2025年10月、新型コロナウイルス感染症が急増している

問わず語り:口腔内を清潔に保って、ウイルスや口腔内細菌による感染を防御‼

1.歯磨きの効果

 口腔内には300~700種類の細菌(口腔内フローラ)が存在すると言われます。細菌数は歯をよく磨く人で1000~2000億個、あまり磨かない人では4000~6000億個、殆ど磨かない人では約1兆個存在すると言われています。菌としてはミュータンス菌、ラクトバチルス菌、ソブリヌス菌、ポルフィロモナス・ジンジバリス菌、トレポネーマ・デンティコラ菌、タネレラ・フォーサイシア菌など含まれます。これらの菌には虫歯、歯周病、感染性心内膜症、誤嚥性肺炎など様々な疾患との関係が注目されています。私も1月に肺炎になりましたが、原因として誤嚥性肺炎が考えられました。とくに高齢者は誤嚥に十分注意が必要です。口腔内細菌を減らす方法は歯磨き、フロスや歯間ブラシによる歯間清掃です。

2.うがいの効果
 新型コロナウイルス感染が流行っています。5類感染症に移行してから情報が殆どありませんが確実に増えてます。ここでは2つの事例を紹介します。
 第1例は、息子がコロナに感染し、症状は倦怠感、発熱(最大39.6℃)、喉の痛み、鼻水、咳が出て病院でコロナと判定されました。翌日、家族全員が同じような症状が出て病院で検査をし、コロナ陽性と診断されました。熱が上がったり下がったりで、3日間安静にし、4日目で熱が下がり元気になりました。5日目からは出勤しています。第2例は、3日前に喉の痛みと微熱位で健康であった人が友人3人とマスク無しで2時間ばかりお喋りした後、病院でコロナと判明、また友人3人もコロナと診断されたとのこと。この2つの事例が1週間でありました。感染者はかなり多いと思います。
 今回流行しているのはオミクロンの亜系統の一つでNB.1.8.1(ニンバス)です。症状の特徴は、のどの痛み:74%、発熱:72%、咳・痰:66%、鼻水:40%、頭痛:34%、体の痛み:25%、息苦しさ:16%、倦怠感・だるさ:14%と報告されています。味覚障害などはありません。但し、65歳以上の高齢者、基礎疾患(糖尿病,心疾患,慢性腎臓病,慢性呼吸器疾患)のある方、がんなど免疫機能の低下している方は重症化するリスクが高いため、特に注意が必要です。
 現在、インフルエンザとコロナが流行していますが、感染防御として「ぶくぶくうがい」と「がらがらうがい」の二つのうがいを習慣にすると感染が防御されます。外出後や人との会話の後など平時では水道水で十分です。紅茶によるうがいも良いです。緑茶は科学的根拠が不明です。喉に痛みやイガイガする時は“イソジンうがい薬”などが良いです。
 近年、飲食店、スーパーなどではアルコール消毒液を置いている店は殆どありません。また、従業員はマスクをしていません。マスク、手洗い、うがいを徹底し、部屋の喚起とアルコール消毒など、感染予防対策をしっかり行い、うつらない、うつさないを徹底した自己管理が大切です。(近藤雅雄、2025年10月7日掲載)

著書25.子どもの健康、育児に役立つ「子どもの保健」

 本書は保育士養成課程を有する東京都市大学人間科学部児童学科(幼稚園教諭及び保育士養成)の講義で用いたテキストです。授業は毎回パワーポイントを用いた記憶に残る、分かり易い授業となるよう心掛け、まとめました。実際の講義テキストにはパワーポイントの画像も掲載しましたが、著作権などの関係で割愛しました。
 さて、乳幼児期、児童期、思春期の成長は著しく、この期における環境は発育・発達に大きく影響を及ぼし、心身の健康、さまざまな能力など人生を左右するとても大切な時期です。
 本書では、保育士養成のためのテキストとして執筆しました。健全な発育・発達を図る上で重要な保育における子どもの保健の意義と目的、子どもの発育・発達と生活の支援、子どもの食生活と栄養、心身の健康増進の意義とその実践、子どもの病気とその予防対策、事故と安全対策、児童福祉施設における保健対策、母子保健対策と保育について学び、保育の質の向上を目指しました。
 2020年以降は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックを経験し、子どもの保健にも大きな影響を及ぼしました。その後、感染症法上五類に分類されるとともに,学校保健安全法施行規則においても第二種感染症に位置づけられ,出席停止期間も規定されました。しかし、新型コロナに対するmRNAワクチン投与など、予防・治療及び予後にはさまざまな問題があることから、ここではあえて取り上げませんでした。
 本書の学習によって、子どもの病気や難病の発症機序、診断・治療、疫学、生活指導などに関する知識が十分身に付くことと思います。前半は、小児期のからだの仕組みとその機能について、すなわち健康を中心に学び、後半は小児期にかかりやすい病気とその予防法や保健行政の実際並びに行政的統計データの読み方を学んで下さい。
 講義は90分の授業で、第1講から第30講まで30回です(近藤雅雄著、A4版155頁、2013年4月1日出版)。内容(目次)は下記に示しました。

目次(1~109頁、110~155頁のパワ―ポイントの画像は省略)
第1講 小児保健の意義と目的:1.健康の概念・定義(1)
第2講 健康の概念・定義(1):1.健康の定義、2.健康の考え方、3.健康の今日的課題、4.健康の概念~健康思考(指向、志向、施行)、5.健康の維持と病気の予防、6.健康の増進と減退 
第3講 健康の概念・定義(2):1.健康の維持と病気の予防、2.健康成立に向けて
第4講 小児の成長:1.小児の特徴、2.小児の成長、3.身体の計測と発育評価、4.成長に影響を及ぼす因子、5.基本的生活習慣の確立、6.発達の目安
第5講 小児の発達(1):1.脳の発達
第6講 小児の発達(2):2.感覚器の発達
第7講 小児の発達(3):3.運動機能の発達、子供の姿勢、精神発達
第8講 小児の発育発達(1):4.体温調節・排泄・水分調節
第9講 小児の発育発達(2):5.呼吸・循環
第10講 小児の発育発達(3):6.消化・吸収・排泄
第11講 小児の発育発達(4):7.免疫機能~生体防御のしくみ
第12講 小児の発育発達(5):8.睡眠、新生児の特徴
第13~14講 小児の栄養:1.乳幼児栄養の特徴、2.食事摂取基準、3.乳児の栄養、4.離乳、5.幼児栄養(1~5歳、6.学童期の栄養
第15講 日本の食文化と食育~戦後から今日までの食生活の変遷
第16,17講 よく見られる病気と事故(1~2):1.先天異常および先天性代謝異常症
第18,19講 よく見られる病気と事故(3~4):2.感染する病気、1)ウイルスによる病気、2)細菌感染による病気
第20講 よく見られる病気と事故(5):3.呼吸器系の病気、4.循環器系の病気、5.消化器系の病気
第21講 よく見られる病気と事故(6):6.血液の病気と小児がん
第22講 よく見られる病気と事故(7):7.腎臓、泌尿器、性器の病気
第23講 よく見られる病気と事故(8):8.内分泌系の病気、9.アレルギーによる病気
第24講 よく見られる病気と事故(9):10.神経系および精神心理系の病気
第25講 よく見られる病気と事故(10):11.皮膚の病気、12.骨、関節、筋肉の病気
第26講 よく見られる病気と事故(11):13.眼、耳、鼻、口、歯の病気
第27講 よく見られる病気と事故(12):14.子どもの事故
第28講 病気の予防と保健指導
第29講 生活・環境と育児
第30講 小児保健行政
付:発育期から見る子どものからだと病気、マススクリーニングとは、健常人における主要健康数値表、児童憲章
以上です。詳細は以下のPDFを参照してください。(近藤雅雄、2025年9月23日掲載)
PDFこどもの保健

ミネラルの健康・栄養:生命維持に必須な元素とその過不足

 生命維持に必須なミネラルの基本的概念と生理的意義を理解することを目的として、健康・栄養と食生活および欠乏や過剰などについて纏めました(下記PDF参照)。

生命活動の維持に必須な五大栄養素:糖質,脂質,蛋白質,ビタミン,ミネラル
①熱量素(エネルギー物質アデノシン三リン酸(ATP)の生産材料):糖質,脂質,蛋白質
②構成素(細胞や骨など体を構成する材料):蛋白質,脂質,ミネラル
③調節素(生体物質の代謝調節を行う材料):ビタミン,ミネラル

 生命を維持するためには蛋白質、糖質、脂質、ビタミン、ミネラルの5大栄養素が不可欠です。ミネラルは無機質ですが、それ以外は有機質です。ミネラルについては食塩の摂りすぎや鉄の不足、更年期になると骨粗鬆症とカルシウムが話題となりますが、その他の必須ミネラルの過不足についてはあまり注目されていません。

 われわれは、健常者170例(年齢30~70歳代、男性62例、女性108例)の中・高齢者の血液中の微量元素を誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)にて分析した結果、男性ではクロム(Cr)、マンガン(Mn)、セレン(Se)、女性では亜鉛(Zn)、銅(Cu)、Cr、Mn、ニッケル(Ni)といった生体機能調節に重要な微量元素が加齢とともに減少し、体内微量元素の分布に偏りが生じていることを認めました。Seはグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)、Cu、Mn、Znはスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)の各々抗酸化酵素の構成元素であり、生理活性発現上必須の成分ですから、これら微量元素濃度の低下は中・高齢者の免疫能および抗酸化能低下の原因となるため、老化が促進されます。
 また、血中元素と循環・神経・肝および造血機能などの障害による自覚症状が1つまたは複数持つ人との関係では、とくにZn、Cu、Se、Mn量の不足に有意な相関関係を認めました(2025年3月25日掲載の「高齢者のQOL向上と免疫能を高める日本型食生活の解析」参照)。したがってこれらの成分を多く含む食品を持続的に摂取することによって、これら自覚症状の改善が期待されます。
 さらに、日常的な運動やスポーツ活動は大量の酸素・エネルギー消費、発汗などによってミネラルや抗酸化物質の必要性が高まります。とくに、スポーツは筋疲労や精神的ストレスなどによって発生する酸化ストレスが多く、そのため、前述した各種ミネラルおよびビタミンA、C、E、B群やポリフェノールなどを含む抗酸化食品および免疫増強食品を積極的に摂取した方が良いでしょう。
 健康を維持する上でミネラルの重要性は明白ですが、潜在的に減少している人が多いことが分かりました。しかし、測定は殆どされず、ミネラルの一般検査については今後の課題です。(近藤雅雄、2025年8月5日掲載)
PDF:ミネラルの栄養と健康

PDFの内容:
1.ミネラルの分類と栄養学的機能
2.硬組織とミネラル、食事摂取基準で定められている元素の作用
3.生体機能の調節作用
4.酵素反応の賦活作用
5.鉄代謝と栄養
6.ミネラルの生物学的利用度
7.水・電解質の栄養学的意義
8.参考文献
9.各種ミネラルの作用と摂取異常
10.主な元素の発見歴史と名前の由来
   

こころとからだの健康(20) 言葉はこころなり~伝えたい言葉

 国際社会は未だに悲惨な戦争と地球環境の破壊を繰り返しています。その原因の一つとして人間教育の貧困が挙げられます。
 我が国は、「新しい時代を拓く心を育てるために」次世代を育てる心を失う危機、として1998年、中央教育審議会が中間報告、第1章 未来に向けてもう一度我々の足元を見直そう、第2章 もう一度家庭を見直そう、第3章 地域社会の力を生かそう、第4章 心を育てる場として学校を見直そうの4項目からなる答申を出しました。
 戦後80年、日本は自由で民主的な国家として、人々が豊かで安心して暮らせる社会を形成し、世界の平和に貢献しようと努力してきました。そして、教育の重要性を掲げ、幼児期、学童期に人間形成の基盤をなすこころの教育として、「さまざまな体験や体感を通して、感謝のこころを持って、生きる力、いのちを大切にするこころ、他者を思いやるこころといった、人としての基礎を育む」ことを人間教育の基本として学んでいる。因みに、日本は世界の平和指数(治安・安全性)ランキングでは世界163か国中17位(2024年)でした。
 ここでは、私の40年以上にわたる医学・生命科学に関わる教育・研究活動で経験したこころの教育において、学んだことを「次代に伝えたい言葉」として①言葉は人間の原点である、②言葉はこころとからだを健康にする最大の栄養素、③次代に伝えたい言葉、④私の好きな言葉、⑤災害時の言葉と防災、として添付のPDFに綴りました。この中に、1つでもこころに響くものがあれば嬉しいです。(近藤雅雄、2025年7月27日掲載)

こころは言葉によってコロコロ変わるから“こころ”と言う
言葉は人間の原点であり, 人を動かし、国を動かす
言葉はこころとからだを健康にする最大の栄養素である


言葉は人間社会の原点である
 言葉を話すのは人間だけである。言葉は人類の発展に大きく貢献し、書物となり永遠と続く。そして、言葉は人を動かし、国を動かす。言葉には力がある。したがって、地球の平和や環境は言葉によって大いに影響を受ける。言葉はこころと連動している。
 すなわち、こころは言葉の影響を最も受けやすく、威圧的な言葉、汚い言葉、人の悪口、否定的な言葉を使うのを止め、笑顔で、プラスの言葉を口にしていけば、自分も相手もこころがとても良い状態に安定していき、自分のおかれた状況がたとえどんな状態であっても、次第に好転していくと信じることができる。言葉には魂がある(言霊)
 一つしかないいのちであれば、人生を感謝と喜びに満ち、明るく、おおらかに「前へ」プラス思考で生きる。同様に、一つしかない地球であれば、地球に住む国々が仲良く、感謝と喜びに満ち、地球環境をより良くして行く。このような社会を望んでいます。(2025年7月27日掲載)
PDF:伝えたい言葉

研究回想3.研究の道しるべ、持続した発見と社会貢献

 教育・研究者として、その業績数は学術論文、著書、国際会議講演、国内学術会議講演、招待講演、特別講演、教育講演、依頼論文、学術報告者、特許、競争的研究費の獲得、学位(学士、修士、博士)研究・論文指導、民間企業研究指導、国家及び地方公務員・留学生への教育・研究指導、新聞・雑誌・報道・テレビ・映画等マスメディアへの出演・執筆依頼、教材など、公開された印刷物などは全部で1,500件を超える。
 学術論文の内、査読付きが238件、その内訳は、英文90件、邦文148件、国際会議論文63件、論文の国際的価値として総インパクトファクター 250以上、引用件数は国内外にておそらく5,000論文前後に至る。査読付きの学術論文は投稿雑誌の編集委員会にて、必ず2名以上の専門家による審査が入り、オリジナリティがあるかどうか、原著論文として適切かどうかなど、厳しく審査される。その結果、reject(却下)か、accept(許可)か、または修正すれば許可する(acceptable、条件付許可)の3つのどれかの判定が著者に送られてくる。したがって、公開された査読付き論文はすべてオリジナリティがある。主な研究成果をPDFに示しました。

 学生時代に立てた目標は30歳までに自分の道を見つけることでした。そこで、猛烈に仕事をして、30歳時までに「骨髄δ-アミノレブリン酸(ALA)脱水酵素インヒビターの発見」、「鉛中毒時の酵素異常の発見とその機序の解明」、そして「晩発性皮膚ポルフィリン症の酵素異常の発見」といった世界で初めてを3つ経験しました。いずれも日々の実験の積み重ねから見出した、まったくの偶然の発見でしたが、これが研究者としての自信につながり、何の抵抗もなく、自然と研究者の道を歩むこととなりました。

 新しき事を見出すということはonly oneになること、number oneではなくonly one にこだわりました。その一つとして、私が経験したのは最も基本的な測定(分析)技術の開発でした。他の研究者が開発した測定法を基本に戻って再検討するとうまくいかない事があることを見出しました。それは、鉛中毒の生体影響の指標として用いられてきたALA脱水酵素活性の測定法は1955年に開発されて以来、現代まで何の疑問・疑いを持たず世界中の研究者によって利用されてきました。その方法を基本に戻って測定し直すと新たな問題が沢山出てきた。そこで、測定法を新たに開発し、実験するとこれまでの定説と異なった新たな発見が次々と成された。この内容については、昔「生化学若い研究者の会」で特別講演を行い、若手研究者の興味を誘いました。

 私は、事を成すにはまず基本に戻って十分に準備をすることが大切で、これが新たな発見に繋がることが多いことを経験しました。気が付けば1,500件以上の業績を出したことは感慨深いことです。21歳時からエネルギーを教育・研究と論文執筆に最大限投入し、1日12時間以上様々な学びの好奇心を持って基礎から応用研究を行なってきました。76歳となった今でも、この「健康・栄養資料室」に論文を書き続けています。学ぶことに最大の価値を置き、新たなonly oneのモノ創りを生涯の仕事として位置付けた自分の人生であり、社会への貢献です。

 また、社会貢献の立ち場からは、これまでに学術研究会と学会の創設と運営、学術雑誌の創設と運営、大学新学部の立ち上げ・運営・教育、医療系専門学校の改革・運営・教育、難病の患者会の創設と運営、日本で初めての指定難病制度の立ち上げに関わることができたことは望外の喜びです。(近藤雅雄、2025年7月18日掲載)
PDF:研究の道しるべ、公開された主な研究成果

研究回想2.ポルフィリン研究会の創設と学術雑誌の創刊

 1980年、研究者としてスタートした「生化学若い研究者の会」の夏の学校にて、分科会「ヘムの生合成とその代謝調節」のオーガナイザーを行い、その内容を学術報告書として纏めました。その時に、将来ポルフィリンに関する研究会並びに学術専門雑誌を創ることを夢見ましたが、約10年後、夢が叶えられました。この内容については2025年5月21日掲載の「研究回想」と一部重複しますが、ここでは創設の「思い」、規約や組織、患者会との関わりなどを加筆しました。(下記PDF参照)

1.ポルフィリン研究会創設の思いと経緯
 1970年代、衛生学領域では低濃度鉛曝露によって赤血球ポルフィリン代謝の2番目の酵素δ-アミノレブリン酸脱水酵素(ALAD)活性が鋭敏に減少することから、鉛の生体指標として注目されていました。そこで、順天堂大学医学部衛生学教室千葉百子先生、東京労災病院坂井公先生などと勉強会を発足しました。そして、1986年12月13日に鉛作業者の職業検診時における鉛の曝露指標として赤血球ALAD活性を候補の一つに取り上げ、測定法の検討やその意義について、デ-タの収集や意見交換を行う目的でALAD会が発足、その後、ALAD研究会となりました。
 さらに、聖マリアンナ医科大学衛生学教室の工藤吉郎教授、千葉大学医学部衛生学教室平野英男助教授、大道正義講師、明治薬科大学梶原正宏教授等が加わり、ALADだけでなくヘム生合成経路およびその代謝全般に広がり、国立公衆衛生院の浦田郡平先生を代表世話人としてポルフィリン・ヘム研究会、ALAD-ポルフィリン研究会と名前が変わり、1988年7月16日に漸く「ポルフィリン研究会」として定着しました。そして、1991年12月に研究会が全国組織になるまで、順天堂大学、公衆衛生院、聖マリアンナ医科大学で合計14回、研究会を開催しました。研究会は毎回、報告書を刊行すると共に、梶原先生が赤血球プロトポルフィリン標準物質を作成し、順天堂大学、東京労災病院、聖マリアンナ医科大学、そして国立公衆衛生院との4施設共同研究によって鉛作業者の検診に重要な測定法の標準化を行い、発表しました(産業医学34(3):236-242,1992)。
 これまでに、ポルフィリンに関連する研究者は医学、薬学、工学、理学、農学、環境学などを専門とする分野と多く、これら他分野の専門家が一つの土俵の上で議論する機会はありませんでした。医学に限っても、血液学、皮膚科学、肝臓学・消化器学、小児科学、神経学、衛生学、病理学、救急医学、臨床代謝学、臨床検査学、診断学など多分野でそれぞれ独自の研究が成されていました。そこで、これら専門分野の境界を取り除き、ポルフィリンという共通物質で議論することからいろいろな研究の連鎖・進展が得られると考え、規約を作成し、全国組織として参加を公表しました。その結果、全国から産官学の研究者が数百名結集し、1991年12月14日にわが国で初めてポルフィリンという化学物質を基に多分野の専門家からなる学術研究組織「ポルフィリン研究会」が創設されました。
 その成果の一つとして、多分野の研究者に分担執筆をお願いし、研究会編集による成書、遺伝病・がん・工学応用などへの展開として「ポルフィリン・ヘムの生命科学」を(株)東京化学同人から出版しました(現代化学増刊27、1995年5月10発行) (下写真)。

2.ポルフィリン誌の創刊
 研究会発行の学術雑誌「ポルフィリン, Porphyrins」第1号を1992年7月25日に創刊、これを季刊定期刊行物として2011年、第19巻「Porphyrins」まで発行されました。筆者が出版に関わったのは第14巻までで、第15巻からは東京工業大学大学院大倉研究室内に事務局が移動しました。また、2012年からは組織が変わり、「ALA-Porphyrin Science」として第1巻が刊行され、現在に至っています。(近藤雅雄、2025年6月8日掲載)
PDF:ポルフィリン研究会の創設
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先端素材関連物質のポルフィリン代謝系への影響と評価

 先端技術産業の進展は著しく、これら先端技術を支える素材には数多くの物質が検討され、過去にほとんど用いられてこなかった新しい物質が広く利用されるようになりました。とくに、ホウ素族元素化合物ガリウム・ヒ素(GaAs)およびインジウム・ヒ素(InAs)などとして半導体や超伝導物質などとして広く有用されています。さらに希土類元素においてもその特異的な物理化学的特性からその単体および化合物はスマホはじめ先端技術産業における合金、エレクトロニクス、セラミックス、触媒、原子炉材料のほか、磁性や誘導性を利用した超電導物質の素材として、また、医用材料として各種先端機器や人工歯根材料に、さらに、農業用肥料としても広く利用されています。
 これら元素のうち、ヒ素の毒性については古くて新しい問題であるが、いまだに健康障害の機序がはっきりしていないし、その生体影響評価指標も確立されていません。また、先端産業において開発・利用される上記元素化合物については、生物・生体影響が殆どわかっていないものが多い。先端産業によって生産される各種製品はヒトが生活習慣的に接触を受け、最終的には生活環境中へ放出されることから、新たな環境問題も引き起こしかねないという危惧が残ります
 そこで、これらの各種元素や化合物がポルフィリン代謝酵素に及ぼす影響並びに各元素間の生体内相互作用についてin vivo、in vitroの実験を行いました。その結果、この代謝系が鋭敏に影響を受けることを確認し、生体影響指標となることを確認しました。また、ポルフィリン代謝系の感度は良く、低濃度の生体影響指標として有用と思われました。(近藤雅雄、2025年5月10日掲載)
PDF:先端素材とポルフィリン代謝

ポルフィリン代謝を攪乱する多くの無機、有機化学物質

 自然界にはV、Ni、Mg、Cu、Zn、Fe、Coなどと結合した金属ポルフィリンが知られています。V、Niポルフィリンはシアノバクテリアから生産されたと推測されている原油中に多く含まれています。
 Mgポルフィリンは植物のクロロフィルとして、CoはビタミンB12として、また、Zn、Feはプロトポルフィリンと配位して生体内に存在します。Cuとポルフィリンとの結合も親和性が高く、このような無機元素との関りが深い。
 一方で、Pb、Cr、Cd、Sn、As、Hg、Al、Tlなどが体内に侵入すると、それぞれ機序は異なりますが、ポルフィリン代謝系酵素のほとんどがSH酵素であり、その働きを阻害してポルフィリンの代謝異常を引き起こします。したがって、ポルフィリン代謝関連物質の測定は先端産業および工業用に汎用される各種元素の環境および動植物への影響・評価の指標として有用です。
 これまでに、Pb、Cr、Cd、Sn、Mn、As、Hg、Al、Tl、Cu、Fe、Ga、In、Sm、Laやフリルフラマイド(AF2)、ダイオキシンヘキサクロロベンゼン(HCB)、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、セドルミドカルバマゼピンフェンスクシミドDDCグリセオフルビン(GF)、フェノバルビタール、アリル基含有化合物、放射線、X線、アルコール、トリクロロエチレン、などのポルフィリン代謝系への影響がin vivo、in vitroで明らかになっています。(近藤雅雄、2025年5月6日掲載、2025年9月8日更新)
PDF:元素とポルフィリン代謝

猫がアワビの胆を食べて光線過敏症を起こし耳が落ちた

 「和漢三才図会」(正徳3年、1713年)に鳥貝の腸を食べると猫の耳が落ちるという奇妙な記述があります。また、アワビの肝臓を与えると激しいかゆみのため耳をひっかき取ってしまうという報告もありますが、猫ばかりでなくヒトにおいても、「東京医事新誌」(1899年)にアワビの内臓を食べると顔面の浮腫を伴う皮膚炎が生じることが報告されています。また、食品中のクロロフィル分解産物が健康障害を起こすことが知られています。
 これらの理由は1977年になって、クロロフィルがクロロフィラ-ゼという酵素によって分解されたフェオホルバイドaによる光線過敏症であることが明らかにされました。アワビの中腸腺に遠紫外線を暗い部屋で照射すると強い美麗な赤色蛍光を発しますが、これはピロフェオホルバイドaによるものであり、フェオホルバイドaの数十倍の活性を有します。これらは野沢菜漬、高菜漬などの塩蔵漬け菜中にも認められます。紫外線で赤色蛍光を発するのはポルフィリンクロロフィルとその分解物フェオホルバイドなど、意外と多く知られています。
 また、フェオホルバイドは、緑茶やクロレラなどの緑色野菜を加工した食品に含まれる可能性があり、とくに蒸しの浅い玉露や抹茶ではフェオホルバイドの生成量が多いことが報告されています。これらの食品を摂取する際は、量に注意してください。(近藤雅雄、2025年5月5日掲載)

鶏の卵殻の色、卵の鮮度・栄養価・無精卵と有精卵の違い

 卵殻は昔から白が定番でしたが、最近は赤、青、ピンクなどと購買意欲を掻き立てるきれいな色の卵が店頭に並び、値段も異なっているため消費者を惑わせています。しかし、鶏卵の中身はどれも同じで栄養価は変わりません。因みに、蛋白質12%、脂質10%、各種ミネラルやビタミンを含みますが炭水化物やビタミンCが非常に少ないのが特徴です。卵黄と卵白の比率は31:69ですがそれぞれに含まれる成分は異なります。うずらの卵は鶏卵よりも脂質、ビタミン、ミネラルが多く含まれています。

 卵殻の色は、鶏の品種(鶏腫)によって決まります。卵殻の色素は、卵が産まれる直前に卵殻腺部粘膜上皮の繊毛細胞が分泌するプロトポルフィリンという色素骨格に起因します。この色素は白色レグホーンにも存在します。このプロトポルフィリンという物質は太陽光や蛍光灯などの光(だいたい波長390nm~650nmの光線)照射によって分解しますが、暗室にて遠紫外線を照射すると美麗な赤色蛍光を発しますので、卵の鮮度を簡単に調べることが可能です(「卵は新鮮な程,紫外線照射により美麗な赤色蛍光を発する」2025年5月3日掲載参照)。つまり、新鮮なほど蛍光が強く、古くなるほど弱くなります。

 有精卵と無精卵とでは栄養価が異なるのではないかということがよく言われますが、成分的には差がないようです。無精卵は雌のみでできますが当然温めてもヒヨコは生まれません。有精卵の方が値段が高いのは、栄養価に対するものではなく飼育コストの問題と思われます。(近藤雅雄、2025年5月3日掲載)


卵は新鮮な程,紫外線照射により美麗な赤色蛍光を発する

 卵を割らずに鮮度を評価する方法としては、以下のような方法が知られています。
1.水の中に入れると、新鮮な卵は水に沈んで横向きに倒れる。しかし、古くなった卵は、水に浮いたり、底で垂直に立ったりする。
2.10%の濃い食塩水に卵を沈めると、新鮮な卵はすぐに沈む。しかし、古い卵は、水に浮いてくるか、時間が経ってから沈む。
3.光に透かすと、新鮮な卵は、卵黄が小さく、白身が濃厚で白く濁っているように見える。鮮度が落ちた卵は、卵黄が大きく、白身が薄くて透明感がある。
などが知られていますが、卵の殻にポルフィリンが付着していることは意外と知られていません。

卵の殻に紫外線を照射するだけで卵の鮮度が分かる
 卵の殻には、消費者の購買意欲をそそるような色付き卵(褐色、ピンク色、青色など)が市販され、私たちの目を楽しませてくれます。これら色付き卵や白い卵の殻に暗室で紫外線(400nm付近の遠紫外線)を照射するととても美麗な赤色蛍光を発する(下の写真参照)。この蛍光は色付きに限らずすべての卵類は新鮮な程強く、逆に古いほど弱いことがわかりました。つまり、赤い蛍光物質はプロトポルフィリンと言ってヘム生合成の中間体です。
 鶏などの鳥類では、血漿中のプロトポルフィリンが卵管を介して卵殻(カルシウムと結合)に移動(排泄)するのではないかと推測されます。
 ポルフィリンは巨大なπ電子を持っていて、長い間太陽や蛍光灯などに曝されたり、空気で酸化されるとエネルギーを放出し、壊れていきます。したがって、鮮度が良いほど、紫外線を照射により赤色蛍光を発する。逆に古い卵は、赤色蛍光が弱い。
 白い卵の白色レグホンや赤玉鶏、名古屋コーチン(名古屋種)烏骨鶏アロウカナ、ウズラなどの卵類を調べましたが、新鮮な程卵が赤く美麗な輝きを放しました。その原因を分析したところすべてプロトポルフィリンでした。鳥類図鑑ではアロウカナの青い色素の原因はビリベルジンと書いてあったのを記憶していますがそれは間違いです。因みに、ポルフィリンに銅がキレートすると青色になります。
 卵のご提供を賜りました愛知県農業総合試験所に感謝します。(近藤雅雄、2025年5月3日掲載)

血液の稀少がん「原発性マクログロブリン血症」の概要

 難病の研究者として、血液のがんである超稀少疾患「原発性マクログロブリン血症」の発症率が100万人に2~3名という殆ど知られていない疾患であるが、診断されずに放置されている症例あるいは死亡例、診断されても医師が報告しない症例が多いのではないかと思われます。そこで、本症の診断、病態、治療、予後、Q&Aなどについて、総論として纏めました。
 血液学では、骨髄で生産されるB細胞(リンパ球)は形質細胞に分化し、ウイルスなどの異物に対する免疫グロブリン(抗体)を生産します。ところが、原発性マクログロブリン血症ではB細胞から形質細胞へ分化する途中のリンパ形質細胞ががん化(遺伝子変異)し、体内にて異物(抗原)を攻撃する免疫蛋白(IgGやIgAなどの抗体)が出来ず、攻撃能力のないIgM型M蛋白が異常に増加する疾患です。したがって、免疫力が低いため、感染予防には十分な配慮が必要です。

 本原稿を執筆するに至った経緯は、患者数は意外と多いと思われ、早期発見を促したいことと、発見された場合に医師は情報公開を必ずするよう求めるのが目的です。
1.100万人に数人という超稀少疾患で、5年生存率が36~50%で根治は望めないことから、早く治療法が見つかるように様々なデータを記録として残さなければならない。
2.70歳以上の高齢者に比較的多く、合併症が死因となることが多い。しかし、早期診断によって合併症を防ぐことができる。
3.超稀少疾患のためか本疾患についての成書が見当たらない。そこで、筆者は患者向けの一般書を出版(下写真)したが、その一部を下記のPDFにて紹介した。
4.超稀少疾患は情報が少なく、標準治療法、臨床統計、疫学データが確立していない。医師は患者データを広く医学会や論文として公表していく義務がある。公表していない症例数も意外と多いと思われる。
5.病院の選択は重要で、がんは治療による副作用が多いため、多分野の専門医がいる総合病院に罹ることが望ましい。また、がん患者に対するチーム医療及びがん相談センターの取り組みが充実している病院を選ぶ。
6.原発性とは原因が不明ということである。しかし原因が不明である病気は存在しない。その原因を明らかにすべき研究の推進を期待する。特に、遺伝子治療薬の進歩が著しく、パンデミックで有名な新型コロナウイルスmRNAワクチン接種も本症発症の誘因となることは否定できない。このワクチンについて、多くの事故、副作用、死者がでたが、政府・医療行政・マスコミは遺伝子医薬品バイオ医薬品)のリスク評価・総括がないまま感染症法5類に移行した。

 以上、医学研究の進展を期待して。内容は以下のPDFを参照して下さい。(近藤雅雄、2025年4月10日掲載)。
PDF:原発性マクログロブリン症(WM)

ヘムは生命の根源物質であり生体恒常性の根幹に関与する

 私たちの身体には270種類の組織があり、37兆2千億個の細胞数(Eva Bianconi et al, Annals of Human Biology,40(6):463-71,2013)がお互い仲良く連絡し合って、生命・個体を維持しています。これら細胞の生命活動の中心となるのがヘムで、造血、代謝、解毒、神経、内分泌、免疫、抗酸化、抗加齢、運動などのさまざまな生体機能の根幹反応に関与する赤い色素物質です。例えば、血液中のヘモグロビンは“ヘム”とグロビンが結合したヘム蛋白として酸素を運搬する。血色素とも言います。これらヘムは各組織臓器でさまざまな蛋白質と結合し、ヘム蛋白質として生体の恒常性(ホメオスタシス)機能に重要な働きをしています。またヘムはストレス蛋白質であるヘム分解酵素によって分解されビリルビンに変換されますが、このビリルビンが各種ストレスによって発生した細胞内の活性酸素を分解します。図に関しては以下のPDFを参照して下さい。(近藤雅雄、2025年4月1日掲載)
PDF:ヘムと生体恒常性維持機能

紫外線(UV)照射によるポルフィリンからの活性酸素の発生

 標準ポルフィリンに紫外線を照射し、発生する活性酸素ラジカルの種類およびその量をESR(電子スピン共鳴装置)にて検討しました。その結果、酸性条件での発生は少なく、中性条件下での多くの発生を確認しました。すなわち、ヒドロキシルラジカル(・OH)はウロポルフィリン (UP)ⅠおよびⅢ型が、一重項酸素(1O2)はコプロポルフィリン(CP)ⅠおよびⅢ型に多く、スーパーオキシドラジカル(O2-)はプロトポルフィリン(PP), CPⅠ、UPⅠからの発生が認められました。
(出典:市川勇、近藤雅雄:ポルフィリン2(2):93-102,1993.フリーラジカルとポルフィリン代謝に関連する皮膚の老化機構解明に関する基礎的研究コスメトロジー研究報告Vol4/‛96:58-65,1996.)




(近藤雅雄、2025年3月30日掲載)

ヘムを中心とした細胞・組織内活性酸素除去システムとは

 意外と知られていないのが生体の「三原色」です。例えば怪我などで皮下内出血したときに、まず「赤色のアザ」ができますが。時間が経つと「青色のアザ」となり、最後に「黄色」となって消えていきます。この色の変化に興味を持ちました。この3つの変化はストレスによっても組織で起こることが分かりました。この黄色い色素はビリルビンといって細胞を各種ストレスから守っていたのです。
 今日、私たちの普段の生活から多様なストレスを受け、細胞内に活性酸素が発生します。この活性酸素はヘム分解酵素遺伝子を発現し、ヘム分解酵素(ヘムオキシゲナーゼ,HO-1)を誘導し、赤い色素“ヘム”を分解して青い色素“ビリベルジン”を生産します。このビリベルジンは還元酵素によって黄色い色素“ビリルビン”に変わります。実は、このビリルビンが細胞内の活性酸素を除去し、細胞を活性酸素から守っていたのです。これまで、ビリルビンは黄疸の原因物質として悪者扱いでしたが、実は大変重要な働きをしていたのです。その他、ヘム蛋白であるカタラーゼやペルオキシダーゼも活性酸素を分解する酵素として有名です。この壮大な活性酸素除去システムが、ヘムを中心として行なわれていたのです。
以下のPDFを参照ください。(近藤雅雄、2025年3月12日掲載)
PDF:ヘムを中心とした細胞・組織内活性酸素除去システム

生命の根元物質,「ポルフィリン・ヘム」の生化学と諸情報

 3.11、東日本大震災から14年。被災された方々並びに関係者にこころよりお見舞い申し上げます。決して風化することのないよう、次世代に伝えてまいります。1日でも早い復興とご健勝を祈っています。

 原油中のポルフィリン類は、生命の起源と関係していると推測されています。その構造は実に頑丈で巨大、しっかりしています。これが細胞内の酵素反応で簡単に生産され、酸素の運搬と貯蔵、酸化還元反応、エネルギーの生産、活性酸素の分解、薬物代謝など、生命維持及び働きの根幹に関わる働きをしています。今回は、このポルフィリンの生化学についての情報をまとめました。

 ポルフィリンは4個のピロールが4個のメチン橋(-CH=)で結合した環状化合物の総称です。26個のπ電子共役系におけるπ電子の遷移に基づいて、紫外~可視波長領域に強い吸収スペクトルを持つ赤色物質で、波長400m付近(Soret帯、吸収極大)の遠紫外線照射により美麗な赤色蛍光を発します。
 ポルフィリン類は長い進化の過程を経て、広く動植物界に分布しています。その大部分は遊離の形ではなく、Fe(ヘム)、Mg(クロロフィル)、Co(ビタミンB12)などのように特定の金属をキレートし、さらに特定の蛋白質と配位的に結合した形で、酸素の着脱や光合成でのエネルギー生産、変換という生命現象の根幹反応に関与しています。
 遊離のポルフィリンおよびその前駆体はこれらが生合成されるときの中間体であり、体内での存在量は極めて微量です。しかし、ポルフィリン症や鉛中毒などのポルフィリン代謝に関わる酵素障害によって体内に著しく増量・蓄積します。(近藤雅雄、2025年3月11日掲載)

 ここでは、「ポルフィリン・ヘムの生化学」として
  1.ポルフィリンの化学構造と命名法
  2.ヘムの化学
  3.ポルフィリンの美麗な赤色蛍光
  4.ポルフィリンの一般的性質
  5.ヘム生合成中間体
  6.ポルフィリンの前駆体
について以下のPDFに記述しました。
PDF:ポルフィリン・ヘムの生化学

人類の健康に貢献した元「国立公衆衛生院」の復活を願う

 元国立公衆衛生院は米国ロックフェラー財団の全額寄付によって建立され,昭和13(1938)年3月29日勅令第147号公衆衛生院管制の公布をもって厚生省の創立(1938年1月11日)に遅れること2か月余りの後に同省の直轄機関として設立されました。設立には野口英世が深く関与した記録があります。
 本院はわが国の公衆衛生の向上を期するため,国および地方公共団体などにおける衛生技術者の資質の向上を図るための養成訓練と公衆衛生に関する学理の応用の調査研究を司る教育・研究機関として設置されました。そして、わが国の保健・医療,福祉,環境の分野で多大な貢献をしてきました。
 平成7(1995)年、厚生省は「日本は近代国家として,公衆衛生の時代は終わった」とし,公衆衛生という言葉が省内から消えました。平成14(2002)年4月,旧厚生省は厚生労働省となり,試験研究機関の再編成によって64年という短い歴史を閉じました。
 今、世界は、新型感染症の到来、ロシアによる侵略戦争、地球温暖化など、安心安全な平和社会からどんどん遠ざかっているように見えます。このような時代にこそ、人類の健康に貢献する国立の公衆衛生院が必要とされているのではないでしょうか。先進国では国立の公衆衛生院は国家の中心的役割を果たしています。しかし、日本では残念ながら2002年に無くしてしまいました。
 日本の未来のために、元国立公衆衛生院の復活を期待したい。
(写真は元国立公衆衛生院、平成15(2003)年1月29日,筆者撮影)(近藤雅雄、2025年3月10日掲載)
PDF:元国立公衆衛生院

健康と病気シリーズ8.病気理解のための「血液生理学」

 「血液の病気」に限らず、病気を知るには、血液の生理作用を理解することが不可欠です。患者が治療効果を理解し、自らの治癒力を向上させるためにも重要です。そこで、拙著「生理学講義」(下記写真)から抜粋しました。

 生体の内部環境は血液によって常に恒常性が保たれています。血液は血管内を循環する流動性の組織で、体重の7~8%(男性で体重の8%、1/13、女性は体重の7%,1/14)存在し、呼吸、循環、調節、栄養、排泄、生体防御など生命維持に不可欠な役割を果たしています。細胞成分は主に赤血球が存在し、その容積は血液全体の約45%を占めます。血液が赤いのはヘモグロビンの赤い色素成分で酸素と結合して全身体細胞に供給する「ヘム」を含むからです。ヘモグロビンのことを血色素とも言います。
 血液は細胞成分と液状成分から成ります。赤血球は酸素の運搬を行い、生命のエネルギー物質の生産に不可欠な細胞で、骨髄で生産されます。白血球は生体防御機能として自然(受動)免疫と獲得(能動)免疫に関与します。血小板は血管が破れた際に直ちに止血し、血液の凝固、血管の修復に重要です。
 さらに、血液中液状成分の血漿の水分量は91%、残り1%は、蛋白質7%、糖質0.1%、脂質1%、ミネラル0.9%、その他生命活動に不可欠な成分を含みます。栄養成分は各種細胞の働きに取り込まれ、不要な水溶性成分は腎臓でろ過され尿となります。
 以下のPDFに「血液の生理学」を示したので参照して下さい。(近藤雅雄、2025年3月9日掲載) PDF:血液の生理学

難病患者と大学病院医師:超稀少疾患研究の推進を望む

 難治性疾患を患い特定機能病院日本医療機構評価機構認定病院、某有名私立大学医学部附属病院に入院した時、5~6人の医師たちにぜひ症例報告をして欲しい旨をお願いしたところ、一人の医師Tが「本症についてはすでに多くの報告があり、本症を発表してもその価値がない」と述べ、笑われたことを覚えています。多くの医師が同じ考えであろう。医師からすれば、日常の業務が忙しく、これまでに報告がない新しい発見などがあれば率先して公表するであろう。よほど新しい内容がなければ発表しないものです。

 しかし、本症について調べたが、100万人に数人の発症といった極めて症例数が少ないことから、情報も少なく、十分な臨床統計もないことがわかりました。したがって、疫学も勿論ありません。本症のような超稀少疾患については症例が見つかれば、これまでに報告されていても、必ず論文として、誰でも検索して見られるように公表することを義務付ける必要があるのではないか。また、医療関係者は患者がいればぜひ国内外の医学会や研究会で報告し、症例報告として記録を残してほしいと願うばかりです。患者によって症状や治療の効果も異なるはず。その事実が大切なのです。

 患者は勿論のこと、医師が優秀であればある程情報を知りたがっています。大学病院のT医師は「報告する価値がない」と言っていましたが、それが医学の発展を妨げる原因ともなっているのです。情報は多い方が良いのに決まっているます。特に超稀少がんなどの難治性疾患においては患者数が少ないことが原因で治療研究が進まないことが深刻化しているのではないでしょうか。また、公表しないことは稀少疾患に対する治療上の不都合な真実も疑われかねません。(近藤雅雄、2025年3月8日掲載)

健康情報10.ニンジンに含まれるβ-カロテンの抗がん作用

 ニンジンには抗酸化物質であるβ-カロテンが大量含まれ、がんの予防に有名です。β-カロテンはプロビタミンAとも呼ばれ、ビタミンAの安全な供給源です。
 ビタミンAを過剰に摂取すると頭痛、吐き気、皮膚の乾燥や脱毛、骨や関節の痛み、肝機能障害、胎児への先天異常などの症状がでることが知られていますが、β-カロテンは多少過剰に摂取しても身体に蓄えられ、必要に応じてビタミンAに変換されるため障害が起きません。しかし、β-カロテンだけを健康食品から大量摂取すると逆にがんの発症リスクがあることが報告されています。つまり、ニンジンとして摂取すれば、相乗・相殺効果が現れ、抗がん作用も高まります。とくに高齢者ではニンジンとキャベツや赤ピーマン、リンゴと一緒に摂取すると免疫増強、抗酸化作用や抗がん作用、老化防止の効果がさらに高まることでしょう。(近藤雅雄、2025年3月7日掲載)