仁油(アマニ油)にオメガ3系脂肪酸であるα-リノレン酸をはじめとする不飽和脂肪酸が豊富に含まれることから、脳に良いサプリメントとして販売されている。ドイツでは慢性の便秘、緩下剤誘発性結腸障害、過敏性腸症候群、腸炎、憩室炎での使用を承認している。
 効果としては学習能力や記憶力の向上、認知症予防、アレルギー症状の緩和、血流改善、エストロゲン作用、便秘解消、高血圧、動脈硬化、心血管疾患、骨粗しょう症、糖尿病、がんなどの生活習慣病予防など様々な効果があると言われているが、十分な科学的根拠はない。
 安全性については、食品に含まれる量を摂取する場合は問題ないが、妊婦・授乳中の女性については十分なデータがないため摂取を避ける。

地中海に面した地域で汎用されているオリーブオイルの効果

 地中海に面した地域(イタリア、スペイン、ギリシャなど)で汎用されている。ギリシャでは日常的に様々な料理に使われ、消費量は世界一。他の食用油脂に比べて酸化されにくく固まりにくい性質を持つ。
 ポリフェノールと良質の脂肪がからだと脳のエネルギー源となるほか、関節や粘膜の炎症を抑える効果があるという。主成分であるオレイン酸は腸を刺激して排便を促す効果がある。ただし体質によっては、過剰摂取により下痢を起こす場合もあるという。
 オリイーブオイルは大腸がんの予防として注目されている。日本では男女ともに大腸がんが急増しているが、オリーブオイルを大量に使っている南イタリアやギリシャ、スペインでは大腸がんが少ない。また、高GI食にオリーブオイルを加えると食後血糖値が抑えられ、さらにダイエット効果(やせる)があるといわれている。

「くるみ」は栄養価が高く、脳や心臓の健康に効果がある

 紀元前7000年前から人類が食用していたとも言われ、日本では縄文時代から食用していたとされる。米国カリフォルニア州と中国での生産が多く、日本では長野県東御市が生産量日本一である。脂質が実全体の70%を占め、オメガ3系脂肪酸であるα-リノレン酸も豊富である。また、ビタミンEなど様々なビタミンやミネラルが豊富に含まれており、栄養価が高く、脳や心臓の健康効果があるという。
 2015年、米国の大規模研究によって、くるみを消費した成人の記憶力・集中力・情報処理速度などの認知機能は年齢・性別・民族性に関係なく高いことが分かった。くるみにはポリフェノールが含まれ、脳内化学伝達物質を活性化し、認知機能を向上させる可能性が示唆されている。
 くるみを1日に一握り分食べている人の記憶力は、食べていない人と比較して19%高い。

ビタミン,ポリフェノール,アミノ酸等を含む「ザクロ」の効能

 1999年から2000年頃、果汁にエストロゲンが含まれるとして閉経後のアルツハイマー型認知症に有効であるとブームとなった。しかし、国民生活センターが流通しているザクロジュースやエキス錠剤など10 銘柄について分析した結果、いずれもエストロゲンは検出されなかった。古くから薬用に供されてきたが、科学的根拠は十分ではない。
 可食部はカリウムが比較的多く含まれ、ビタミンC,B1,B2,ナイアシン等のビタミン類、タンニンやアントシアニン等のポリフェノール類、グルタミン酸やアスパラギン酸などのアミノ酸類等が含まれ、美肌効果や生活習慣病に良いといわれている。

多年草ハーブ,セイヨウオトギリソウの効果と薬への影響

 セントジョーンズワートは、一般的にセイヨウオトギリソウという植物種のことを指し、黄色い花を咲かせる根茎性の多年草のハーブである。ヨーロッパに自生し、後にアメリカへも伝播され、多くの草地で野生化している。ヒペリシンを含み、モノアミンオキシダーゼ(MAO)を抑え、抗うつ症状の改善、鎮静作用があることからドイツでは抗うつ剤として用いられている。しかし、うつ病に対する効果は賛否様々であり、軽度から中程度のうつに対して有効で副作用が少ないとする研究や、逆にプラセボ以上の効果は見られないとする研究がある。
 ジゴキシン(強心薬)、シクロスポリン(免疫抑制薬)、テオフィリン(気管支拡張薬)、インジナビル(抗HIV薬)、ワルファリン(血液凝固防止薬)など、医薬品との相互作用などが危惧されている。さらに、ある種の薬物の量を体内で減少させる作用があり、薬効が低下することがある。副作用としては、ごくまれであるが光線過敏性皮膚炎や不安感、口渇感、めまい、消化器症状、倦怠感、頭痛、性的機能障害などが知られている。

医療用のハーブとして用いられてきたセイヨウカノコソウ

 オミナエシ科のセイヨウカノコソウは欧州、アジアを原産とする多年草で、古代ギリシア、ローマ時代から医療用のハーブとして用いられ、米国ではサプリメントとして販売されている。
 治療上の使用法は医聖ヒポクラテスにより示され、2世紀にはガレノスが不眠症に処方したと言われている。16世紀には神経過敏、振戦、頭痛、動悸の治療に用いられ、第二次世界大戦中には英国で空襲によるストレス緩和のために用いられたと報告されている。
 臨床では神経の緊張、不眠症に対する鎮静薬、睡眠補助薬、消化管の痙攣と不快感、てんかん発作、注意欠陥多動障害(ADHA)の治療として用いられているが、有効性に関する科学的根拠は乏しい。
 仏国では、13歳女子に不安軽減や鎮静作用を期待してハーブ薬(セイヨウカノコソウ、ニガハッカ、セイヨウサンザシ、チャボトケイソウ、コラノキ含有)を1錠×3回/日、数ヶ月間摂取させたところ、肝細胞の90%以上が壊死したため、肝移植を行ったという報告がある。