研究回想4.ALAによる保健・医療・環境・農業研究の回想

 1990年代に、コスモ石油株式会社中央研究所の田中徹博士が光合成菌を使い、ポルフィリンの前駆物質δ(5)-アミノレブリン酸(ALA)を製造する「発酵法」を開発してから、ALAの低コスト大量生産が可能となりました。この偉大な発見によって、研究用試薬としてだけでなく、多方面への研究に利用されるようになりました(これまで、ALAの人工合成は回収率が悪く、高価でした、そのためにポルフィリン・ヘムの研究はなかなか進みませんでした)。
 2000年代に入り、コスモ石油は5-アミノレブリン酸(ALA)の植物への影響に関する研究を本格的にスタートしています。そして、2004年10月にはALA含有製品製造販売会社が設立され、国内販売に続き海外販売も本格的に展開しています。
 同時期、コスモ石油の研究員数名が筆者の職場であった国立健康・栄養研究所にALAのカプセルを持参したので、私はそれを濃度を変えて服用し、自らの血液および尿中のポルフィリン代謝物を測定し、安全性と有効性を確認しました。その後、田中氏と宮成節子氏と3人で新大久保のなまず屋(2008年に閉店)で会食し、さまざまなALAの夢を語ったことを昨日のように覚えています。そして、数年でしたが、健康と病気に関する研究が行われました(下記PDF参照)。

 2007年、小生が研究所を退職して大学に移動。翌年、コスモ石油(株)SBIホールディングス(株)との合弁会社SBIアラプロモ(株)が設立されました。そして、田中氏と河田聡史氏が研究所の場所を探していた時、丁度小生が勤務する東京都市大学の総合研究所内に貸研究室が空いていたことから、ここにALA研究所を開設しました(大学では健康医科学研究室として開設)。そこで、筆者が2002年、国立公衆衛生院を退職した時に自宅の庭に建てた「健康科学研究所」の実験台、ALA測定専用カラム、紫外線照射器、実験器具、ポルフィリン代謝物分析の本、外部研究資金などをALA研究所に寄附し、夢を託しました(これを機に小生の研究所は閉鎖)。そして、田中氏の卓越した研究能力と精力的な企画・運営・指導、そして優秀な研究所スタッフの努力によって、ALAは健康食品、医薬品、化粧品、また、動物の飼料や植物の肥料などといったさまざまな分野で急速に注目されていきました。今では、脳腫瘍や膀胱がんなどがんの診断・治療、植物では光合成を促進すると共に収量・品質向上、健苗育成、ストレス耐性、耐塩性・耐冷性向上、都市および砂漠の緑化など、また、健常者に対しては免疫力増強、運動機能向上、疲労回復向上などとして保健・医療・環境など多様な分野で応用されるようになりました。
 一方、2011年3月11日の東北の大震災以降、突然、世田谷の大学総合研究所内から神戸に移転しました。その後、SBIファーマ(株)が立ち上がり、研究所は神戸から川崎(ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)4F)に移り、組織も大分変わったようです。共に人生をかけた研究でした、頑張って欲しいと願っています。
 なお、ALAは指定難病急性ポルフィリン症鉛中毒の発症時に体内に過剰に蓄積するALAと同じものです。したがって、これらの患者さんの摂取は、事例はありませんが病気が悪化するかもしれません。また、発症に関わるかもしれません。服用は控えてください。
 下記PDFにALA研究を回想し、成果の一部をPDFに纏めました。(近藤雅雄、2025年9月15日掲載)
PDF:ALA研究とその成果

研究回想3.研究の道しるべ、持続した発見と社会貢献

 教育・研究者として、その業績数は学術論文、著書、国際会議講演、国内学術会議講演、招待講演、特別講演、教育講演、依頼論文、学術報告者、特許、競争的研究費の獲得、学位(学士、修士、博士)研究・論文指導、民間企業研究指導、国家及び地方公務員・留学生への教育・研究指導、新聞・雑誌・報道・テレビ・映画等マスメディアへの出演・執筆依頼、教材など、公開された印刷物などは全部で1,500件を超える。
 学術論文の内、査読付きが238件、その内訳は、英文90件、邦文148件、国際会議論文63件、論文の国際的価値として総インパクトファクター 250以上、引用件数は国内外にておそらく5,000論文前後に至る。査読付きの学術論文は投稿雑誌の編集委員会にて、必ず2名以上の専門家による審査が入り、オリジナリティがあるかどうか、原著論文として適切かどうかなど、厳しく審査される。その結果、reject(却下)か、accept(許可)か、または修正すれば許可する(acceptable、条件付許可)の3つのどれかの判定が著者に送られてくる。したがって、公開された査読付き論文はすべてオリジナリティがある。主な研究成果をPDFに示しました。

 学生時代に立てた目標は30歳までに自分の道を見つけることでした。そこで、猛烈に仕事をして、30歳時までに「骨髄δ-アミノレブリン酸(ALA)脱水酵素インヒビターの発見」、「鉛中毒時の酵素異常の発見とその機序の解明」、そして「晩発性皮膚ポルフィリン症の酵素異常の発見」といった世界で初めてを3つ経験しました。いずれも日々の実験の積み重ねから見出した、まったくの偶然の発見でしたが、これが研究者としての自信につながり、何の抵抗もなく、自然と研究者の道を歩むこととなりました。

 新しき事を見出すということはonly oneになること、number oneではなくonly one にこだわりました。その一つとして、私が経験したのは最も基本的な測定(分析)技術の開発でした。他の研究者が開発した測定法を基本に戻って再検討するとうまくいかない事があることを見出しました。それは、鉛中毒の生体影響の指標として用いられてきたALA脱水酵素活性の測定法は1955年に開発されて以来、現代まで何の疑問・疑いを持たず世界中の研究者によって利用されてきました。その方法を基本に戻って測定し直すと新たな問題が沢山出てきた。そこで、測定法を新たに開発し、実験するとこれまでの定説と異なった新たな発見が次々と成された。この内容については、昔「生化学若い研究者の会」で特別講演を行い、若手研究者の興味を誘いました。

 私は、事を成すにはまず基本に戻って十分に準備をすることが大切で、これが新たな発見に繋がることが多いことを経験しました。気が付けば1,500件以上の業績を出したことは感慨深いことです。21歳時からエネルギーを教育・研究と論文執筆に最大限投入し、1日12時間以上様々な学びの好奇心を持って基礎から応用研究を行なってきました。76歳となった今でも、この「健康・栄養資料室」に論文を書き続けています。学ぶことに最大の価値を置き、新たなonly oneのモノ創りを生涯の仕事として位置付けた自分の人生であり、社会への貢献です。

 また、社会貢献の立ち場からは、これまでに学術研究会と学会の創設と運営、学術雑誌の創設と運営、大学新学部の立ち上げ・運営・教育、医療系専門学校の改革・運営・教育、難病の患者会の創設と運営、日本で初めての指定難病制度の立ち上げに関わることができたことは望外の喜びです。(近藤雅雄、2025年7月18日掲載)
PDF:研究の道しるべ、公開された主な研究成果

先端素材関連物質のポルフィリン代謝系への影響と評価

 先端技術産業の進展は著しく、これら先端技術を支える素材には数多くの物質が検討され、過去にほとんど用いられてこなかった新しい物質が広く利用されるようになりました。とくに、ホウ素族元素化合物ガリウム・ヒ素(GaAs)およびインジウム・ヒ素(InAs)などとして半導体や超伝導物質などとして広く有用されています。さらに希土類元素においてもその特異的な物理化学的特性からその単体および化合物はスマホはじめ先端技術産業における合金、エレクトロニクス、セラミックス、触媒、原子炉材料のほか、磁性や誘導性を利用した超電導物質の素材として、また、医用材料として各種先端機器や人工歯根材料に、さらに、農業用肥料としても広く利用されています。
 これら元素のうち、ヒ素の毒性については古くて新しい問題であるが、いまだに健康障害の機序がはっきりしていないし、その生体影響評価指標も確立されていません。また、先端産業において開発・利用される上記元素化合物については、生物・生体影響が殆どわかっていないものが多い。先端産業によって生産される各種製品はヒトが生活習慣的に接触を受け、最終的には生活環境中へ放出されることから、新たな環境問題も引き起こしかねないという危惧が残ります
 そこで、これらの各種元素や化合物がポルフィリン代謝酵素に及ぼす影響並びに各元素間の生体内相互作用についてin vivo、in vitroの実験を行いました。その結果、この代謝系が鋭敏に影響を受けることを確認し、生体影響指標となることを確認しました。また、ポルフィリン代謝系の感度は良く、低濃度の生体影響指標として有用と思われました。(近藤雅雄、2025年5月10日掲載)
PDF:先端素材とポルフィリン代謝

ポルフィリン代謝を攪乱する多くの無機、有機化学物質

 自然界にはV、Ni、Mg、Cu、Zn、Fe、Coなどと結合した金属ポルフィリンが知られています。V、Niポルフィリンはシアノバクテリアから生産されたと推測されている原油中に多く含まれています。
 Mgポルフィリンは植物のクロロフィルとして、CoはビタミンB12として、また、Zn、Feはプロトポルフィリンと配位して生体内に存在します。Cuとポルフィリンとの結合も親和性が高く、このような無機元素との関りが深い。
 一方で、Pb、Cr、Cd、Sn、As、Hg、Al、Tlなどが体内に侵入すると、それぞれ機序は異なりますが、ポルフィリン代謝系酵素のほとんどがSH酵素であり、その働きを阻害してポルフィリンの代謝異常を引き起こします。したがって、ポルフィリン代謝関連物質の測定は先端産業および工業用に汎用される各種元素の環境および動植物への影響・評価の指標として有用です。
 これまでに、Pb、Cr、Cd、Sn、Mn、As、Hg、Al、Tl、Cu、Fe、Ga、In、Sm、Laやフリルフラマイド(AF2)、ダイオキシンヘキサクロロベンゼン(HCB)、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、セドルミドカルバマゼピンフェンスクシミドDDCグリセオフルビン(GF)、フェノバルビタール、アリル基含有化合物、放射線、X線、アルコール、トリクロロエチレン、などのポルフィリン代謝系への影響がin vivo、in vitroで明らかになっています。(近藤雅雄、2025年5月6日掲載、2025年9月8日更新)
PDF:元素とポルフィリン代謝

猫がアワビの胆を食べて光線過敏症を起こし耳が落ちた

 「和漢三才図会」(正徳3年、1713年)に鳥貝の腸を食べると猫の耳が落ちるという奇妙な記述があります。また、アワビの肝臓を与えると激しいかゆみのため耳をひっかき取ってしまうという報告もありますが、猫ばかりでなくヒトにおいても、「東京医事新誌」(1899年)にアワビの内臓を食べると顔面の浮腫を伴う皮膚炎が生じることが報告されています。また、食品中のクロロフィル分解産物が健康障害を起こすことが知られています。
 これらの理由は1977年になって、クロロフィルがクロロフィラ-ゼという酵素によって分解されたフェオホルバイドaによる光線過敏症であることが明らかにされました。アワビの中腸腺に遠紫外線を暗い部屋で照射すると強い美麗な赤色蛍光を発しますが、これはピロフェオホルバイドaによるものであり、フェオホルバイドaの数十倍の活性を有します。これらは野沢菜漬、高菜漬などの塩蔵漬け菜中にも認められます。紫外線で赤色蛍光を発するのはポルフィリンクロロフィルとその分解物フェオホルバイドなど、意外と多く知られています。
 また、フェオホルバイドは、緑茶やクロレラなどの緑色野菜を加工した食品に含まれる可能性があり、とくに蒸しの浅い玉露や抹茶ではフェオホルバイドの生成量が多いことが報告されています。これらの食品を摂取する際は、量に注意してください。(近藤雅雄、2025年5月5日掲載)

ポルフィリン症の診断法および関連代謝物測定法の将来

 ポルフィリン症の診断は将来的には遺伝子診断が普及し、それに伴って遺伝性ポルフィリン症の簡易的な遺伝子診断法が開発され、現在の新生児マスクリーニング検査の拡大版として普及することを望んでいます。診断が確立されれば、症状発現と代謝異常とが相関しますので、症状の重症度評価並びに予後判定に、ポルフィリン代謝物の測定が必須になってきます。

 また、ポルフィリン代謝によって生産されるヘムは生命の根幹の生化学反応に関わる生命維持に不可欠な色素です。そのため、ポルフィリン代謝関連物質の測定は遺伝性ポルフィリン症だけでなく、後天性のポルフィリン代謝異常症の病態解析や治療および予後判定などに重要な指標となるので、将来的にも測定は必要不可欠です。さらに、ポルフィリン代謝系酵素はさまざまな環境因子によって鋭敏に影響を受けるため、その代謝物の測定感度の高さから微量の検出で評価できますので、放射能や大気汚染物質、医薬品、農薬、有機溶剤、鉛、水銀、タリウム、砒素あるいは希土類元素など各種元素などの各種薬物や環境物質の生体影響の指標としても有用です。

 現在、遺伝子診断並びにポルフィリン代謝物の測定は難解で時間と技術を要し、高価な機器を用いなければなりません。これを安価で、誰にでもできるよう簡素化することができると良いのですが?

 将来、尿、血液、糞便中のポルフィリンや尿中ポルホビリノゲンを検出する試験紙法(例えばpH試験紙やウイルス検出キットのようなもの)などの開発やポルフィリン症の発見率の向上や発症予防・予後判定、及び環境因子の生体影響評価等に応用できるものが開発されることを期待しています。(近藤雅雄、2025年4月26日掲載)

ポルフィリン代謝物の概要:基準値,生理的変動,測定意義等

 ポルフィリン代謝経路はδ-アミノレブリン酸(ALA)からプロトポルフィリン(PP)に二価鉄(Fe2+)がキレートしてヘムが生産されるまでの経路を指します。この代謝には8個の酵素とその代謝産物が発生する。ヘム合成異常はポルフィリン代謝の特徴から障害酵素までの中間代謝物が過剰生産・蓄積し、これが組織の機能を障害するだけでなく、ヘム生産の減少に基づくヘム蛋白の多様な機能に重大な影響を与えます。したがって、ポルフィリン症などのポルフィリン代謝異常症では生体のさまざまな機能障害に基づく、多彩な臨床症状を診るのが特徴で、診断が難しい理由となっています。

 ポルフィリン代謝関連物質の測定はポルフィリン症の確定診断や鉛作業者の職業病検診に重要です。そこで、ポルフィリン代謝関連物質の内、中間代謝産物を中心に、そのプロフィール、基準値、異常値を示す疾患、臨床的意義、検査のすすめ方などに関する諸情報をまとめました。測定(検査)の具体的方法については本資料集「ポルフィリン症の鑑別診断法:生化学診断および酵素診断、2025年4月21日掲載」を参照して下さい。

 民間の臨床検査会社ではポルフィリン代謝産物の検査は需要とコストの関係から行なわれていません。鉛中毒予防規則の一環としてポルフィリン代謝のごく一部の検査が行われているだけです。国内ではポルフィリン代謝産物の分画測定並びに酵素活性の測定は行われておらず、ポルフィリン症の確定診断は不可能です。海外では行われています。また、ポルフィリン症の専門家は極めて少なく、多くの医師はデータに誤りがあっても、その誤りを指摘・確認できないことが多く、診断を困難にしています。そこで、以下の症状などが診られた場合には必ずポルフィリン症を疑い鑑別検査を行うことを勧めます。診断は厚生労働省が出した指定難病ポルフィリン症の“診断基準”に従います。

1.原因不明の光線過敏症で、皮膚露出部に水疱形成、瘢痕形成、色素沈着、皮膚の脆弱性などを診る場合。または日光被曝直後の皮膚の激しい痛み、腫脹、発赤が診られる場合。
2.原因不明の激しい腹痛、嘔吐、便秘(または下痢)、イレウスなどの症状や多彩な神経症状が診られる場合。
3.1と2の両者が混在して診られる場合。
4.肝機能障害と光線過敏症が合併している場合。
5.家族歴がある場合は不顕性遺伝子保有者の早期診断を行う。
 
 ここでは正確な早期診断の実施を期待して、民間検査機関(殆どが米国の検査会社に外注している)が行っているポルフィリン代謝関連物質の測定項目を中心に、その意義を以下のPDFにまとめました。なお、鉛作業者の場合は労働安全衛生法による鉛中毒予防規則に従って測定します。(近藤雅雄、2025年4月25日掲載)
PDF:ポルフィリン代謝産物の概要:測定とその意義

ポルフィリン尿症:鉛中毒のポルフィリン代謝異常と臨床

 鉛が生体に及ぼす影響として最も鋭敏なのがポルフィリン代謝です。鉛中毒では貧血や疝痛、神経症状など急性ポルフィリン症と類似の中毒症状をきたしますが、急性ポルフィリン症と治療法が異なることから両者の鑑別診断が重要となります。
 鉛によるポルフィリン代謝異常は造血系、肝、腎などで認められています。鉛の生物学的曝露指標として血液中鉛量(Pb-B)や尿中ALA、赤血球プロトポルフィリン(PP)、δ-アミノレブリン酸脱水酵素(ALAD)が用いられます。ALAD活性は他の指標に比して低濃度鉛曝露の評価には有効ですが、Pb-Bが40µg/dlを超える場合は指標にならず、労働衛生現場での鉛健診には用いられていません。また、Pb-Bが40~50µg/dlから血液中亜鉛プロトポルフィリン(ZP)、尿中δ-アミノレブリン酸(ALA)、コプロポルフィリン(CP)Ⅲの著明な増量がみられます。
 慢性・亜急性中毒では、無痛性の伸筋麻痺、視力障害、握力減退、手指の振戦、筋肉痛、関節痛、貧血を生じ、高濃度の場合は鉛蒼白、鉛縁が見られます。Pb-Bが80µg/dl以上では造血系障害として鉛貧血、好塩基性斑点赤血球、鉄芽球が出現します。急性中毒では興奮や不安、食欲不振、頭痛、意識障害を認め、150µg/dl以上で疝痛や嘔吐が認められます。鉛中毒の特徴的な末梢神経症状として神経筋症状や手首の伸筋麻痺(鉛麻痺)による下垂手(落下手)があります。下垂手は急性ポルフィリン症では診られません。
 鉛中毒ではCPⅢとペンタカルボキシルポルフィリン(PENTA)Ⅰが過剰に排泄されるのが特徴であり、他の遺伝性ポルフィリン症と異なったパターンを示します。(近藤雅雄、2025年4月19日掲載)
PDF:鉛中毒のポルフィリン代謝異常と臨床

紫外線(UV)照射によるポルフィリンからの活性酸素の発生

 標準ポルフィリンに紫外線を照射し、発生する活性酸素ラジカルの種類およびその量をESR(電子スピン共鳴装置)にて検討しました。その結果、酸性条件での発生は少なく、中性条件下での多くの発生を確認しました。すなわち、ヒドロキシルラジカル(・OH)はウロポルフィリン (UP)ⅠおよびⅢ型が、一重項酸素(1O2)はコプロポルフィリン(CP)ⅠおよびⅢ型に多く、スーパーオキシドラジカル(O2-)はプロトポルフィリン(PP), CPⅠ、UPⅠからの発生が認められました。
(出典:市川勇、近藤雅雄:ポルフィリン2(2):93-102,1993.フリーラジカルとポルフィリン代謝に関連する皮膚の老化機構解明に関する基礎的研究コスメトロジー研究報告Vol4/‛96:58-65,1996.)




(近藤雅雄、2025年3月30日掲載)

ポルフィリンの分析とその代謝異常症診断の同時自動化

 ポルフィリン代謝異常症の診断には血液、尿及び便中のポルフィリン測定が不可欠です。しかし、国内ではこの測定を行っている検査会社がありません。その理由は、ポルフィリン代謝異常症の患者数が少なく、測定依頼数が少ないのが原因です。筆者が研究室を持っている時には国内外の検査はほとんど診断・治療目的で筆者が測定を行っていましたが、退職すると同時に測定機関は無くなりました。現在、ポルフィリン症をはじめ多くのポルフィリン代謝異常症の診断が困難な状態です。

 筆者らは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いたポルフィリン代謝産物の分析法を確立し、分析データとコンピューター解析を利用して世界で初めて8病型の遺伝性ポルフィリン症を自動鑑別診断できる方法を開発しました(特許番号:第2657345号(1992年9月24日))。この内容は1993年1月元旦、日刊工業新聞の朝刊一面に「HPLCとコンピューター利用、簡単に鉛中毒診断」と題して紹介されました。
 このシステムを用いるとポルフィリン症の鑑別診断は勿論のこと、Dubin-Johnson症候群などの肝疾患、鉛、ヒ素、水銀、タリウム、ダイオキシンなどによる化学物質中毒症、溶血性貧血症、鉄芽球性貧血症などの血液疾患など、ポルフィリン代謝異常を起こす疾患の診断を高い確率で決定するだけでなく、これら疾患の病態解析・治療法の確立にも重要です。治療できたかどうかの判定指標になるのです。今後、早期に測定の復帰が成されることを願っています。以下のPDFの自動診断法を参照して下さい。(近藤雅雄、2025年3月26日掲載)
PDF:ポルフィリン代謝異常症における自動診断法

忘れてはいけない新型コロナウイルス感染とパンデミック

 2019年12月以降に中国武漢市で発生した新型コロナウイルスによる感染症が大流行、世界を震撼させました。世界保健機構(WHO)は新型コロナウイルスをCOVID-19と命名し、2020年3月11日、「新型コロナウイルスはパンデミックとみなすことができる」と宣言しました。
 このパンデミックからクラスターという言葉が初めて使われました。集団感染に移行することから個人と個人の距離を十分に開ける政策、アクリル板で遮断する対策、喚起、アルコールによる手指の消毒、マスクの着用が当たり前となり、習慣化しました。
 多様なイベント(スポーツやコンサートなど)では大声を出さない、マスクの着用、人数規制などさまざまな対策が施され、典型的なのが2021年の東京オリンピックです。無観客となり、これまでのオリンピックの景色を一変させました。
 このパンデミックの原因、推移、行政対応等は風化させることなく、次代に引き継いでいかないといけません。ここでは①新型コロナウイルス発生の疑義、②迷走する診断法と疫学、③迷走する治療法、④各国の感染対策と予防、⑤わが国の行政対応、⑥教育の現場と社会の混乱、⑦パンデミックの収束、⑧パンデミックその後、公衆衛生の重要性などについて記録しました。以下のPDFを参照して下さい。(近藤雅蘇、2025年3月20日掲載)
PDF:忘れ得ぬ新型コロナウイルス

ヘムを中心とした細胞・組織内活性酸素除去システムとは

 意外と知られていないのが生体の「三原色」です。例えば怪我などで皮下内出血したときに、まず「赤色のアザ」ができますが。時間が経つと「青色のアザ」となり、最後に「黄色」となって消えていきます。この色の変化に興味を持ちました。この3つの変化はストレスによっても組織で起こることが分かりました。この黄色い色素はビリルビンといって細胞を各種ストレスから守っていたのです。
 今日、私たちの普段の生活から多様なストレスを受け、細胞内に活性酸素が発生します。この活性酸素はヘム分解酵素遺伝子を発現し、ヘム分解酵素(ヘムオキシゲナーゼ,HO-1)を誘導し、赤い色素“ヘム”を分解して青い色素“ビリベルジン”を生産します。このビリベルジンは還元酵素によって黄色い色素“ビリルビン”に変わります。実は、このビリルビンが細胞内の活性酸素を除去し、細胞を活性酸素から守っていたのです。これまで、ビリルビンは黄疸の原因物質として悪者扱いでしたが、実は大変重要な働きをしていたのです。その他、ヘム蛋白であるカタラーゼやペルオキシダーゼも活性酸素を分解する酵素として有名です。この壮大な活性酸素除去システムが、ヘムを中心として行なわれていたのです。
以下のPDFを参照ください。(近藤雅雄、2025年3月12日掲載)
PDF:ヘムを中心とした細胞・組織内活性酸素除去システム

生命の根元物質,「ポルフィリン・ヘム」の生化学と諸情報

 3.11、東日本大震災から14年。被災された方々並びに関係者にこころよりお見舞い申し上げます。決して風化することのないよう、次世代に伝えてまいります。1日でも早い復興とご健勝を祈っています。

 原油中のポルフィリン類は、生命の起源と関係していると推測されています。その構造は実に頑丈で巨大、しっかりしています。これが細胞内の酵素反応で簡単に生産され、酸素の運搬と貯蔵、酸化還元反応、エネルギーの生産、活性酸素の分解、薬物代謝など、生命維持及び働きの根幹に関わる働きをしています。今回は、このポルフィリンの生化学についての情報をまとめました。

 ポルフィリンは4個のピロールが4個のメチン橋(-CH=)で結合した環状化合物の総称です。26個のπ電子共役系におけるπ電子の遷移に基づいて、紫外~可視波長領域に強い吸収スペクトルを持つ赤色物質で、波長400m付近(Soret帯、吸収極大)の遠紫外線照射により美麗な赤色蛍光を発します。
 ポルフィリン類は長い進化の過程を経て、広く動植物界に分布しています。その大部分は遊離の形ではなく、Fe(ヘム)、Mg(クロロフィル)、Co(ビタミンB12)などのように特定の金属をキレートし、さらに特定の蛋白質と配位的に結合した形で、酸素の着脱や光合成でのエネルギー生産、変換という生命現象の根幹反応に関与しています。
 遊離のポルフィリンおよびその前駆体はこれらが生合成されるときの中間体であり、体内での存在量は極めて微量です。しかし、ポルフィリン症や鉛中毒などのポルフィリン代謝に関わる酵素障害によって体内に著しく増量・蓄積します。(近藤雅雄、2025年3月11日掲載)

 ここでは、「ポルフィリン・ヘムの生化学」として
  1.ポルフィリンの化学構造と命名法
  2.ヘムの化学
  3.ポルフィリンの美麗な赤色蛍光
  4.ポルフィリンの一般的性質
  5.ヘム生合成中間体
  6.ポルフィリンの前駆体
について以下のPDFに記述しました。
PDF:ポルフィリン・ヘムの生化学

人類の健康に貢献した元「国立公衆衛生院」の復活を願う

 元国立公衆衛生院は米国ロックフェラー財団の全額寄付によって建立され,昭和13(1938)年3月29日勅令第147号公衆衛生院管制の公布をもって厚生省の創立(1938年1月11日)に遅れること2か月余りの後に同省の直轄機関として設立されました。設立には野口英世が深く関与した記録があります。
 本院はわが国の公衆衛生の向上を期するため,国および地方公共団体などにおける衛生技術者の資質の向上を図るための養成訓練と公衆衛生に関する学理の応用の調査研究を司る教育・研究機関として設置されました。そして、わが国の保健・医療,福祉,環境の分野で多大な貢献をしてきました。
 平成7(1995)年、厚生省は「日本は近代国家として,公衆衛生の時代は終わった」とし,公衆衛生という言葉が省内から消えました。平成14(2002)年4月,旧厚生省は厚生労働省となり,試験研究機関の再編成によって64年という短い歴史を閉じました。
 今、世界は、新型感染症の到来、ロシアによる侵略戦争、地球温暖化など、安心安全な平和社会からどんどん遠ざかっているように見えます。このような時代にこそ、人類の健康に貢献する国立の公衆衛生院が必要とされているのではないでしょうか。先進国では国立の公衆衛生院は国家の中心的役割を果たしています。しかし、日本では残念ながら2002年に無くしてしまいました。
 日本の未来のために、元国立公衆衛生院の復活を期待したい。
(写真は元国立公衆衛生院、平成15(2003)年1月29日,筆者撮影)(近藤雅雄、2025年3月10日掲載)
PDF:元国立公衆衛生院

公害認定に関わる慢性砒素被曝者の症状と新たな生体指標

本原稿は、専門誌「ポルフィリン」7巻1号:51-57頁,1998年7月に掲載された筆者らの論文「慢性砒素被曝経験者のポルフィリン代謝異常」を修正して掲載しました。

 某国立大学附属病院にて、某県にあった「某砒素(As)鉱山」地域で生まれ育った38歳女性(A氏)が23年前に常染色体優性遺伝の急性間歇性ポルフィリン症(AIP)と診断され、兄もその病気で死亡したと伝えられていた。その後、A氏は妊娠を希望し、某私立医科大学附属病院に相談し、病気の発症予防のための管理を依頼した。そこで、病院より病状把握のため血液、尿、糞便を採取し、筆者にポルフィリン代謝関連物質の検査を依頼されました。
 その結果、生化学および酵素診断によって、20年以上経って初めてAIPではないことが判明しました。同時に、砒素中毒に特異的な、新たなポルフィリンの代謝異常を見出しました。その原因を究明するためにA氏の家族歴、生活習慣・環境因子などの調査を行いましたところ、砒素被曝経験(中学卒業迄の15年間、鉱山地域の井戸水を飲用していた)があることが分かりました。そこで、同じ地域に住む2名を加え、合計3名のポルフィリン代謝について検討した結果、その代謝異常が砒素中毒に特異的であったことから、慢性砒素中毒の新たな生体指標となることが推測されました。(近藤雅雄:2025年2月26日掲載)
PDF:砒素中毒における新たな生体指標

多発する群発地震:東日本大震災と福島原発事故からの教訓

 日本列島を揺るがす大きな地震が多発しています。昨年(2024年)は能登半島地震が発生し、地域を混乱へと導きました。東北大震災では福島原子力発電所の爆発事故があり、現在もなお放射能汚染によって住むことができません。そして、未だに大地震を経験していない人々にとっては現実的ではありませんが、喫緊の問題として首都直下型地震南海トラフ地震に対する防災準備があります。これらの地震が今後30年で70(~80)%近くの確立で発生すると予測されています。歴史は繰り返します。
 地震の予知は未だに困難だし、異常気象の解明も進んでいません。今は世界中の英知を集めて、多様な生物が唯一存在する地球の活動と環境を明らかにし、この美しい地球を次代に引き継ぐべく取組まなければいけない重要な時代にあると思います。人類が住むたった一個の地球上で侵略や戦争、地下資源の奪い合い、泥棒等、社会を混乱・恐怖に陥れる行為をしている場合ではないのではないでしょうか。世界中のリーダーは世界の平和と発展、地球環境の保全に真剣になって貢献してほしいと心から願います。そして、地震に対しては、明日来るかわからない今日、いつ来ても対応できる知識と防災を整えておきたい。(近藤雅雄、2025年2月25日掲載)
PDF:B5,東日本大震災と福島原発事故からの教訓

鉛中毒の新たな国際問題と中毒発症・病態及び生化学機序

 鉛は、採鉱、精錬、成型が簡単であったため古代から生活必需品として有用されてきました。ローマ帝国時代には、水道管、陶器用、化粧品、外用薬、塗料、料理用鍋類、食物用容器、酒の貯蔵などに使用されました。このため鉛中毒が多発し、ローマ文明は衰退したといわれています。
 1994年、ベートーベンマニアがロンドンのサザビーでベートーベンの遺髪数本を7,300ドルで落札し、その内の2本を米国のウォルシュ博士に解析依頼した結果、通常量の100倍多い鉛が検出されました。彼の死因は長い間、梅毒死亡説が有力であったのですが、鉛の検出によって、肺炎治療に処方された鉛含有薬剤が原因で肝硬変を併発し、鉛中毒で死亡したと思われるようになりました。
 鉛中毒は急性ポルフィリン症と似て、消化器症状、精神神経症状、造血障害、腎障害など多彩な症状を呈し、生命にかかわる重大な疾患です。2020年07月31日、国連は世界の子ども3人に1人が鉛中毒であると警鐘を発しました。世界中で最大8億人の子どもが、水質・大気汚染が原因で鉛中毒になっていると警告する特別報告書を30日、国連児童基金(ユニセフ)が発表しました。
以下、下記の論文PDFを参照して下さい。(近藤雅雄、2025年2月24日掲載)
PDF:鉛中毒の新たな問題と生化学

大学教養講座「人間と自然・地球環境」に関する基本的話題

 地球上に人類が誕生して以来、近年の急速な人間文明の進歩、産業・科学技術の発達が人間生活に多様な利便性、合理性を与えるようになった反面、私たちの住む地球環境に、本来持っている自浄作用、維持能力を超えた様々な弊害(地球環境問題)をもたらすようになりました。
 私たちにとってかけがえのない地球環境に与える直接的、間接的な原因等、環境影響の度合いは様々です。今やそれらの原因の中から、人間と自然・地球環境とのかかわりを学び、この美しい地球を次代に引き継ぎ、人類の持続可能な文明・社会を形成していくための方策を、具体的に自分の課題として考える時代に突入している。
内容は以下のPDF参照。(近藤雅雄、2015年9月20日掲載)
PDF:人間と地球環境

人口減少を抱える日本の深刻な問題「地球人口と日本」

 地球に住む人間の数は、1950年に25億2,935万であったのが、2000年には2.4倍の61億1,537万人、2050年には91億4,998万人(2010年69億869万人)と年々増加しています。しかし、日本では諸外国に比して、減少しています。
 人口問題として、人口の増加は食糧問題、飲料水問題、住む土地の狭小などの侵略の問題、貧困などの格差の問題、地球温暖化、公害、地球資源劣化などの地球環境の問題など、多くの問題を抱えています。一方、人口の減少は国の経済力の低下や防衛の脆弱性や易侵略性を抱え、国として大きな問題です。以下のPDFを参照して下さい。(近藤雅雄、2015年9月9日掲載)
PDF:地球と日本と人口

「人間と地球環境」地球規模的な研究と改善が必要な問題

 生物がこの地球に誕生して以来、気の遠くなるような長い時間をかけて地球環境のもたらす様々な変化に適応・順化し、今日の人間を中心とした文明社会を築き上げてきました。しかし、この百年単位の短い期間で先進国における大量消費、大量破壊型の社会構造、途上国における爆発的な人口増加、急激な都市化・工業化などによって私たちの住む恵の地球環境が大きく変貌しようとしています。いわゆる地球環境問題として、オゾン層の破壊、地球の温暖化、酸性雨など越境大気汚染、海洋汚染(地球規模の化学物質汚染を含む)、自然資源の劣化(熱帯林の減少、生物の多様性の減少、砂漠化など)など生物の生命に直接関わる深刻な問題が多数発生していますが、これらはすべてお互いに関連し合っています。 以下のPDFに原稿を掲載しました。(近藤雅雄、2015年9月5日掲載)
PDF:人間と地球環境問題