研究回想3.研究の道しるべ、持続した発見と社会貢献

 教育・研究者として、その業績数は学術論文、著書、国際会議講演、国内学術会議講演、招待講演、特別講演、教育講演、依頼論文、学術報告者、特許、競争的研究費の獲得、学位(学士、修士、博士)研究・論文指導、民間企業研究指導、国家及び地方公務員・留学生への教育・研究指導、新聞・雑誌・報道・テレビ・映画等マスメディアへの出演・執筆依頼、教材など、公開された印刷物などは全部で1,500件を超える。
 学術論文の内、査読付きが238件、その内訳は、英文90件、邦文148件、国際会議論文63件、論文の国際的価値として総インパクトファクター 250以上、引用件数は国内外にておそらく5,000論文前後に至る。査読付きの学術論文は投稿雑誌の編集委員会にて、必ず2名以上の専門家による審査が入り、オリジナリティがあるかどうか、原著論文として適切かどうかなど、厳しく審査される。その結果、reject(却下)か、accept(許可)か、または修正すれば許可する(acceptable、条件付許可)の3つのどれかの判定が著者に送られてくる。したがって、公開された査読付き論文はすべてオリジナリティがある。主な研究成果をPDFに示しました。

 学生時代に立てた目標は30歳までに自分の道を見つけることでした。そこで、猛烈に仕事をして、30歳時までに「骨髄δ-アミノレブリン酸(ALA)脱水酵素インヒビターの発見」、「鉛中毒時の酵素異常の発見とその機序の解明」、そして「晩発性皮膚ポルフィリン症の酵素異常の発見」といった世界で初めてを3つ経験しました。いずれも日々の実験の積み重ねから見出した、まったくの偶然の発見でしたが、これが研究者としての自信につながり、何の抵抗もなく、自然と研究者の道を歩むこととなりました。

 新しき事を見出すということはonly oneになること、number oneではなくonly one にこだわりました。その一つとして、私が経験したのは最も基本的な測定(分析)技術の開発でした。他の研究者が開発した測定法を基本に戻って再検討するとうまくいかない事があることを見出しました。それは、鉛中毒の生体影響の指標として用いられてきたALA脱水酵素活性の測定法は1955年に開発されて以来、現代まで何の疑問・疑いを持たず世界中の研究者によって利用されてきました。その方法を基本に戻って測定し直すと新たな問題が沢山出てきた。そこで、測定法を新たに開発し、実験するとこれまでの定説と異なった新たな発見が次々と成された。これについては、「生化学若い研究者の会」で特別講演を行い、若手研究者の興味を誘いました。

 私は、事を成すにはまず基本に戻って十分に準備をすることが大切で、これが新たな発見に繋がることが多いことを経験しました。気が付けば1,500件以上の業績を出したことは感慨深いことです。21歳時からエネルギーを教育・研究と論文執筆に最大限投入し、1日12時間以上様々な学びの好奇心を持って基礎から応用研究を行なってきました。76歳となった今でも、この「健康・栄養資料室」に論文を書き続けています。学ぶことに最大の価値を置き、新たなonly oneのモノ創りを生涯の仕事として位置付けた自分の人生であり、社会への貢献です。

 また、社会貢献の立ち場から、これまでに学術研究会と学会の創設と運営、学術雑誌の創設と運営、大学新学部の立ち上げ・運営・教育、医療系専門学校の改革・運営・教育、難病の患者会の創設と運営、日本で初めての指定難病制度の立ち上げに関わることができたことは望外の喜びです。(近藤雅雄、2025年7月18日)

PDF:研究の道しるべ、公開された主な研究成果

研究回想:私の人生を懸けたポルフィリン症研究への思い

概 要
 人生にて、興味を持ち続けた研究テーマは、①生物の根源物質ポルフィリン・ヘム生合成の調節機序に関する研究、②ライフステージにおける栄養素の研究、③環境因子の生体影響およびその指標作成に関する研究、④再生医学に関する研究、そして⑤自然・地球環境に関する研究の5テーマでした。すなわち、人間が生きて行く上で不可欠な「保健」,「医療」,「環境」に関する研究を常に注目してきました。
 このうち、①のポルフィリン代謝(ヘム生合成)の調節機序に関する研究を始めたのは学生時代の21歳、1970年です。当時、ポルフィリン症は散発的な症例報告はあるものの、臨床統計や疫学データがなく、診断のための検査法、診断基準、発症機序、治療法も未確立でした。しかも希少疾患ということで、医療従事者の間でもほとんど知られていない病気でした。
 1980年代、ポルフィリン症の発症および再発の防止、患者のQOL向上と健康寿命の延伸を期して、患者の会「全国ポルフィリン代謝異常症患者の会(さくら友の会)」や学術研究組織「ポルフィリン研究会」を創設しました。研究会では、ポルフィリンに関する研究成果を学術研究論文誌「ポルフィリン,Porphyrins」(国会図書館寄贈)を季刊定期発行雑誌として刊行しました。
 そして、本格的に診断法の開発、発症機序解明などの一連の研究活動を行い、1990年代から2000年までには各病型の発症機序、鑑別確定診断法、診断基準、臨床統計などの研究をほぼ完成させました。
 そして、2013年には患者会協力のもと、急性ポルフィリン症治療薬の未承認薬「ヘミン製剤」の認可を得、保険適用となり、急性ポルフィリン症の治療の道が広がりました。さらに、2015年、指定難病制度が法律として新たに立ち上がると同時に、ポルフィリン症が指定難病として承認されました。厚生労働省元職員として嬉しく思うと同時にポルフィリン症に対する思いを叶えました。
 ここでは、「ポルフィリン症研究への思い」として以下のPDFにまとめました。(近藤雅雄、2025年5月20日掲載)

PDF:ポ症研究への思い:概要

急性ポルフィリン症の精神症状に対する昔の治療法と今

 指定難病ポルフィリン症の中で、急性ポルフィリン症は腹痛・嘔吐などの消化器症状で急性発症し、四肢のしびれ・脱力などの末梢神経障害を伴う遺伝性の疾患です。腹痛はほとんど必発で激しいわりに圧痛・デファンスなど他覚的所見に乏しく、イレウスやヒステリーと誤診されることが多いことが報告されています。神経症状は、末梢神経障害がほぼ必発で四肢のしびれ・脱力などからギランバレー症候群などと、また、意識障害・痙攣などの中枢神経症状や不穏・うつ症・せん妄・幻覚など精神症状を来すことから統合失調症と、それぞれ誤診されることが多いことが報告され、その誤診率は平均67%です。私が研究を始めた1970年頃は発症後の致死率は90%以上で、何人かの患者さんは、親は「気がふれて死んだ」と言っていました。国内患者数の70%以上の患者さんを診てきた私はこの「気がふれて」が気になって本症の病因解明、早期診断法、治療法の開発などの研究を行なってきましたが、2000年以降の致死率は0となりました。
 一方、統合失調症や双極性障害、急性ポルフィリン症などの精神症状に対する治療法は、1950年代に精神神経安定剤クロルプロマジンが発見されてから大きく変わりました。それ以前は、瀉血療法、水責め療法と旋回椅子療法、発熱療法、インスリン・ショック療法、カルジアゾール痙攣療法から電気痙攣療法など現代では信じられない非科学的で驚くべき身体的療法などが行われていたようです。しかし、この中で、瀉血療法は肝臓に鉄が沈着・蓄積する晩発性皮膚ポルフィリン症などでは鉄除去を目的とした治療として現代でも用いられています。

瀉血療法
 瀉血とは患者さんの静脈を切開して血液を抜く「血抜き」で、18世紀以前に行われていた療法です。血液量が減少すれば血圧は下がり、めまい・ふらつき・意識レベル低下などが起こり、大人しくなるのは当然です。似たような療法で大量の下剤や嘔吐剤を飲ませることも行われていました。これは下痢・嘔吐による脱水のため電解質バランスが崩れ、見かけ上大人しくなっただけです。これらの療法は現在行われていません。しかし、瀉血療法はヘモクロマトーシス、慢性C型肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎や晩発性皮膚ポルフィリン症(肝組織には鉄沈着、脂肪変化、壊死、慢性の炎症性変化および繊維化が見られ、肝硬変および肝細胞癌を起こすことがある)などの鉄過剰症における鉄除去を目的とした有効で安価な方法として適用されています。

 過去に精神科で行われていた驚くべきさまざまな治療法が知られていますが、精神疾患はそれほど謎の多い病気であったことを伺い知ることができます。それが、1952年にクロルプロマジンが開発されてから現在に至るまでに新しい向精神薬、抗うつ薬、抗不安薬が次々と開発され、精神疾患の治療法が大きく変わりました。そして、精神医学は精神薬理学、精神病理学、神経病理学、神経化学、遺伝子学、再生医学など、脳科学の著しい発展により新たな領域へと展開しています。なお、クロルプロマジンは急性ポルフィリン症の疼痛、有痛性のしびれ、不眠などに対する治療薬として広く用いられてきましたが、現在は禁忌薬として分類されています。(近藤雅雄、2025年5月16日掲載)

文 献
1.越智和彦 (1959) 精神分裂病の身体療法と予後について、脳と神経11(9):749-763.
2.天野直二(2015)精神医学における創造性について~歴史を踏まえて~、信州医誌63(1):3-7.
3.近藤雅雄(1995)日本臨牀 特集 ポルフィリン症、日本臨牀社.
4.Solomon H Snyder (1990) 脳と薬物、東京化学同人.

鉄芽球性貧血のALA合成酵素(ALAS2)活性とポルフィリン代謝異常

 鉄芽球性貧血は,血清鉄,フェリチンおよびトランスフェリン飽和度の高値と環状鉄芽球(核周囲に鉄で満たされたミトコンドリアを伴う赤芽球)の存在を特徴とする多様な一群の貧血疾患である。遺伝性鉄芽球性貧血と後天性鉄芽球性貧血に大別される。最も頻度の高い遺伝性鉄芽球性貧血はX連鎖性鉄芽球性貧血(XLSA)で、現在までに100種類程度のδ-アミノレブリン酸合成酵素(ALAS2)の変異が確認され指定難病(286)に認定されている。鉄-硫黄クラスター形成不全などにより、ミトコンドリアでの鉄代謝に異常が生じ、ALAS2活性の著明な低下によるヘム合成不全を起こす。
 われわれは鉄芽球性貧血患者46例のポルフィリン代謝について検討した。その結果、ALAS2活性の低値に対してポルホビリノゲン脱アミノ酵素(PBGD)活性の高値等の酵素異常とポルフィリン代謝物の異常、とくにプロトポルフィリンの増量を見出した。さらに、遊離赤血球プロトポルフィリン(FEP)量が1mg/dl RBC以上を示した4例の患者には指定難病ポルフィリン症(254)の一病型である赤芽球性プロトポルフィリン症(EPP)と同様の皮膚の光線過敏症を合併していることを見出した。
 そこで、ALAS2活性の低下にも関わらず、FEPが増量することに注目し、FEP値の変化と他のポルフィリン代謝関連因子、肝機能、血液検査データとの相関関係を追及した。その結果、FEPとALAS2活性およびフェロキラターゼ活性には有意な相関(p<0.05)が認められた。また、ALAS2活性とアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)(p<0.01)およびASTとフェリチン、血清鉄(p<0.05)に有意な相関を認めた。さらに、因子分析の結果、FFPの変化が、尿中δ-アミノレブリン酸(ALA)、ウロポルフィリン、コプロポルフィリン(CP)Ⅰ、CPⅢ、ALAS2活性、網状赤血球数、フェリチン、AST、ALT、平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)の変化と関連性のあることが明らかとなった。とくにFEPの変化はフェリチンとMCHの関連性が大きいことが示唆された。さらに、ASTやALTにも関連性も見出されたので、ALAS2活性の異常は赤芽球内鉄代謝、肝機能および肝内ポルフィリン代謝との関連性が示唆された。
 さらに、最近ALAS2活性およびFEP量の両者が異常高値を示し、EPPと同様の皮膚光線過敏を診る新しい型の遺伝性ポルフィリン症、X連鎖優性プロトポルフィリン症(XLPP)が見出されたが、ALAS2活性の上昇並びに本研究にて示したALAS2活性の減少の両者においてFEPの増量を見ることは興味深く、各種赤血球造血性疾患の病態機序を追及する上で重要な知見と思われる。(論文:近藤雅雄、網中雅仁:ALA-Porphyrin Science 2(1,2)19-26.2013から引用した)(近藤雅雄、2025年5月11日掲載)

PDF:鉄芽球性貧血とポルフィリン代謝論文

本邦36例目の先天性赤芽球性ポルフィリン症の症例報告

尿中ポルフィリン分析によって確定診断されたCEP

 指定難病ポルフィリン症急性ポルフィリン症皮膚ポルフィリン症に分類される。先天性赤芽球性ポルフィリン症(CEP)は1911年にGüntherによって報告されて以来、世界で約200 例しか報告されていない極めて稀な疾患である。遺伝形式は常染色体劣性遺伝であり、9病型から成るポルフィリン症の中で最も激烈な皮膚光線過敏症を呈する難治性疾患である。本邦では1920年にはじめて東北で報告されて以来、2010年までに35例しか見出されていない
 CEPはウロポルフィリノゲンⅢ合成酵素遺伝子の異常によって、本酵素の活性が正常の2~20%に減少しているため、生体内では利用されないⅠ型ポルフィリンの過剰生産・蓄積・排泄が起こり、その結果、皮膚症状をはじめとする多彩な症状が出現する。われわれは、高速液体クロマトグラフィーを用いたポルフィン異性体分析法を新規開発し、元慈恵医科大学皮膚科、上出良一教授(現在、ひふのクリニック人形町院長)より皮膚ポルフィリン症が疑われた患者の検査依頼があり、尿中ポルフィリン解析によって、36例目の新たなCEP患者を見出した。詳細は以下のPDFを参照されたい。

 現在、日本国内の臨床検査会社ではポルフィリンの異性体分析が行われていない。したがって、これら疾患の診断が困難な状況が長年続いている。例えば、Dubin-Johnson症候群では測定5分以内で尿中のコプロポルフィリンの1型とⅢ型異性体の比率が正常と逆転する(文献:近藤雅雄ほか、医学のあゆみ、144(7)631-632,1988)ことから、確定診断可能であるが、筆者が厚生労働省を退職した2007年以降測定の報告はない。診断に重要な検査であり、早急な整備が望まれる。(近藤雅雄、2025年5月8日掲載)

PDF:先天性赤芽球性ポルフィリン症症例

ポルフィリン代謝を攪乱する多くの無機、有機化学物質

 自然界にはV、Ni、Mg、Cu、Zn、Fe、Coなどと結合した金属ポルフィリンが知られている。V、Niポルフィリンはシアノバクテリアから生産されたと推測されている原油中に多く含まれている。
 Mgポルフィリンは植物のクロロフィルとして、CoはビタミンB12として、また、Zn、Feはプロトポルフィリンと配位して生体内に存在する。Cuとポルフィリンとの結合も親和性が高く、このような無機元素との関りが深い。
 一方で、Pb、Cr、Cd、Sn、As、Hg、Al、Tlなどが体内に侵入すると、それぞれ機序は異なるが、ポルフィリン代謝系酵素のほとんどがSH酵素であり、その働きを阻害してポルフィリンの代謝異常を引き起こす。したがって、ポルフィリン代謝関連物質の測定は先端産業および工業用に汎用される各種元素の環境および動植物への影響・評価の指標として有用である。
 筆者らは、Pb、Cr、Cd、Sn、Mn、As、Hg、Al、Tl、Cu、Fe、Ga、In、Sm、Laやフリルフラマイド(AF2)、ダイオキシンヘキサクロロベンゼン(HCB)、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、セドルミドカルバマゼピンフェンスクシミドDDCグリセオフルビン(GF)、フェノバルビタール、アリル基含有化合物、放射線、X線、アルコール、トリクロロエチレン、などのポルフィリン代謝系への影響をin vivo、in vitroで明らかにしてきた。酵素障害について下記のPDF参照。(近藤雅雄、2025年5月6日、掲載)

PDF:元素とポルフィリン代謝

急性ポルフィリン症とジョージⅢ世:Royal Malady(国王の病気)

 1968年、Macalpineらは英国のジョージⅢ世(写真1738-1820)の病因追及および血縁調査を行い、近世ヨ-ロッパのスチュワ-トハノ-バ、およびプロシアの三大王家の共通の病状を確認し、国王の病気(Royal Malady)と呼んだ。その病状は激しい腹痛に始まり、便秘、嘔吐、四肢の疼痛と脱力が起こり、さらに頻脈、発汗障害、しわがれ声、視力障害、嚥下障害、不眠症、高い興奮性、めまい、頭痛、振戦、昏迷、そして痙攣が引き続いて起こるという一連の腹部、神経、循環器症状および皮膚光線過敏症など多彩な症状がみられたという。また、これらの症状が不定期に憎悪と寛解を繰り返していたということ、さらに赤色尿の記述から、現在医学の知識に照らしてみると彼らの病気はプロトポルフィリノゲン・オキシダ-ゼ(PPO)の異常症である多様性ポルフィリン症(VP)と推測される。米国市民革命の原因となった茶税賦課の決定はジョージⅢ世のポルフィリン症の発作中であったと推定されている。国王・貴族の病気を風刺した演劇が多数知られている。

 日本で1997年11月22日(土)に公開された1994年制作の英国の映画、『英国万歳!』(The Madness of King George)を新宿の映画館で見ました。約2時間でしたが、医学的に大変勉強になりました。内容は、18世紀に起きた実話を基に、国王の“ご乱心“をめぐる悲喜こもごもを活写した痛快な作品。錯乱と奇行を繰り返す王様、慌てる側近、王位を狙う皇太子らの騒動が描かれていく。ポルフィリン症は、日本では2015年に指定難病となりました。(近藤雅雄、2025年5月5日掲載)
PDF:国王の病気

赤芽球性プロトポルフィリン(PP)症とX連鎖優性PP症との鑑別

 赤芽球性プロトポルフィリン症(EPP)とX連鎖優性プロトポルフィリン症(XLPP)は骨髄赤芽球細胞内におけるポルフィリン・ヘムの合成障害として、指定難病ポルフィリン症に認定されている。
 両者はともに血液中のプロトポルフィリン(PP)の増加が起こり、臨床像もほぼ同じである。いずれも乳幼児期に発症し、日光に曝露すると掻痒感または灼熱感伴う皮膚疼痛を呈する。晩年には胆石が良く見られる。疼痛を伴う光線過敏症を有し水疱形成や瘢痕化を認めない小児および成人ではEPPおよびXLPPを疑う。小児に胆石がみられる場合は,EPPおよびXLPPの鑑別を目的とした検査を実施する。
 両者の鑑別はヘム合成の最初の赤芽球δ-アミノレブリン酸合成酵素(ALAS2)の遺伝子異常があるかどうかによって決まる。そして、酵素活性および生化学診断を行うことによって病態把握が可能である。
1.赤血球中および血漿中のPP測定
 赤血球中および血漿中のPP値の上昇が認められれば診断が確定する。また赤血球PPのFP(赤血球遊離プロトポルフィリン)およびZP(亜鉛結合プロトポルフィリン)分画測定を行う。EPPではFPの比率は85%を超える。15%超のZPの存在はXLPPを示唆する。
2.酵素活性の測定
 骨髄細胞または白血球細胞のミトコンドリア内のヘム合成系酵素活性を測定する。EPPはフェロキラターゼ活性の低下、XLPPはALAS2活性の上昇を確認する。
3.FECHまたはALAS2の遺伝子変異に関する遺伝子検査
 赤血球中PPの増加が認められ,また発端者で変異が同定されている場合には遺伝子検査を行い,近親者の潜在的キャリアを同定して早期診断を行う。
(近藤雅雄、2025年5月4日掲載)

ポルフィリン症患者の診断・治療後の無治療経過観察調査

 ポルフィリン症を「病気の主座がポルフィリン代謝の異常にある一群の疾患」と定義する。ポルフィリン症は希少性および多彩かつ重篤な症状から国際的に注目され、我が国では2015年5月に「指定難病」として認定された。本症については診断・治療についての報告は多いが、診断・治療後の実態については不明の点が多い。
 そこで、遺伝性ポルフィリン症の確定診断・治療後、自宅にて社会生活を送っている患者61名(急性ポルフィリン症:AIP 16例、VP 9例、HCP 2例、分類不明の急性ポルフィリン症(AP)および皮膚ポルフィリン症:EPP 28例、CEP 2例、3例、PCT 1例)の同意を得て、病型別に性、年齢、出身、発症要因、自覚症状、家族歴、身長、体重、血圧、糖尿病、肝臓障害の有無、飲酒、喫煙、日常の食生活および運動習慣等についてのアンケート調査を行い、我が国で初めてポルフィリン症の治療後の病態および生活習慣等の実態が分かった。
 今回の調査によって、ポルフィリン症自体の多彩な他覚症状に加えて、さらに多彩な合併症および自覚症状を有することが分かった。また、自由意見から、本疾患の障害は診断・治療後においても深刻であり、いつまた発症するのかについての不安、いのちの不安、遺伝の不安、社会復帰の不安、生活の不安、学習環境の不安、人間関係の不安等々、治療後のケアーがいかに重要であるかが理解された。
 以上の結果、我が国で初めてポルフィリン症の治療後の病態および生活習慣等の実態が確認された。
本研究の内容は以下のPDFを参照されたい。(近藤雅雄、2025年5月2日掲載)

PDF:ポルフィリン症患者の治療後の生活調査

患者発見に対する診断法開発への熱い思いと教育・研究

 研究を始めた1970年代、ポルフィリン測定の検査会社はありませんでした。ポルフィリン症の診断は大変遅れ、診断に何年もかかり、または誤診される確率が非常に高く、発症してからの致死率も急性ポルフィリン症の場合には80%を超えていました。
 これまで誰も成し遂げなかった、ポルフィリン代謝関連産物(8つの酵素活性とポルフィリン代謝関連物質合計25種類の測定法の開発を行い、1970年代後半、世界に先駆けて血液および尿10µℓ、肝組織10mgや骨髄・皮膚・神経・腎細胞、培養細胞と言った微量生検試料を用いて、生体内に存在する全ポルフィリン類(約20種類あります)をほんの数10分で測定できる自動微量迅速精密分析定量法を、高速液体クロマトグラフィーを用いて開発しました。測定法(検査法、診断法)が完成すると次は診断基準となります。多症例の患者さんが必要となるので、国内からポルフィリン症患者さん並びにその疑いのある人から測定しました。同時に、対照値として、血液、尿、糞便においては健常者を対象とした各種健診時に採血、検便、採尿した試料を集め、年齢・性別に分けてポルフィリン代謝産物や血液中の酵素活性の健常値を決定しました。
 1978年~2007年2月の約30年間、「ポルフィリン症の疑い」として、あるいは診断が付かない疾病などの病態解析のためにポルフィリン代謝関連物質の検査依頼があった総検体(試料)数は6,000以上になりました。この内、遺伝性ポルフィリン症として確定鑑別診断したのは、215例でした。
 2007年以降、ポルフィリン症の生化学的検査をする研究者はいなくなり、確定診断に必須なポルフィリン代謝関連物質の測定を行う研究・検査機関も殆ど無くなりました。検査は米国に検体を送っているのが現実です。現在、研究者や検査機関は増えることなく、患者の報告数も減少しています。さらに、ポルフィリン症関係の学術図書、論文・記事が急激に少なくなりました。2015年に「指定難病」に承認されたのを機会に、ポルフィリン症研究の研究者および検査機関が増えることを願っています。(近藤雅雄、2025年5月1日、掲載)

PDF:患者の立場に立った教育・研究活動

ポルフィリン症患者さんとの病気に関する質疑応答Q&A集

 ポルフィリン症は2015年に指定難病として承認されましたが、そこに至るまでの道のりは大変でした。筆者は、1978年から2007年までの30年間に日本人203例及び海外から12例、計215例のポルフィリン症患者を見出し、診断してきました。海外の例では、チュニジアから医師が患者の尿を持って、筆者の研究室(国立公衆衛生院)に来て、目の前で診断を行ったことがあります。診断後、目黒の八芳園で昼食をご馳走し、自家用車で都内を案内しました。翌日、空港まで送り、喜んで帰国していきました。
 また、国内の患者さんとの思い出は多すぎて尽きません。例えば、博多の先天性赤芽球性ポルフィリン症の患者さんは、生前、東京に出て来ては「私が来た理由は都内の病院巡りをして自分の病気を医師たちに知って欲しい」というので、主な国立病院、都立病院、私立病院、大学病院を一つずつ、身体に無理が無いようにケアーしながら紹介して歩いたことがあります。また、他の同じ病気の患者さんは生前、入院中に千羽鶴を1100羽、織り、送ってくれました。赤芽球性プロトポルフィリン症の患者さんは、生前、入院中に自分の糞便を約2㎏凍結保存して、研究に使ってくださいと看護師さんが運んできたことがあります。とても困りましたが。などなど。

 ここでは、ポルフィリン症患者さんの疑問点や不安を解消し、より良い生活を送るための情報を提供するために、患者さんからメールまたはお手紙で頂いた質問内容を個人情報が分からないように、修正して記載しました。
 内容は、①ポルフィリン症全般、その他、②急性ポルフィリン症、③皮膚ポルフィリン症に分けて纏めましたので、参考にして下さい。(近藤雅雄、2025年4月30日)

ポルフィリン症患者さんとのQ&A集

遺伝性ポルフィリン症患者の発症予防と健康管理・指導

 指定難病ポルフィリン症は臨床症状の特徴から急性ポルフィリン症(4病型)と皮膚ポルフィリン症(5病型)に分類され、症状は重症です。ここでは、症状軽減と発症予防を目的に、日常の健康管理について紹介しました。

1.急性ポルフィリン症
 急性ポルフィリン症では遺伝的に当該酵素活性が50%以上減少していますが、日常生活に支障はありません。しかし、薬の服用、月経、妊娠・分娩、飢餓、ストレスなどによってヘム利用が高まり、ヘム量が減少すると発症します。したがって、発症を誘発する因子は男性よりも女性の方が圧倒的に多いのです。そこで、健康管理を目的として考えておくべきことは
1)発作の誘発因子 (ストレス、女性の性ホルモンバランスの変化、食事、肝臓に負担をかけるような生活、急性ポルフィリン症を誘発させる生活用品の使用)を除去する。
2)予防策(ストレスに対する予防策、水分や糖質の摂取、女性の問題、薬の問題)を考える。
3)急性発作症状が出たときの対応。
4)妊娠・出産(妊娠・出産、LH-RHアナログ製剤、ピルと避妊)に対する対応。
の4つです。この内容については下記のPDFに纏めました。

2.皮膚ポルフィリン症
 患者さんが日常生活習慣で気を付けることは、遮光と体内に蓄積したポルフィリンを尿や便として排泄を促すと良いです。何もしないよりはましです。また、晩発性皮膚ポルフィリン症赤芽球性プロトポルフィリン症は光以外に誘発因子がある場合は取り除いてください。具体的には下記のPDFに示したので参考にして下さい。

 急性、皮膚ポルフィリン症の患者さんの発症予防とQOL向上を目指した健康管理として最も重要なことは前向きに生活することです。ピンチもチャンスに変える気分が大切。明るくおおらかに、「前へ」踏み出しましょう。その勇気も大切です。誰か相談できる相手を見つけ、いつでも困ったことがあれば相談することが大切です。一人で悩まないことです。 (近藤雅雄、2025年4月29日掲載)

PDF:予防と健康管理・指導

遺伝性ポルフィリン症の患者把握及び診療体制の問題点

 2015年、本疾患は「指定難病」として認定されたが、以下の問題について検討を要する。

1.臨床検査室並びに検査機関の不備
 ポルフィリン症は研究者の興味や善意で遺伝子検査や診断・治療が行われてきた。これら善意の研究者がいなくても継続的に診断可能な医療(検査)体制の構築を願う。また、急性ポルフィリン症を含め多くの病型が発症時に赤色尿を診る。しかし、採尿はトイレで行い、トイレの「尿置き場」に提出するので、医師が尿の色を観察することはない。
2.専門外来の開設
 ポルフィリン症の認知度が低く、多数の患者が未診断のまま症状や合併症に悩まされている。診療できる医療機関も少ないことから早急に疾患の啓発とともに診療体制の整備が必要である。
3.薬剤情報の徹底と公開
 急性ポルフィリン症は発症の誘発・増悪因子としての薬剤は重要な位置を占めている。筆者らは1999年「ポルフィリン症と薬剤」について纏めたが、その後、新薬がどんどん開発されているにもかかわらず、安全性に関する評価研究情報はない。薬剤の安全性・禁忌などに関する情報を早急に調査し、その結果を的確に伝える手段・システムの整備が望まれる。
4.患者把握の困難性
・稀少疾患であり、症状が多彩であることが診断を困難にしている。
・診断の検査体制が日本にはなく、病型別鑑別診断が困難である。
・症状の多様性から多くの患者が誤診されている可能性が高い。
・未発症の不顕性遺伝子保有者が多く、遺伝性を検査・証明することが困難である。

等の問題があり、個人情報を保護した法律に基づいた患者把握の整備が必要と思われる。詳細は下記PDFに示した。(近藤雅雄、2025年4月28日掲載)

PDF:ポルフィリン症の診療体制の問題点

ポルフィリン症の現状と課題:患者のQOL向上医療への提案

 指定難病ポルフィリン症は根治療法のない典型的な難治性疾患であり、患者は仕事がない・出来ない、高額な医療費を生涯負担し続けなければならないなどと言った不条理が続いている。
 また、医師はポルフィリン症と気付かずに診断が送れたり、誤診したり、また診断されても治療を拒否したり、妊娠・出産を否定するといったことが日常的に起こっている。
 そして、患者の多くが結婚、出産を控える。これらのことが過去から現在、そして、未来へも引き継がれようとしている。これらの問題に対して、患者家族が安心して社会生活ができ、安心して高度医療が受けられるよう、社会の理解が必要である。そして、それが実現されるよう早急な対策が望まれる。
 急性ポルフィリン症の男女比では女性の方がホルモンの関係で圧倒的に発症者が多い。一方で、9病型すべてのポルフィリン症は1920年に最初の報告があってから2010年までに926例が医学中央雑誌に記載されているが、誤診や診断されたとしても医師が報告しないなどの理由で、相当数の患者が未報告のままと思われる。実際はこの10倍前後(約1万人)の数値が推測され、その大部分は十分な治療を受けられないままと思われる。

 ポルフィリン症は光線過敏性皮膚症状や精神・神経・感覚、代謝・内分泌、肝・消化器、造血・循環器,筋・運動器、腎臓・泌尿器など、多彩な症状を呈することから早急な対応が求められる。そのためには、
1.「多彩な症状」に対応できる医師の不足と医療費の高騰。
2.希少疾患患者の立場に立った医療研究の激減。
3.診断が難しいなどの理由で誤診率の高い。
4.根治治療法がなく、対症療法が主であるが、禁忌薬が多く医薬品の対応が難しい。
5.患者のストレスに対する心身のケアーが不十分。
など、さまざまな問題に対する対応策を「現状と課題」として下記PDFに示した。
(近藤雅雄、2025年4月27日掲載)

PDF:ポルフィリン症の現状と課題

ポルフィリン症の診断法および関連代謝物測定法の将来

 ポルフィリン症の診断は将来的には遺伝子診断が普及し、それに伴って遺伝性ポルフィリン症の簡易的な遺伝子診断法が開発され、現在の新生児マスクリーニング検査の拡大版として普及されることを望む。診断が確立されれば、症状発現と代謝異常とが相関するので、症状の重症度評価並びに予後判定に、ポルフィリン代謝物の測定が必須となってくる。

 また、ポルフィリン代謝によって生産されるヘムは生命の根幹の生化学反応に関わる生命維持に不可欠な色素である。そのため、ポルフィリン代謝関連物質の測定は遺伝性ポルフィリン症だけでなく、後天性のポルフィリン代謝異常症の病態解析や治療および予後判定などに重要な指標となるので、将来的にも測定は必要不可欠である。さらに、ポルフィリン代謝系酵素はさまざまな環境因子によって鋭敏に影響を受けるため、その代謝物の測定感度の高さから微量の検出で評価できるので、放射能や大気汚染物質、医薬品、農薬、有機溶剤、鉛、水銀、タリウム、砒素あるいは希土類元素など各種元素などの各種薬物や環境物質の生体影響の指標としても有用である。

 現在、遺伝子診断並びにポルフィリン代謝物の測定は難解で時間と技術を要し、高価な機器を用いなければならない。これを安価で、誰にでもできるよう簡素化することが望ましい。

 将来、尿、血液、糞便中のポルフィリンや尿中ポルホビリノゲンを検出する試験紙法(例えばpH試験紙やウイルス検出キットのようなもの)などの開発やポルフィリン症の発見率の向上や発症予防・予後判定、及び環境因子の生体影響評価等に応用できるものが開発されるのを期待している。(近藤雅雄、2025年4月26日掲載)

科学的根拠に基づいた難病「ポルフィリン症」の診断基準

 ポルフィリン症はヘム代謝系に関わる8つの酵素のいずれかの活性低下により、ポルフィリンあるいはその前駆体が体内に増量・蓄積することによって発症するまれな遺伝性疾患である。現在、9病型が報告されているが、病態の大部分は不明であり、根治療法がない。各病型間で症状に重なりがあるが、診断は非常に難しく、確定診断には生化学診断や遺伝子診断などが必要である。
 ここでは厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「遺伝性ポルフィリン症の全国疫学調査ならびに診断・治療法の開発に関する研究」にて作成した診断基準案(2009,2010年度総括・分担研究報告書)を基に作成した。根拠は国内学会にて発表、公開したデータ(論文)に基いた。

 診断基準は急性ポルフィリン症として急性間歇性ポルフィリン症遺伝性コプロポルフィリン症多様性ポルフィリン症皮膚ポルフィリン症として赤芽球性プロトポルフィリン症先天性赤芽球ポルフィリン症晩発性皮膚ポルフィリン症X連鎖優性プロトポルフィリン症肝赤芽球性ポルフィリン症と診断されたものを、各々対象とする。

 それぞれの病型にて①臨床所見、②検査所見(発作時)、③遺伝子検査、④除外診断、⑤参考事項、診断の判定についてのチェック項目があるので以下のPDFを参考にしてください。(近藤雅雄、2025年4月26日掲載)

PDF:ポルフィリン症の診断基準

ポルフィリン代謝物の概要:基準値,生理的変動,測定意義等

 ポルフィリン代謝経路はALAからPPにFe2+がキレートしてヘムが生産されるまでの経路をいう。この代謝には8個の酵素とその代謝産物が発生する。ヘム合成異常はポルフィリン代謝の特徴から障害酵素までの中間代謝物が過剰生産・蓄積し、これが組織の機能を障害するだけでなく、ヘム生産の減少に基づくヘム蛋白の多様な機能に重大な影響を与える。したがって、ポルフィリン症などのポルフィリン代謝異常症では生体のさまざまな機能障害に基づく、多彩な臨床症状を診るのが特徴で、診断が難しい理由となっている。

 ポルフィリン代謝関連物質の測定はポルフィリン症の確定診断や鉛作業者の職業病検診に重要である。そこで、ポルフィリン代謝関連物質の内、中間代謝産物を中心に、そのプロフィール、基準値、異常値を示す疾患、臨床的意義、検査のすすめ方などに関する諸情報をまとめた。測定(検査)の具体的方法については本資料集「ポルフィリン症の鑑別診断法:生化学診断および酵素診断、2025年4月21日掲載」を参照されたい。

 民間の臨床検査会社ではポルフィリン代謝産物の検査は需要とコストの関係から行なわれていない。鉛中毒予防規則の一環としてポルフィリン代謝のごく一部の検査が行われているだけである。ポルフィリン症の確定診断は不可能である。海外では行われている。また、ポルフィリン症の専門家は極めて少なく、多くの医師はデータに誤りがあっても、その誤りを指摘・確認できないことが多く、診断を困難にしている。そこで、以下の症状などが診られた場合には必ずポルフィリン症を疑い鑑別検査を行うことを勧める。診断は厚生労働省が出した指定難病ポルフィリン症の“診断基準”に従う。
1.原因不明の光線過敏症で、皮膚露出部に水疱形成、瘢痕形成、色素沈着、皮膚の脆弱性などを診る場合。または日光被曝直後の皮膚の激しい痛み、腫脹、発赤が診られる場合。
2.原因不明の激しい腹痛、嘔吐、便秘(または下痢)、イレウスなどの症状や多彩な神経症状が診られる場合。
3.1と2の両者が混在して診られる場合。
4.肝機能障害と光線過敏症が合併している場合。
5.家族歴がある場合は不顕性遺伝子保有者の早期診断を行う。
 
 ここでは正確な早期診断の実施を期待して、民間検査機関(殆どが米国の検査会社に外注している)が行っているポルフィリン代謝関連物質の測定項目を中心に、その意義を以下のPDFにまとめた。なお、鉛作業者の場合は労働安全衛生法による鉛中毒予防規則に従って測定する。(近藤雅雄、2025年4月25日掲載)

PDF:ポルフィリン代謝産物の概要:測定とその意義

ヘム合成系酵素の概要:基準値,生理的変動,臨床的意義等

 ヘムはグリシンとスクシニルCoAを縮合してδ-アミノレブリン酸(ALA)を生産するALA合成酵素から始まって、最終的に鉄導入酵素によってプロトポルフィリンに二価鉄が入り、ヘムが生産される。この間に6つの酵素反応が関与する。生産されたヘムはそれぞれの組織におけるアポ蛋白に配位して様々なヘム蛋白質(ヘモグロビン、ミオグロビン、チトクロームP-450、NO合成酵素、グアニル酸シクラーゼ、カタラーゼなど)となり、生体の呼吸システム、エネルギー生産システム、薬物代謝、血流調節、情報伝達システム、酸化ストレス防御システムなどを行う。すなわち、ヘムは生命維持に不可欠な機能の中心的な役割を果たしている。
 ヘム合成に関わる8つの酵素活性の測定は遺伝性ポルフィリン症の鑑別診断、不顕性遺伝子保因者(キャリア)や鉛中毒などのポルフィリン代謝異常症の診断に重要である。測定材料は、主に血液細胞、肝細胞、皮膚などの各種培養細胞など極微量の生検材料が用いられるが、症例数が少ないだけでなく、測定法および活性値が統一されていない。したがって、判定には必ず対照値を必要とする。

 酵素活性の測定方法はALA脱水酵素およびポルホビリノゲン脱アミノ酵素の両活性を除いて極めて煩雑である。わが国の医療現場ではヘム合成に関する8個の酵素についての活性測定は未だに行われていない。そこで、ポルフィリン代謝異常症の酵素異常を理解するために、この代謝(ヘム合成系またはポルフィリン代謝系という)に関連する酵素の概要として酵素活性の臨床的意義、基準値、異常値、生理的変動などの基本的事項を下記PDFに纏めた。酵素の活性測定法については本資料集の「ポルフィリン症の鑑別診断法:生化学及び酵素診断法(2025年4月21日掲載)」に記載した。(近藤雅雄、2025年4月24日掲載)

PDF:ヘム合成系8酵素の概要

「急性肝性ポルフィリン症」という日本語表記の違和感

 生体内に広く存在するヘム蛋白のヘム部分を生成する系をヘム合成系と呼ぶが、途中、ポルフィリン前駆体及びポルフィリン類の計7種類のポルフィリン代謝物質を経て合成されることからポルフィリン代謝系とも呼ばれる。このヘムは8個の酵素の共同作業によって生合成され、肝では最初のδ-アミノレブリン酸合成酵素(ALAS)が律速酵素となってヘムの生産量がフィードバック調節されている。骨髄赤芽球では肝と異なってALASは律速段階ではない。したがって、ヘム合成の調節機序は異なる。
 そして、この8つの酵素のいずれかに遺伝子の変異や生体内外の因子によって影響を受けると、肝または赤芽球細胞内でヘム合成量の減少と同時に障害酵素までの中間代謝物であるポルフィリンまたはその前駆物質が大量に生産・蓄積される。その結果、活性酸素の発生などによって正常組織の働きが障害され、多彩な症状を起こすことになる。これがポルフィリン代謝異常症と呼ばれる一群の疾患であり、その中で最も深刻なのが9病型からなる遺伝性ポルフィリン症である。

ポルフィリン症の分類
 このポルフィリン症の分類として、日本では長い間、ポルフィリンの代謝異常が組織で異なることから組織別に肝性ポルフィリン症と赤芽球(骨髄)性ポルフィリン症とに分類されてきた。また、症状が異なることから臨床的に急性の神経症状を主徴とする急性ポルフィリン症 (AIP、ADP、VP、HCP)と皮膚の光線過敏症を主とする皮膚ポルフィリン症 (CEP、EPP、PCT、 HEP、XLDP)とに分類されてきた。
 ところが、近年、急性ポルフィリン症のADP,AIP,HCP,VPの4病型にたいして、肝臓でのポルフィリン代謝異常でもあることから急性肝性ポルフィリン症と記載する製薬企業がある。日本では長い間認められてきたポルフィリン症の分類学からすると違和感がある。これまでの日本語表記で何の問題もなく、指定難病も獲得してきたのだ。ポルフィリン症の分類は重要であり、「急性に対して皮膚」、「肝性に対して赤芽球(骨髄)性」を用いるべきと思う(下記PDFの表3参照)。(近藤雅雄、2025年4月23日掲載)

PDF:ポルフィリン症の分類

ポルフィリン症の診断技術と治療研究の推進・進化を期待

 1920年、わが国で最初にポルフィリン症患者が報告されて以来、100年経ったが未だに医療関係者ですらこの病気を知らない者が多く、その知名度は極めて低い。遺伝性ポルフィリン症は診断されていない患者が意外と多い。また、ポルフィリン代謝異常を起こす疾患は鉛中毒や血液・肝障害など意外と多い。にもかかわらず知名度が低い最大の理由は診断と治療の難しさにあるようだ。リトマス試験紙のような簡単な検査法が開発されると良いのだが。また、医学・医療に対する高い志があれば検査・診断はすぐに成就されるのだが。Impossible is Nothingである。
 指定難病 ポルフィリン症はポルフィリン代謝異常症の中で最も深刻な疾患で、生命の根源物質ヘムの合成を行うポルフィリン代謝系酵素の異常に基づく疾患群である。ポルフィリンの代謝障害が骨髄の赤芽球で起こると主に皮膚症状、肝臓で起こると消化器・神経・精神症状が、そして赤芽球と肝細胞の両者で起こると皮膚症状と肝障害が生じ、病因別に9病型が知られている。このヘム生合成の中間体であるポルフィリンが過剰産生・蓄積した場合に各種活性酸素の発生源となる。
 最終生産物であるヘムは、赤芽球細胞ではグロビン蛋白質と結合して赤い血色素ヘモグロビンとなり酸素の運搬を行う。肝臓では薬物代謝で重要なチトクロームP-450(CYP)として生理作用を発揮する。その他、ヘムは筋肉の運動、エネルギー(ATP)の生産、活性酸素の除去など生命維持に不可欠なさまざまなヘム蛋白質の作用基として、その重要性が広く知られている。ポルフィリン症はこのヘム生産量が減少し、ヘム生合成の途中中間代謝物であるポルフィリン前駆体δ-アミノレブリン酸やポルホビリノゲン、そして、各種ポルフィリン類が体内に過剰生産・蓄積すると発症する病気で、生命に関わる疾患である。

本稿では、ポルフィリン症のまとめとして
1.ポルフィリン症とは
2.ポルフィリン症という病気の重症度
3.ポルフィリン症は単一な病気ではなく9病型ある症候群である
4.ポルフィリン症の診断基準
5.ポルフィリン症の年代別頻度
6.ポルフィリン症の誘因、誤診、予後
7.ポルフィリン症の過去・現在・未来
について、下記のPDFに記載した。(近藤雅雄、2025年4月22日掲載)

PDF:ポルフィリン症の診断・治療の推進・進化を期待