高齢者のQOL向上と免疫能を高める日本型食生活の解析

研究目的
 わが国が世界的に健康長寿を誇るようになったのには、医学の進歩のみならず、わが国の風土と歴史の中に根付いた日本型食生活の影響が大きく関与していると思われる。しかしながら、死因の3位までの疾患は生活習慣の偏りがその主な原因であると考えられることから、超高齢・少子化の進む中で、高齢者のQOLを高め、これら疾患の罹患を予防し、健康で長生きできるような食生活の提唱が望まれる。

本研究では、以下の5つの課題について検討した。
1.食品中の抗酸化成分の総合評価
2.日本人高齢者の食事摂取状況の解析
3.抗酸化食品ピーマン食摂取による高齢者への介入試験
4.中・高齢者の血液中抗酸化ミネラル濃度の解析
5.老齢動物の抗酸化および免疫能増強の開発

 QOLを高める上で極めて重要な因子である免疫能の向上とその機序解明を目的とした日本型食生活を踏まえた先駆的な栄養学的研究を行った。また、中・高齢者の血液中の免疫能に直接影響を与える抗酸化元素濃度や抗酸化酵素活性などを測定し、酸化ストレスに対する防御機能についての検討を行った。さらに、国民健康・栄養調査の結果をもとに、日本人の年齢別食生活の傾向を把握し、高齢者の食生活の特性に基づいた免疫能調節因子の検索を行った。そして、高齢者の抗酸化および免疫力を増強させる因子の検討を行い、新たな増強因子を発見した。
 以上の結果をもとに、高齢者の免疫能および抗酸化能を高める食品類を選択し、日本型食生活を中心とした高齢者への介入試験を行い、免疫能を高め、高齢者のQOLを高めるような食生活の提唱をする。なお、紙面の都合上、酸化ストレスが免疫細胞に及ぼす影響に対する分子生物学的手法を用いた解析実験に関しては割愛した。

 本内容は農林水産省農林水産技術会議平成14~17年度「日本型食生活の生体調節機能効果の解明」によるプロジェクト研究課題「高齢者のQOL向上のために免疫能の健全性を保持する日本型食生活の解析」で得られた成績の一部を修正して以下のPDFに纏めた。(近藤雅雄、2025年3月25日掲載)
PDF:高齢者の健康増進研究

健康と病気シリーズ9.ALAによる健康増進と病気治療

 長い間、5-アミノレブリン酸(ALA)の人工合成は難しく、回収率や純度を挙げることが不可能でした。
 それが、コスモ石油(株)の田中徹博士が光合成菌を使い、大量培養に成功してから、ALAの大量生産が可能となりました。この発見によって、多方面への研究が行われるようになりました。

 その最初の研究は2004年、筆者の職場であった国立健康・栄養研究所で行われ、その後、東京都市大学総合研究所内に移動し、そこでSBIアラプロモ(株)研究所が設立されました。現在はSBIアラファーマ(株)として川崎のナノ医療イノベーションセンター内の研究所で研究が行われています。
 ALAは健康食品、医薬品、化粧品、また、動物の飼料や植物の肥料などといった様々な分野で注目されています。ALAは脳腫瘍や膀胱がんなどがんの診断・治療、植物では光合成を促進すると共に収量・品質向上、健苗育成、ストレス耐性、耐塩性・耐冷性向上、都市および砂漠の緑化、ポリフェノールの増量など、また、健常者への投与はヘム合成を促進すると共に免疫力増強、運動機能向上、健康機能向上、疲労回復向上などとして保健・医療・環境など多様な分野で応用されています。

 なお、ALAは急性ポルフィリン症や鉛中毒時に体内に蓄積するALAと全く同じものです。したがって、これらの患者さんが摂取すると病気が悪化することがあります。注意してください。(近藤雅雄、2025年3月9日掲載)
 ALA関係のパワーポイントは500枚近く作成しましたが、その一部15枚を以下のPDFに示しました。ご参照ください。 PDF:健康と病気9.ALA

健康と病気シリーズ4.治療と治癒,自発的治癒の強化 

 がんや生活習慣病は遺伝子の病気であり、 「健康と病気」は遺伝子によって支配されているといわれてきた。しかし、近年、遺伝子は単なる生命の設計図にすぎず、生後の健康を決定するのは環境であり、環境が遺伝子の働きを変え、その行動を調節するというエピジェネティクスの理論がプル―ス・リプトンによって提唱された。つまり、健康を支配しているのは遺伝子だけではなく生後の生活環境が大きく影響する。したがって、健康には日常の食事・運動・休養が重要であり、病気の治療・予防・回復には食事療法や精神療法などの自発的治癒が重要となる。
 患者が病から治るのは患者の治癒力による。
 一方、わが国の現代医療が包括的医療、チーム医療というならば、その発展・遂行には伝統医療に食事療法、運動療法、精神療法、養生訓(貝原益軒) PDF:健康と病気シリーズ4.自発的治癒

健康と病気シリーズ3. 近年の遺伝子研究とがん遺伝子

 近年、遺伝子操作技術の進化に伴い新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンのような遺伝子を用いた治療薬、ゲノム編集による治療、遺伝子組換えを行った食品や各種動物など遺伝子操作に関する研究が加速している。
 本稿ではこれら遺伝子研究の最前線を紹介する。また、病気の治療として、血液のがん「原発性マクログロブリン血症」の遺伝子異常に対する治療を目的に、遺伝子と環境因子との相互干渉作用について考える。
下記のPDFを参照されたい。(近藤雅雄、2025年2月28日掲載)
PDF:健康と病気シリーズ3

健康と病気シリーズ1 「健康とは」身体的,精神的,社会的健康

 元気なヒトは“健康”を意識しないのが通常である。それが、病気になったり、病人を見たり、事故に遭ったり、けが人を見たりして初めて健康を意識する。
 若い時に病気を繰返すと免疫力が強化されるので、身体が丈夫になることが多い。その理由は免疫の中枢である胸腺の発育が12歳位でピークを迎えるためだ。細菌やウイルスなどの異物蛋白(抗原)に対する免疫力(抗体産生力)が増し、異物を除去する能力が高まる(免疫獲得)のである。したがって、子どもの頃にケガや病気を繰返しては免疫を獲得したヒトは大人になると丈夫である。
 本稿では健康について、身体的、精神的、社会的健康などさまざまな角度から考察した。
 論文は以下のPDF参照。HP:PDF:健康と病気1(A4)

植物内のポリフェノール類を増量させる方法を発見した

 現代人の免疫能は低下し、特に高齢者の免疫能は著しく低下している。その主な原因として、急速な食生活の変化、肥満、加齢、ストレスなど、各種酸化ストレスによる影響が示唆されている。この活性酸素が原因で起こる各種疾病の防御を目的としてフラボノイド類の摂取が注目されている。
 フラボノイド類には約5-7,000種ともいわれる多数の物質が報告され、その構造は極めて似ているが、その抗酸化機能は各種異なる。これらフラボノイドの標準統一分析方法は未だになく、各々の抗酸化物質の抗酸化能についてもはっきりしていない。
 そこで、約30種類の抗酸化物質についてその作用を検討すると同時に、世界に先駆けてUV検出器とHPLC分析による各種フラボノイドの一斉同時自動分析法の開発を行った。さらに、各種野菜・果物のフラボノイドを分画定量し、その含有量およびペンタキープ(ALA肥料、コスモ石油(株))投与による影響を検討した。
 その結果、これまでに多くの抗酸化物質の中で、ルテオリンが細胞内・外での活性酸素消去能が最も高いことを証明し、さらに、ALA(δアミノレブリン酸ヘム合成の出発物質)を投与し、栽培した植物中のフラボノイドおよびミネラル量に及ぼす影響について検討を行った。その結果、ルテオリン(図)をはじめフラボノイド類が平均約10倍増量することを見出した。
PDF:ALA-ポリフェノール

食生活による生活習慣病,がん,花粉症,認知症の予防

 スイーツを好む人が全世代で増加している。とくに子どもの時に好きになると厄介だ。嗜好は大人になってもあまり変わらない。生活習慣病の予防や健康増進といった観点からも早めに改善したい。さて、表題に挙げた疾病の予防は抗酸化に関わる物質(ビタミンA, C, E、ポリフェノール、セレンなどを含む食品)、ビフィズス菌などの善玉菌を含む食品、食物線維を多く含む野菜、発酵食品、納豆・オクラなどのネバネバ食品などの摂取が基本となる。また、旬なものを摂取する。

心臓病  LDLコレステロールを減少させるにはさばの水煮缶(マルハ)にEPA(1.87g/缶)含まれ、1g/1日、1缶/1日。EPAは熱に弱いので、サラダなどで摂取すると良い。大根(イソチアシネート)、たまねぎ(イソアリイン:涙を出す成分)と一緒に摂取するとより効果的だ。

高血圧(1/3人) 抗酸化物質を摂取する。100g当たりのポリフェノール量はりんご220mg、赤ワイン180mg、チョコレート840mg。72%以上のカカオが含まれているチョコレートを1日25g以内、摂取してはどうか。食べ過ぎは腎臓病と関係するので止める。減塩、リンゴや根菜類などのカリウムの多い食品を摂取する。また、合谷を指圧すると良いそうだ。

糖尿病(Ⅱ型95%、1/5人) トマト(赤い色素リコピンが豊富で、ビタミンEの100倍以上の抗酸化作用がある)は血糖値を下げ、ジュースにして摂取する。新鮮なオリーブオイルをさじ1杯加え、レンジで温めて飲むと4.5倍リコピンの吸収率が高まる。血糖降下剤と同じ効果があり、血糖値が160㎎/dlなら110㎎/dlに低下する。
が ん みかんの皮を熱湯消毒し、天日干しで数日間乾燥させる。その後、粉砕して食べる。精油のリモネン、フラボノイドのヘスペリジン、カロテノイドのβ-クリプトキサンチン、水溶性食物繊維のペクチン類など作用メカニズムの異なるさまざまながん予防物質が見つかっている。ビタミンDやキノコ類など注目されている。

認知症 カマンベールチーズ(白いカビ様の部分)にオレイン酸アミド、デヒドロエルゴステロールが含まれ、認知症の原因と言われている脳内のβアミロイド量を減らす。同時に赤ワインを2~3杯程度、または、ビールを飲むと効果的だ。ビールの苦み成分に(ホップ由来)イソα酸が含まれ、発がん抑制効果、アルツハイマー病予防効果があるそうだ。

花粉症 原因となるIgE抗体を減少させる食材はれんこん(タンニン、ムチン含む)に含まれ、1日40g、皮ごと輪切りや細かくしてポタージュスープなどで摂取する。2週間効果がある。また、レンコンをすって綿棒で鼻に塗付しても効果がある。

便 秘 食物繊維の1日の必要量は男性20g、女性18gだが、それを満たしている人は少ない。そこで、100g当たりの食物繊維量の多いレタス1.1g、ごぼう5.7g、柿1.6gに新鮮なオリーブオイルをかけ、1日2回、朝と夕方摂取すると良い。野菜としての必要量は一日350gとなる。野菜ジュースは以外と糖質量が多く含まれているので注意する。ビフィズス菌などの善玉菌が多く入ったヨーグルトもおススメだ。個人差があるがリンゴもよい。

(掲載日:2019年4月2日、2025年3月5日修正、近藤雅雄)

こころとからだの健康(17)最先端皮膚科学、皮膚とこころ

 東洋医学において皮膚は最も重要な器官である。皮膚の生理作用は保護作用、感覚作用、体温調節作用、吸収作用、分泌・排泄作用、呼吸作用などが知られているが、近年の分子生物学の発展によって、内分泌作用の発見など新たな展開を迎えている。
 近年、皮膚のケラチノサイトオキシトシンなどのホルモンを生産・内分泌し、他の細胞にいろいろ働きかけていることや様々なホルモンに皮膚が応答することが相次いで報告された。すなわち、グルタミン酸やγアミノ酪酸(GABA)、アセチルコリンやドーパミン、アドレナリンなどの生体物質にケラチノサイトが反応すること。さらに、記憶や学習に関与する脳の海馬にNMDA(N-メチル-D-アスパラギン酸)グルタミン酸受容体が局在し、これが表皮でも見出されたこと。これらの結果から、皮膚はこれまでの生体情報連絡系である神経‐内分泌‐免疫の三大システムに皮膚が加わり、「皮膚と脳」「皮膚と免疫」「皮膚とこころとからだの健康」など、生体機能との関連性に興味が持たれる。 (近藤雅雄,平成31年4月2日掲載)
以下のPDF参照
PDF:こころとからだの健康(17)皮膚とこころ

こころとからだの健康(16)血液型と病気発症の関係

 血液型といえば几帳面なA型、自由奔放なB型、指導力のあるO型、天才肌のAB型など、また、大脳の右脳と左脳との関係ではA型は左脳、B型は右脳、AB型は左右全体、O型は左脳または右脳の発達が各々優れているなどと言った科学的根拠のない「性格診断」や「占い」が流行った。
 しかし、近年、分子生物学の急速な進展によってABO式血液型と病気の関係についての報告が多くみられるようになった。例えば、O型は胃がんや膵がんになりにくい。前立腺がんの再発率が一番低い。心筋梗塞になりにくい。認知症になりにくい。糖尿病になりにくいなど。また、ノロウイルスの一種であるノーウォークウイルスに感染しないのはB型で、スノーマウンテンウイルスに感染しないのはO型である。貧血になりにくいのはB型、AB型。とくにB型女性はなりにくい。肺塞栓症(エコノミークラス症候群)はO型が一番低い。牛肉アレルギー患者の血液型はA型かO型で、B型、AB型の人は罹らない。などの報告が相次いで出てきている。
 今後、血液型による治療法の違いやこころとからだの健康との関連性などの報告が出てくることが推測されるが、これらの結果に対しては個人差や生活習慣・環境などの違いもあり、さらに基礎的研究および疫学調査による統計学的研究等による更なる科学的根拠が必要であることは言うまでもない。これら血液型に関する最新の話題をPDFに纏めた。(近藤雅雄、2018年12月6日掲載)
PDF:こころとからだの健康(16) 血液型

こころとからだの健康 (15) 脳を元気にする食と栄養素

「こころとからだの健康(10)脳に良い食品、機能性食品とその成分」の改訂版である。
 脳は大脳、間脳、脳幹および小脳から構成され、心身(こころとからだの働き)の司令塔である。とくに、大脳皮質は感覚・運動の統合、意志、創造、思考、言語、理性、感情、記憶を司り、前頭連合野は人間中枢とも言うべき重要な働きを行っている。脳を元気にするためには脳に必要な栄養素の摂取と適度な有酸素運動の実施および良い睡眠をとることが基本である。
 近年、アルツハイマー病やうつ病などの疾病が社会問題となっている。2015年、国際アルツハイマー病協会は認知症の新規患者数は毎年約990万人、2050年には1億3200万人に達し、現在(約4680万人)の3倍になると“世界アルツハイマー報告書2015”に発表した。高齢社会においてその数は急激に増加している。認知症には①アルツハイマー型、②脳血管性、③レビー小体型、④ピック病、⑤混合型、⑥その他などがあるが、この内、70%近くがアルツハイマー病であり、酸化ストレスが病気の進行に大きく寄与している。また、最近、疲労の原因は脳の眼窩前頭野で疲労感として自覚することによると言われ、これも酸化ストレスが関わっている。
 そこで、本論文では情報化・高齢化の時代に認知症やうつ病などの脳の障害を予防し、いつまでもイキイキした脳を維持するために必要な食品および有効成分について文献調査を行った。

Ⅰ.脳が元気になる食品
 人は美味しいものを食べると自然と笑顔となるが、これは脳が元気になったのではない。逆に、濃い味付けや甘いものなどは習慣化し、脳はじめ多くの生体機能にダメージを与えるので注意する。自らの健康は自らが守ることを意識し、脳に良い食品を意識的に摂取することが大切である。

Ⅱ.脳の活性化が期待される主な有効物質
 脳の機能保持には脳の構成材料、脳代謝に不可欠な栄養素および酸化ストレスに対する抗酸化物質の摂取を日常的に意識して摂取することが望ましい。抗酸化物質として、ポリフェノールは植物の色素や苦味の成分であり、アントシアン、タンニンやカテキンなどのタンニン類、ケルセチンやイソフラボンなどのフラボノイド類からなる。フラボノイドは植物に広く存在する色素成分でクロロフィルやカロチノイドと並ぶ植物色素の総称である。広義には赤、紫、青を発するアントシアニンもフラボノイドに分類される。フラボノイドを豊富に含んでいる食品としてはチョコレート、ココア、緑茶、紅茶、赤ワインなどが知られ、注目されている。
 これら抗酸化物質の作用としては活性酸素を除去し老化抑制、抗凝固、血圧降下、消臭、血管保護および血流増加、動脈硬化や心臓病の予防、免疫力増強、抗菌・抗ウイルス・抗アレルギー、血管保護、抗変異原性、発癌物質の活性化抑制など、多様な作用が推測されている。ビタミンC・E、クエン酸を含む食品と併用すると抗酸化作用の相乗効果を示す。
 なお、抗酸化物質についてはいずれも食品として摂取することが望ましく、サプリメントとして摂取する場合は過剰摂取による問題などがあり、十分に配慮することが大切である。(近藤雅雄、平成29年3月25日投稿)
内容の詳細をPDFに記載したので参照して下さい。
PDF:脳を元気にする食と栄養素2017.3.25

5-アミノレブリン酸(ALA)による免疫増強とその機序

1.はじめに
 現代のストレス社会ではヘムオキシゲナーゼによってヘムの分解が促進するため、ヘム量が不足する。ヘムはアミノレブリン酸(ALA)からミトコンドリア内で生産でされる生体赤色素であり、呼吸やエネルギー生産、神経、内分泌、免疫の機能保持など、生命維持に不可欠な根源物質である。そこで、免疫機能の中枢である胸腺に対して、ALA・ヘムとの関連を検討した。

2.研究方法
 雌雄高齢マウス(約35~45週齢;BALB/ cAJcl,日本クレア(株))に体重1kgあたり2~10mgのALAを投与するように1日の飲水量に配合し7日間自由摂取させた(各群5匹)。実際の摂取量は飲水量から計算した。飼料はCE-2(日本クレア(株))を自由摂取させた。飼育終了後、胸腺重量、胸腺細胞数、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)活性、グルタチオンペルオキシダーゼ(GpX)活性、ヘム合成関連物質の測定およびジーンチップによる遺伝子発現解析、リンパ球の幼若化能およびサブセットなどを測定した。

3.結果
1)胸腺免疫機能に及ぼす影響
 ALA投与によって胸腺重量および胸腺細胞数が有意に増量し、その影響は高齢マウスで著しく、さらに雌に比べて雄の方が著しいことを見出した。ALAにより細胞の分化・増殖が亢進したものと示唆された。胸腺細胞のリンパ球(CD4, CD8)サブセットが雌雄マウス共に増加傾向を示した。さらに、ALA投与によって活性酸素を消去するSOD活性が有意に増加した。

2)ヘム合成に及ぼす影響
 血液細胞および胸腺細胞共にALAを代謝する酵素が次々と活性化され、ヘム合成量が増加した。この結果は、ALA投与によって胸腺の機能が回復・亢進することを示している。胸腺重量の増加は病理標本を作成・検討した結果、胸腺内リンパ球数の増加を認めた。

3)胸腺遺伝子発現に及ぼす研究
 胸腺細胞からt-RNAを抽出し、遺伝子解析を行った。その結果、ALA投与によって934個の遺伝子の発現量に変化が見られた。さらにトランスクリプトミクス解析からSOD遺伝子の発現などが確認された。

4.おわりに
 胸腺は加齢により萎縮し、それと共に免疫機能が低下することが分かっているが、ALA投与によって萎縮抑制のみならず、若年期の重量にまで回復することを証明した。さらにSOD活性の回復による抗酸化機能の増強が確認されたことは極めて重要な知見である。つまり、ALAは高齢者の免疫力増強と若返りに効能があることを示している。
 これまでに胸腺の萎縮を抑制または回復させる因子は発見されておらず、ALAは免疫機能に影響を与える新しい因子として、今後大いに注目されるであろう。
 一方で、健常者においては性差・年齢にかかわらず一日に約0.5~3mgのALAが尿中に排泄されている。同様な結果はマウスでも認められることから、ALA投与による生体影響についてはさらなる科学的検証が必要である。
 現在、ALAが健康食品や医薬品として商品化されているが、ポルフィリン代謝異常症を有する人は絶対に用いないでください。  (近藤雅雄:平成28年11月25日掲載)

PDF:ALAと免疫3

こころとからだの健康(12)生体防御機構と免疫システム 

 こころとからだの健康管理には日常的に免疫力を強化することが重要であり、それによって、QOLの向上並びに健康寿命の延伸を図ることが可能となる。
 免疫とは疫病から免れると書くが、正しくは、自己と非自己(異物)を識別し、非自己を排除することによって生体の恒常性を維持しようとする防御システムであり、自然免疫と獲得免疫から成る。一般的には、主に後者の感染症予防的な意味合いが用いられ、病原微生物などの異物が体内に侵入した時の生体防御システムとよく言われる。
 しかし、現代社会においては、免疫機能を低下させる要因として、各種生体内因子および生体外因子が関与し、これら要因によって体内で発生する活性酸素によるストレス(酸化ストレス)が免疫の機能、すなわち、生体の機能を低下させることが明らかとなった。免疫機能の低下は感染症、生活習慣病、がんなどのさまざまな疾患の発症と強く関係していることから、免疫強化によってこれら疾患の予防が図られる。
 ここでは、免疫の中心となる血液中の白血球細胞群を中心とした生体の防御反応(感染防御)について紹介する。
以下のpdf参照。(近藤雅雄:平成27年10月21日掲載)
PDF:生体防御と免疫システム

こころとからだの健康(10)脳に良い食品、機能性食品とその成分

 脳は大脳(皮質、辺縁系、基底核)、間脳(視床、視床下部)、脳幹(中脳、橋、延髄)および小脳から構成され、心身(こころとからだの働き)の司令塔である。特に大脳皮質は感覚・運動の統合、意志、創造、思考、言語、理性、感情、記憶を司る人間としての最も重要な器官であり、その中でも前頭連合野は人間としての中枢とも言うべき、様々な重要な働きをし、哺乳動物の中では一番重たい。
 脳は骨格筋、肝臓に次いで基礎代謝量が高く、多くの栄養素を必要としているため、栄養の摂取バランスの異常や不足は脳の機能にダメージを与え、こころとからだに様々な影響を与える。その代表的なものとして、近年、アルツハイマー病やうつ病などの疾病が大きな問題となっている。
 2012年の世界保健機関の報告によると、認知症患者は毎年770万件増加し、その数は世界中で3,560万人と推定されている。これが2030年までに倍増、2050年までに3倍以上(1億人以上)になると予測されている。認知症には①アルツハイマー型、②脳血管性認知症、③レビー小体型認知症、④ピック病(前頭側頭型認知症)、⑤混合型認知症、⑥その他などがあるが、この内、70%近くがアルツハイマー病という。
 そこで、認知症やうつ病などの脳の障害を予防し、脳(こころとからだの司令塔)の働きをよくする食品および有効成分について文献調査を行い、こころとからだの健康に役立つ資料とした。
 掲載した食品および機能性物質は以下の24食品、24物質であり、その詳細はpdfに掲載した。

1.脳(アンチエンジング)の活性化が期待される食品
 亜麻の種(亜麻仁油)、イチョウ葉、オリーブオイル、カワカワ、くるみ、ココア、コーヒー、魚、ザクロ、センテラ(ゴツコーラ、ブラーミ、ツボクサ)、SOD様作用食品、セイヨウオトギリソウ、セイヨウカノコソウ、ダークチョコレート、納豆、ニンニク、ビルベリー、ブルーベリー、ほうれん草、豆類、松葉、ムール貝、ヨヒンベ(ヨヒンビン)、緑茶の24食品。

2.脳に良いとされる機能性物質
 アスタキサンチン、アントシアニン、イソフラボン、カテキン、γ‐アミノ酪酸(GABA、ギャバ)、ギンコライド、グルタチオン、コエンザイムQ10、サポニン、ジメチルアミノエタノール、食物繊維(不溶性食物繊維、水溶性食物繊維)、タウリン、テアフラビン、テアニン、DHA、トリプトファン、ビフィズス菌、分岐鎖アミノ酸(BCAA)、フェルラ酸、ホスファチジルセリン、ポリフェノール、フラボノイド、メラトニン、レシチンの24物質。
 原稿は以下のPDFを参照されたい。(近藤雅雄:平成27年10月6日掲載)
PDF:脳に良い食品、機能性食品

からだのさまざまな機能を良くする善玉菌ビフィズス菌

 母乳栄養児の糞便に多く存在する。約30菌種に分類されているが、ヒトの腸内からはおよそ10種類のビフィズス菌が発見され、その種類は個人によって異なる。主に大腸に存在し、糖から酢酸、乳酸を生産する。生産された乳酸や酢酸が腸内のpH値を下げ、とくに酢酸には強力な殺菌作用があり、有害菌の活性を抑制して腐敗物質など有害物質の生成を抑える。
 ビフィズス菌はニコチン酸、葉酸などのビタミンB群やビタミンKなどを作ることが知られ、さらに、若い女性、老人、各種の疾患由来の便秘に対して改善する効果が見いだされている。
 また、インフルエンザなどに対する感染防御、抗がん、免疫力増強、血中脂質改善、大腸内環境の改善などが報告されている。

こころとからだの健康(9)「治療と治癒」の違いを理解

 生体には様々なバイオリズムがあり、そのリズムの乱れは、脳の視床下部を中心とした体内の恒常性維持機能(これをホメオスターシスという)によって常に無意識的に自己診断、修復、再生の3つの機能が働き、健康状態に戻そうとする治癒力が働いています。
 健康とは完全にバランスの取れた状態であり、これが崩れたときに健常な状態に戻そうとします。この勢いは人為的に作用させることが可能であり、それは治療によって成すべきです。治療と治癒との関係は、治療は受身的であり、病を外部から叩くのに対して、治癒は能動的であり病を内部から除去することを指します。

1.医学誕生における2つの神話
1)医神 アスクレピオス(Asclepius)
 病気の治療は基本的に抗医学であるというのが現在西洋医学思想の根本であり、病気のプロセスを内部に押しやるという本質的に対抗的・抑圧的な医学です。

2)健康神 ヒュギエイア(Hygeia)
 治癒力の強化(自発的治癒、spontaneous healing)は東洋医学をはじめとした西洋医学以外の伝統医学の根本思想です。この思想は現在の西洋医学の一分野である衛生学に見られ、衛生学を健康神の考えを取り入れHygieneと命名されましたが、現代の衛生学は疫学や中毒学が主流であり、ヒーリングシステム(治癒系)、すなわち、自己診断、修復、再生の機序解明に関する研究はこれまであまり行われてきませんでした。また、衛生学は予防医学としての代替、補完、相補医療の領域が重要と思われますが、広く公衆衛生学という見地からすれば、医学部のみで究明できるものではなく、理工学、人文科学、家政学、栄養学、人間科学など多領域に渡る学際的研究分野であるべきです。

2.主な伝統医療 
 日本には貝原益軒(1630~1714)の「養生訓」が有名ですが、明治時代以降医師の権力が著しく増大し、西洋医学一辺倒となっていきました。一方、世界では、アーユルヴェーダ医学、鍼療法、バイオフィードバック、ボディーワーク、中国医学、カイロプラクティック、イメージ療法、生薬医学、ホリスティック医学、ホメオパシー、睡眠療法など多数が知られています。このうち、よく知られているのがインドの伝統的医学であり、ユナニ医学(ギリシャ・アラビア医学)、中国医学と共に世界三大伝統医学の一つでるアーユルヴェーダです。サンスクリット語で長寿の知恵と言います。問診、触診、脈診など患者の様子を細かく観察して診断し、食事療法、薬草療法(生薬、動物薬、鉱物薬)、スチームバスやオイルマッサージなどがあり、インドの庶民の医学となっています。

3.ボブ・フルフォードの教え 
 フルフォードの医学は病気を抑圧するのではなく、からだに備わっている潜在的な治癒力の発現を助長する、非侵襲的な医学であり、古代ギリシャの医師であったヒポクラテスの2大訓戒「①Primum non nocere:傷つけてはいけない、②Vis medicatric nature:自然治癒力を嵩めよ」を遵守し、「①からだは健康になりたがっている、②治癒は自然の力である、③からだはひとつの全体であり、全ての部分は1つに広がっている、④こころとからだは分離できない、⑤治療家の信念が患者の治癒力に大きく影響する」の五つの知恵を実践した。このフルフォードの教えについてはアンドルーワイル著の「癒す心、治る力」は、「自発的治癒とは何か」、「8週間で甦る自発的治癒力」の2冊からなる書物に記載されています。医師をはじめとする治療家には一度は必読されることを望みます。

参考文献:①アンドルーワイル著、上野圭一訳:癒す心、治る力、角川書店、1995年。 (近藤雅雄:平成27年9月2日掲載)

乳児の免疫に関わる鉄蛋白質ラクトフェリンの生体防御能

 1939年、ベルギーにて牛乳成分の中に赤いたんぱく質が発見され、乳(ラクト)と鉄(フェリン)からラクトフェリンと命名された。
 ラクトフェリンは哺乳動物の乳に含まれている多機能タンパク質で、母乳中にも含まれ、生れたばかりの乳児が、母親から受け継いだ抗体により、風邪などの病気にかかりにくくなっている。特に初乳には5∼8g/L含まれ、通常の母乳の2~3倍多く含まれている。初乳を飲むことによって感染などに対する抵抗力を持つ。
 効果としては、微生物の増殖を抑える抗菌作用、大腸菌などの悪玉菌の増殖を抑え、ビフィズス菌などの善玉菌の増殖を促進する。その他、抗炎症作用、免疫強化、抗ウイルス作用、がん予防、がん転移抑制効果などが知られている。(近藤雅雄:平成27年8月7日掲載)

多彩な生体防御機能を持つ「ルテオリン」の健康増強効果

 ルテオリンフラボノイドという抗酸化物質の一種で、さまざまな作用を持つ。ルテオリンの代表的な作用の一つとしてあげられるのが、肝臓の解毒作用の促進である。例えば、発生した癌を、細胞外マトリックスを保護することによって、その成長を抑止する作用も報告されている。また、帝京大学薬学部の山崎博士は炎症性サイトカイン(TNF)生産抑制活性を見出し、さらに、従来フラボノイドはあまり生体内に吸収されないとされていたが、ラットを用いた研究では投与量の約4%が、皮膚からもルテオリンやその配糖体が実際に吸収されることを示した。
 ルテオリンの作用として最も知られているのが、花粉症やアトピーといったアレルギー症状を押さえることである。ルテオリンなどのポリフェノールは、「ロイコトリエン」という炎症を引き起こす物質を作り出す際に必要な酵素を阻害するため、花粉症の症状、とくに鼻づまり防止に効果を発揮すると言われている。したがって、効能としてはしみ、そばかすの予防、アトピー性皮膚炎の改善、アレルギー疾患改善、花粉症、抗酸化作用、免疫力増加などが知られているが、人での科学的根拠はまだ乏しい。
 最近、岐阜薬科大学の永井博士はアレルギー発症に必須のマップキナーゼの抑制作用が見出し、新しい抗アレルギー薬の候補ともなっている。  ルテオリンを含む食品として、ピーマン、しそ、春菊、カモミール、味噌、イチョウ、明日葉などが知られている。(近藤雅雄)

第6回健康食品フォーラム「日本型食生活と健康」内容

 平成17年10月5日、虎の門パストラル(東京)にて第6回健康食品フォーラム「『食育』と健康食品」(主催:財団法人医療経済研究所・社会保険福祉協会、後援:内閣府、厚生労働省、農林水産省、文部科学省)をテーマに基調講演が行われました。その内容を掲載しました。
 講演内容は、現代の健康問題を日本人が古来から獲得してきた「日本型食生活」の観点からとらえなおすとともに、日本型食生活が欧米型の食生活と比べてどう優れているのか、さらに高齢者に対する食育啓蒙が食育全体に及ぼす効果に関する介入試験の結果をご紹介し、最後に健康食品の現状と食育に関して、それぞれ科学的根拠を基に解説いたしました。
内容は、以下のPDF参照 PDF:食育(社福協)修正word
 (近藤雅雄:日本型食生活と健康、2015年6月15日掲載)

こころとからだの健康管理(1)正しい栄養素の摂取と言葉

~正しい栄養素の摂取と言葉~

1.健康とストレス

 半世紀以上も前にWHOが「健康とは身体的にも精神的にも社会的にも完全に健康な状態をいう」と定義し、「社会的健康」の重要性を示しました。この社会的健康とは、最近よく耳にする「人間力」で言えば、「共助」の精神に当たります。8つの知性(言語、音楽、空間、絵画、論理数学、身体運動、感情、社会)では「社会的知性」に当たります。また、自我(自己意識、自己制御)における「自己制御」に当たります。
 しかし、社会的健康、すなわち徳育(道徳心)については、現代の少子・核家族社会・個人情報保護法などによって家族制度や地域社会が急速に変化し、人間の人格形成にかかわる若い時代に学習(躾)されないまま大人になっていくようです。また、家庭や地域社会の中での人間関係が希薄化すると共に、長期間にわたる激しい経済情勢の中で、企業における雇用管理も大きく変化して来ています。これらの結果が、現代人に様々なストレスとなって心身に影響を与えていると思われます。事実、心身の健康について不安を持っている成人が3人に一人いるとも言われています。現代社会では「自己管理」と「社会的知性」がいかに重要であるかがわかります。

2.こころとからだの栄養素

 「自己管理」については、心身の健康管理を怠ると摂食障害などを起こし易くなり、これが病気の原因作り、その病気をさらに増悪させる要因となります。したがって、栄養学的な知識を持つことが重要です。健康寿命の延伸とQOL(生活の質)の向上を目指して、栄養に関する多様な研究が行われていますが、栄養素の過不足が心身の健康に大きく影響を与えることは明白です。
 例えば、チロシンやトリプトファンなどのアミノ酸や葉酸、B12、Cなどのビタミン、銅、鉄などのミネラルの不足は、慢性疲労、頭痛、集中できない、イライラする、学習・精神障害など様々な病気の素因と関係してきますので、このような成分の生理作用およびこれら栄養成分がどのような食品に含まれているのかを知ることが大切です。

~知識の消化吸収は人生最大の栄養素となる!~

 最近、特に若い人の免疫力・体力が低下し、これが心身の病気と関係していると言われます。その原因の多くがストレスに対する適応力の低下(コミュニケーション能力の低下など)と栄養学に対する無関心にあると思われます。生命現象はすなわち栄養現象ですが、生理学的に最も重要なのが免疫力です。免疫力は適正な栄養現象によって獲得されます。
 しかしながら、その免疫力については、スキャモンの発達曲線からも明らかなように、11歳頃をピークとして、免疫中枢である胸腺の萎縮が始まり、その萎縮の原因が多くのストレスやエイジングによって発生する活性酸素によることが最近の研究によって明らかになってきておりますので、如何に体内に多くの活性酸素を発生させないか、また活性酸素を除去させる方法が注目されています。
 その一つの方法としてポリフェノールなどの抗酸化物質や抗酸化ビタミンおよび免疫や抗酸化に関わるミネラル類(亜鉛、セレン、銅、マンガン、鉄など)を日常的に摂取することがあげられます。こころとからだの健康管理の上でも、自分自身が摂取する栄養素をしっかりと意識することによって、体力、健康力に自信を持ち、前向きになれます。
 そして、ストレスを前向きにとらえ、しっかりと自分自身に必要な良質の栄養素を摂取すれば免疫の機能も高まり、心身一如、こころもからだも元気になります。
 次に、社会的健康において最も重要な感謝するこころとからだについて述べます。

3.感謝するこころとからだ

 人間が他の哺乳動物や生物と異なっている決定的な要因は、大脳の前頭葉にあります。前頭葉は人間が400gでチンパンジーが70gです。人の脳の約30%が前頭葉です。猿は12%、犬が6%、ネコが2~3%、ネズミは0%でもわかるように、前頭葉は人間においてのみ大いに発達し、人としての思考、知性、言語、理解、理性など精神活動の中心を司る中枢です。すなわち、「こころの中枢」とも言えます。この前頭葉の働きにおいて、最も脳の活動に影響を与えるのが言葉です。良い言葉を使うと、免疫の機能(生体防御機能)、内分泌機能(成長・発達・代謝機能)、神経機能(自律神経機能、善悪の判断、理性)などの情報連絡系が活性化され、自然治癒力が高まります。言葉そのものが私たちの健康・人生を創っていくといってもよいでしょう。

~言葉は人間の原点であり、こころとからだを健康にする最大の栄養素である!~

 「はじめに言葉ありき、言葉は神と共にあり言葉は神である」と聖書にも出ています。また「言葉は天地(あめつち)を動かす」と古今和歌集に出ています。紀貫之は「力をも入れずして天地を動かし目に見えぬ鬼神をもあわれと思わせ、男と女の仲をも和らげ、猛き武士(もののふ)の心をなぐさむるは歌なり」と言っています。歌とは言葉のことです。言葉には力があります。ドイツ医学はムンドテラピー(ムンテラ)(mund(独):口、言葉の意)を重視しています。すなわち、ムンテラとは「言葉による治療」を意味します。診療や看護には必ず言葉を添えています。日本では適当に症状を説明する位のことしか理解されていませんが、本当は言葉の力による元気づけを意味しているのです。
 言葉を話すのは人間だけであり、人類の発展に大きく貢献し、書物となり永遠と続きます。言葉は、地球の平和と環境保全にも深く関わります。こころは言葉の影響を最も受けやすく、威圧的な言葉、汚い言葉、人の悪口、否定的な言葉を使うのを止め、笑顔で、プラスの言葉を口にしていけば、自分のこころも相手のこころもとても心地よい状態になるはずです。言葉には魂があります。

 一つしかないいのちであれば、人生を感謝と喜びに満ち、明るく、おおらかにプラス思考で生きて行きていくことによって健康寿命は全うできるものと思います。
(近藤雅雄:こころとからだの健康管理(1)、2015年6月5日掲載)    

こころとからだの健康(2)食事,運動とアンチエイジング

1.はじめに
 介護の必要がなく健康的に生活できる期間を「健康寿命」と言いますが、平成25年の日本人の健康寿命は男性71.19歳(同年の平均寿命は80.21歳)、女性74.21歳(同86.61歳)です。女性の方が介護期間は長くなっています。そこで、中高年齢女性の健康寿命の延伸とQOL(生活の質)の向上を図るには、適切な食生活と運動の習慣等、酸化ストレスからの予防によって目標が達成できます。

2.男女の寿命の違い
 世界中の国において男性の方が短命です。その理由は、①男性は免疫の中枢である胸腺の萎縮が早い(酸化ストレスにかかりやすい)、②基礎代謝量の違い、③染色体の違い(Y染色体は傷つくと回復しない)等が挙げられます。したがって、男性は筋肉量が多く、免疫力が弱い、偏食も多く、デリケートであり、孤独に対して弱いのに対して、女性は免疫力が強く、ストレスに強い。すなわち、男性の方が不適切な食生活や筋肉をたくさん持つことから、酸化ストレスによる免疫力の低下が著しく、その結果、短命であると言えます。

3.免疫強化とアンチエイジング
 筋肉(骨格筋、心筋、平滑筋)は24時間活動を行っていますので、それだけ酸素の需要が多い。すなわち活性酸素の生産量も多くなります。そこで、生体は活性酸素を分解する酵素SOD(スーパーオキシドデスムターゼ)、GPx(グルタチオンペルオキシダーゼ)等を進化の過程で獲得してきましたが、これにはエイジングがあり、40歳前後から酵素活性が著しく減少します。そこで、これら活性酸素を分解する酵素の代替作用のある抗酸化栄養素の摂取、適度な運動、休養が大切になります。そして、免疫にとって重要な臓器である胸腺は活性酸素によるダメージが大きいことが分かっています。12歳頃をピークとして胸腺は萎縮してきますが、その後の萎縮のスピードは活性酸素の発生量が多い男性の方が早い。したがって、免疫強化には抗酸化食品を積極的に摂取することが望ましいのです。

4.活性酸素除去方法(抗酸化は抗加齢・免疫強化につながる)
 抗酸化食品の摂取、適度な運動(手足を動かす)、疲れる前に休むことが重要です。抗酸化・免疫に関わる食品としてはビタミンA,C,E,B6、フラボノイド類、亜鉛、マンガン、銅、鉄、セレン等を多く含む食品が挙げられます。これら栄養素を含む野菜(目安量1日350g)、果物(目安量1日200g)、豆類、良質のタンパク質の摂取、特に、運動後は十分に摂取することが大切です。

5.健康食品としての5-アミノレブリン酸(ALA)
 健康食品には①表示の問題、②過剰の問題、③摂取方法の問題等があり、十分に情報を得てから摂取する必要があります。一方、最近、生体物質である5-ALAが新機能性アミノ酸として貧血予防、運動・代謝機能の亢進、抗酸化、免疫増強、美容などのヘルスケアー領域、脳腫瘍の診断・治療をはじめ多くの疾患の予防・治療などのメディカルケアー領域で、各々注目されています。この5-ALAの大量生産が可能となり、中高年齢者の皮膚の若返りや育毛効果等も期待されます。

6.運動はこころとからだのアンチエイジング
 人は動物です。動物は動く物と書きます。筋肉は第2の心臓ともいうように、適度な筋肉をつけることが大切です。運動は定期的に3メッツ以上の強度の身体運動を毎日1時間は行いたいです。運動によって、脳や筋肉が喜び(心身一如)、循環機能を高めるだけでなく、こころもすっきりし、まさにこころとからだのアンチエイジングにつながります。休養は良い睡眠をとりストレスを貯めない工夫が大切です。そして、言葉の使い方も大切です。こころは言葉の影響を最も受け易いため、日常的に前向きな、きれいな言葉を使うよう心掛けましょう。
こころとからだの健康
1.栄養(バランスの取れた食生活)
2.運動(身体を動かす)
3.休養(疲れる前に休む)
4.体質を知る(遺伝子・環境因子相互干渉作用)
5.感謝の気持ちを持つ
6.生きがいを見出す、夢を持つ
7.環境の向上を図る
8.危険因子からの予防(自己防御)
9.自然との対話(自然環境との融合)
10.からだからのサインを習得する(早期診断)
11.自信を持つ、前向きである
12.概日リズムを守る
(出展:近藤雅雄著:健康のための生命の科学、2004)
7.こころとからだの健康
 こころとからだの健康には日頃から感謝の気持ちを抱くこと、いのちの尊さを理解すること、愛情を持つこと、ストレスを貯めないで前向きであること、目標(夢、志)を持つこと、自然のリズムを大切にすることなどが重要です。これらはすべて酸化ストレスを少なくし、免疫能を増強させます(表参照)。
(近藤雅雄:女子体育4・5Vol.57-4・5,p70-71, Apr.May 2015, JAPEW)