急性ポルフィリン症の神経細胞内ヘム合成系酵素の異常

 指定難病である急性ポルフィリン症は急性間歇性ポルフィリン症(AIP)、ALAD欠損性ポルフィリン症(ADP)、遺伝性コプロポルフィリン症(HCP)、多様性ポルフィリン症(VP)の4病型が知られている。
 本疾患では共通して生命維持に不可欠なヘムの生産量が低下すると共にδ-アミノレブリン酸(ALA)やポルフィリンが過剰生産され、消化器、精神・神経、循環器、内分泌、泌尿器、代謝、運動など、多様な障害を起こす。
 症状は腹部症状、神経症状、精神症状が三徴をなし、腹部症状では腹痛、嘔吐、便秘(または下痢)が三徴をなす。症状は発作的に起こり、数日,数週間あるいはさらに長く続く。これら腹部自律神経症状に加えて痙攣、意識障害、精神症状などの中枢神経障害、筋力低下、知覚異常などの末梢神経障害、そして、赤色尿が出現する。
 我われは末梢神経障害を呈したAIP患者の極期と症状が回復した寛解期の肝、腓腹神経、腎、骨髄、リンパ球など、微量採取された生検材料を用いて世界で初めてALA合成酵素(ALAS)、ALA脱水酵素(ALAD)およびポルホビリノゲン脱アミノ酵素(PBGD)の3つの酵素活性を測定した。その結果、すべての組織でPBGD活性の50%低下を認めたがALAS活性の上昇は肝以外認められなかった。また、別の患者の坐骨神経組織においても同じであった。
 この結果は、極期のAIP患者の神経障害はALAS活性が亢進していないことから、PBGD活性の減少に基づく影響ではない。すなわち、肝で大量生産されたALAなどポルフィリン代謝産物による影響が明らかである。したがって、肝のポルフィリン代謝を正常化すれば治療可能であることを明らかにした。また、PBGD活性の減少はAIPの診断に重要だが、発症における直接的な原因とはならないことも明らかにした。これらの結果は他の急性ポルフィリン症も同じ肝だけの障害であることを示唆している。(近藤雅雄、2025年3月21日掲載)
PDF:急性ポルフィリン症の酵素異常

骨髄赤芽球細胞内のALA脱水酵素インヒビターの諸性質

 ヘムは生命の根源物質であり、8つの酵素によって次々に代謝され、最終的に細胞ミトコンドリア内で合成されます。その第2番目の代謝を司るのがδ-アミノレブリン酸脱水酵素(ALAD)であり、δ-アミノレブリン酸(ALA)からピロール物質ポルホ(フォ)ビリノゲンの生産を促進するヘム合成の鍵酵素です。1977年、この酵素活性が骨髄赤芽球細胞のみにて加齢に従って著明に減少するのを見出し、それと逆相関してALAD活性を特異的に阻害する蛋白質を発見しALADインヒビターと命名しました。このインヒビターの活性は人でも見つかっていますが、種差があります。
 ALADインヒビター活性がカルシウムによってその阻害力が強力になることから、特に老人にとっては貧血の原因となるでしょう。また、亜鉛やビタミンBによってインヒビター活性は阻害されることから、ヘム(ヘモグロビン)合成を促進するにはこの2つの栄養素は必須となります。
 この報告は約50年前ですが、血液学においてヘモグロビン合成上、重要なことなので紹介しました。当時の論文や講演のプレゼンターション方法なども今と異なっていたことも併せて紹介しました。以下のPDFを参照してください。(近藤雅雄、2025年3月21日掲載)
PDF:ALADインヒビター

ALA投与による脳腫瘍内ポルフィリンの過剰生産とその機序

 悪性脳腫瘍患者に5-アミノレブリン酸(ALA)を経口投与すると、ALAは腫瘍組織に取り込まれ紫外線照射によって赤色蛍光を発するプロトポルフィリン(PPⅨ)が大量生産されることを見出した。
 そこで、蛍光ガイド下摘出術によって得た腫瘍部位をポルフィリン・パターン分析した結果、非蛍光部位(非腫瘍部位)に比してコプロポルフィリンⅢおよびハルデロポルフィリンが4倍、PPⅨが6倍といった有意な増量(P<0.01)を見出した。この機序を検討するために、ポルフィリン代謝関連酵素活性を測定した結果、腫瘍組織のミトコンドリア内の鉄導入酵素活性とPPⅨとの間に有意な負の相関関係(r=-0.412, P<0.05)を認めた。さらに誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)にて腫瘍組織を元素分析した結果、鉄含有量の減少を確認した。鉄とPPⅨとの間には有意差が認められなかったが、負の相関関係(r=-0.321)を確認した。
 以上の結果から、脳腫瘍組織にALAが取り込まれ、鉄不足による鉄導入酵素活性の低下によってPPⅨの蓄積が生じるものと示唆された。詳細は下記PDFを参照されたい。
 現在、悪性神経膠腫の腫瘍摘出術中における腫瘍組織の可視化として「アラベル内服剤」がSBIファーマ株式会社で開発され、販売さている。(2025年3月14日掲載)

PDF:脳腫瘍論文2025,3

健康と病気シリーズ9.ALAによる健康増進と病気治療

 長い間、5-アミノレブリン酸(ALA)の人工合成は難しく、回収率や純度を挙げることが不可能でした。
 それが、コスモ石油(株)の田中徹博士が光合成菌を使い、大量培養に成功してから、ALAの大量生産が可能となりました。この発見によって、多方面への研究が行われるようになりました。

 その最初の研究は2004年、筆者の職場であった国立健康・栄養研究所で行われ、その後、東京都市大学総合研究所内に移動し、そこでSBIアラプロモ(株)研究所が設立されました。現在はSBIアラファーマ(株)として川崎のナノ医療イノベーションセンター内の研究所で研究が行われています。
 ALAは健康食品、医薬品、化粧品、また、動物の飼料や植物の肥料などといった様々な分野で注目されています。ALAは脳腫瘍や膀胱がんなどがんの診断・治療、植物では光合成を促進すると共に収量・品質向上、健苗育成、ストレス耐性、耐塩性・耐冷性向上、都市および砂漠の緑化、ポリフェノールの増量など、また、健常者への投与はヘム合成を促進すると共に免疫力増強、運動機能向上、健康機能向上、疲労回復向上などとして保健・医療・環境など多様な分野で応用されています。

 なお、ALAは急性ポルフィリン症や鉛中毒時に体内に蓄積するALAと全く同じものです。したがって、これらの患者さんが摂取すると病気が悪化することがあります。注意してください。(近藤雅雄、2025年3月9日掲載)
 ALA関係のパワーポイントは500枚近く作成しましたが、その一部15枚を以下のPDFに示しました。ご参照ください。 PDF:健康と病気9.ALA

健康と病気シリーズ3. 近年の遺伝子研究とがん遺伝子

 近年、遺伝子操作技術の進化に伴い新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンのような遺伝子を用いた治療薬、ゲノム編集による治療、遺伝子組換えを行った食品や各種動物など遺伝子操作に関する研究が加速している。
 本稿ではこれら遺伝子研究の最前線を紹介する。また、病気の治療として、血液のがん「原発性マクログロブリン血症」の遺伝子異常に対する治療を目的に、遺伝子と環境因子との相互干渉作用について考える。
下記のPDFを参照されたい。(近藤雅雄、2025年2月28日掲載)
PDF:健康と病気シリーズ3

運動力・持久力など、生活活動をサポートする5-アミノレブリン酸

 ミトコンドリアで生産される5-アミノレブリン酸(5-aminolevulinic acid,ALA)はタンパク質を構成するアミノ酸ではなく、生命維持に不可欠な赤い色素ヘム(赤血球中に存在するヘモグロビンのヘム等)を生産する生命の根幹物質です。
 このALAについてさまざまな検討をマウスと人で検討しました。その結果、①エネルギー生産量の向上による代謝促進、②体温上昇による免疫力向上、③運動負荷による疲労回復亢進、持久力の向上などの効果があることがわかってきました。
 健康寿命の延伸とQOL(生活の質)の向上には適切な食生活と運動習慣、休養が大切ですが、ALAはこれら健康生活をサポートするようです。そこで、ALAの健康効果についてわれわれの研究成果を科学的根拠に基づき下記のPDFで解説します。参照してください。(近藤雅雄、2025年2月27日掲載)
 PDF:持久力ALA

植物内のポリフェノール類を増量させる方法を発見した

 現代人の免疫能は低下し、特に高齢者の免疫能は著しく低下している。その主な原因として、急速な食生活の変化、肥満、加齢、ストレスなど、各種酸化ストレスによる影響が示唆されている。この活性酸素が原因で起こる各種疾病の防御を目的としてフラボノイド類の摂取が注目されている。
 フラボノイド類には約5-7,000種ともいわれる多数の物質が報告され、その構造は極めて似ているが、その抗酸化機能は各種異なる。これらフラボノイドの標準統一分析方法は未だになく、各々の抗酸化物質の抗酸化能についてもはっきりしていない。
 そこで、約30種類の抗酸化物質についてその作用を検討すると同時に、世界に先駆けてUV検出器とHPLC分析による各種フラボノイドの一斉同時自動分析法の開発を行った。さらに、各種野菜・果物のフラボノイドを分画定量し、その含有量およびペンタキープ(ALA肥料、コスモ石油(株))投与による影響を検討した。
 その結果、これまでに多くの抗酸化物質の中で、ルテオリンが細胞内・外での活性酸素消去能が最も高いことを証明し、さらに、ALA(δアミノレブリン酸ヘム合成の出発物質)を投与し、栽培した植物中のフラボノイドおよびミネラル量に及ぼす影響について検討を行った。その結果、ルテオリン(図)をはじめフラボノイド類が平均約10倍増量することを見出した。
PDF:ALA-ポリフェノール

高齢者の健康寿命の延伸を目指して~加齢の機序と抗加齢

 健康で生きられる期間を「健康寿命」と言いますが、2016年の日本人の健康寿命は男性71.14歳(2020年の平均寿命は81.64歳)、女性74.79歳(同87.74歳)です。女性の方が男性よりも約6年長生きですが、不健康状態が約2.5年、すなわち介護を要する期間が長い。そして、共に約10年以上、不健康状態が見られます。この原因の一つが酸化ストレスですので、高齢者の健康寿命の延伸とQOL(生活の質)の向上を図るためには、改めて健康増進の三原則「栄養・運動・休養」を見直すことが大切です。そこで、アンチエイジングを目的に、エイジング(加齢、老化)に影響を与える要因を明らかにし、それを除去する方法について検討しました。
PDF:加齢の病態生理~アンチエイジング2

ALAは植物の抗酸化ミネラル及びフラボノイドを増量する

 近年、活性酸素が原因で起こる各種疾病からの予防及び健康維持・増進を目的としたフラボノイドの抗酸化能が注目されている。フラボノイドには約7000種ともいわれる多数の化学物質が報告され、その抗酸化能も異なる。そこで、約32種類の抗酸化物質についての抗酸化能を検討した結果、ルテオリンというポリフェノールが細胞内外にて極めて抗酸化能が高いことが分かった。我々は、各種フラボノイドの高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析法の開発を行うと同時に、各種植物のルテオリン量を調査した結果、ピーマンなどのベルペッパーに多く含まれていることが分かり、ピーマン中の各種フラボノイドの定量分析を行った。 
 さらに、最近注目されている肥料ペンタガーデン(5-アミノレブリン酸(ALA)配合肥料:株式会社誠和アグリカルチャ)を投与し、栽培したピーマンのフラボノイドおよびミネラル量に及ぼす影響について検討を行ったところ、抗酸化作用を有するポリフェノール類の増量並びに多くの必須ミネラル、とくに免疫や抗酸化作用を有するミネラル類が増量することを見出した。

 ALAはクロロフィルやヘム合成に不可欠な鍵となるアミノ酸であり、このALAを配合したペンタガーデンまたはペンタキープには植物生長促進効果、光合成促進、バイオマスの増大、糖度の上昇、硝酸含量の低減、ビタミン含量の向上、低温・低照度耐性、耐塩性などの様々な機能が知られ農林業、施設園芸、野外圃場、都市や砂漠の緑化など多方面で利用されている。

 最近、筆者も家庭園芸に用いたところ、花はより鮮やかに、葉はより緑に、また野菜や果物はより大きく、糖度も増し、各種栽培には欠かせない肥料として楽しんでいます。
 ペンタガーデンの“ペンタ“の意味はギリシャ語で5を指し、5番目の炭素にアミノ基を持ったレブリン酸と言うことで、5-アミノレブリン酸と言い、このアミノ基が植物の成長に大変重要であることからペンタシリーズが開発されたものと推測されます。近藤雅雄(2019年6月10日掲載)

 論文は以下のPDFを参照されたい。PDF:ピーマンの各種ミネラル及びフラボノイド量に対する

5-アミノレブリン酸(ALA)による免疫増強とその機序

1.はじめに
 現代のストレス社会ではヘムオキシゲナーゼによってヘムの分解が促進するため、ヘム量が不足する。ヘムはアミノレブリン酸(ALA)からミトコンドリア内で生産でされる生体赤色素であり、呼吸やエネルギー生産、神経、内分泌、免疫の機能保持など、生命維持に不可欠な根源物質である。そこで、免疫機能の中枢である胸腺に対して、ALA・ヘムとの関連を検討した。

2.研究方法
 雌雄高齢マウス(約35~45週齢;BALB/ cAJcl,日本クレア(株))に体重1kgあたり2~10mgのALAを投与するように1日の飲水量に配合し7日間自由摂取させた(各群5匹)。実際の摂取量は飲水量から計算した。飼料はCE-2(日本クレア(株))を自由摂取させた。飼育終了後、胸腺重量、胸腺細胞数、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)活性、グルタチオンペルオキシダーゼ(GpX)活性、ヘム合成関連物質の測定およびジーンチップによる遺伝子発現解析、リンパ球の幼若化能およびサブセットなどを測定した。

3.結果
1)胸腺免疫機能に及ぼす影響
 ALA投与によって胸腺重量および胸腺細胞数が有意に増量し、その影響は高齢マウスで著しく、さらに雌に比べて雄の方が著しいことを見出した。ALAにより細胞の分化・増殖が亢進したものと示唆された。胸腺細胞のリンパ球(CD4, CD8)サブセットが雌雄マウス共に増加傾向を示した。さらに、ALA投与によって活性酸素を消去するSOD活性が有意に増加した。

2)ヘム合成に及ぼす影響
 血液細胞および胸腺細胞共にALAを代謝する酵素が次々と活性化され、ヘム合成量が増加した。この結果は、ALA投与によって胸腺の機能が回復・亢進することを示している。胸腺重量の増加は病理標本を作成・検討した結果、胸腺内リンパ球数の増加を認めた。

3)胸腺遺伝子発現に及ぼす研究
 胸腺細胞からt-RNAを抽出し、遺伝子解析を行った。その結果、ALA投与によって934個の遺伝子の発現量に変化が見られた。さらにトランスクリプトミクス解析からSOD遺伝子の発現などが確認された。

4.おわりに
 胸腺は加齢により萎縮し、それと共に免疫機能が低下することが分かっているが、ALA投与によって萎縮抑制のみならず、若年期の重量にまで回復することを証明した。さらにSOD活性の回復による抗酸化機能の増強が確認されたことは極めて重要な知見である。つまり、ALAは高齢者の免疫力増強と若返りに効能があることを示している。
 これまでに胸腺の萎縮を抑制または回復させる因子は発見されておらず、ALAは免疫機能に影響を与える新しい因子として、今後大いに注目されるであろう。
 一方で、健常者においては性差・年齢にかかわらず一日に約0.5~3mgのALAが尿中に排泄されている。同様な結果はマウスでも認められることから、ALA投与による生体影響についてはさらなる科学的検証が必要である。
 現在、ALAが健康食品や医薬品として商品化されているが、ポルフィリン代謝異常症を有する人は絶対に用いないでください。  (近藤雅雄:平成28年11月25日掲載)

PDF:ALAと免疫3

ALAを合成する酵素の新しい測定法とミトコンドリア内様態

 δ-アミノレブリン酸(ALA)を生産する酵素、ALA synthase(ALAS)succinyl-CoAとglycineを基質として測定されるのが世界的に広く知られています。このALASはヘム合成(ポルフィリン代謝)の律速酵素として最も重要な酵素です。肝性ポルフィリン症などのヘム合成系の酵素障害があるとALAS活性が増量してALAの生産を高めることが指摘され、ポルフィリン代謝異常で最も中心的役割を果たす酵素です。しかしながら、実際に肝臓のポルフィリン代謝障害を起こす晩発性皮膚ポルフィリン症の肝ALAS活性は増加しないことが広く知られ、この矛盾を説明することがこれまでにできませんでした。
 そこで、肝性ポルフィリン症患者の生検肝微量組織からα-ketoglutarateとglycineを基質としてALAS活性を測定した結果、succinyl-CoAとglycineを基質とした値よりもポルフィリン代謝をより反映していることが今回の実験によってわかりました。すなわち、肝ALAS活性の測定にはこれまでの方法と異なって、α-ketoglutarateとglycineを基質として測定した値の方がより肝性ポルフィリン症の病態を反映していることが示唆されると同時に肝ALAS酵素の作用機序がほぼ分かりかけてきました。
 その内容は2015年9月の学術雑誌ALA-Porphyrin Scienceに掲載されました。以下のpdfで参照ください。(近藤雅雄:平成27年11月10日掲載) 肝性ポルフィリン症と肝ALAS

東京化学同人から「5‐アミノレブリン酸の科学と医学応用」出版

機能性アミノ酸「5‐アミノレブリン酸の科学と医学応用」-がんの診断・治療を中心にー

 現代化学・増刊45、ポルフィリンーALA学会編(大倉一郎、小倉俊一郎、近藤雅雄、田中徹、渡辺圭太郎編著)東京化学同人、2015.10.8発行、ISBN978-4-8079-1345-9 が発刊されました。
 本書は5‐アミノレブリン酸(ALA)の多様な研究に関して、研究者48名によってまとめられた成書です。研究領域は医学、工学、理学、栄養学、農学、微生物学、環境学と幅広く、その内容はすべて人間を中心とした、がんの診断と治療および人類のQOLの向上と健康寿命の延伸並びに環境・農業・畜産業への貢献を目的としてまとめられたALA研究の最新成果が収められています。
 科学に興味を持つ一般学生はじめ多領域の研究者、臨床医など医療関係者にはぜひお薦めの成書です。


以下に本書の目次を示しました。

第1部 生命科学と健康
 1.5‐アミノレブリン酸・ポルフィリンの生命科学
 2.5‐アミノレブリン酸の合成および誘導体
 3.5‐アミノレブリン酸・ポルフィリンの分析化学
 4.ポルフィリン代謝異常症
第2部 がんの診断と治療
 5.5‐アミノレブリン酸を利用したがんの診断・治療
 6.脳腫瘍の診断と治療
 7.皮膚がんの診断と治療
 8.膀胱がんの診断と治療
 9.前立腺がんの診断と治療
 10.子宮頸ガンの治療
 11.外科的手法による大腸がんの診断
 12.内視鏡手法による大腸がんの診断
 13.胃がんの診断
 14.腹腔内悪性病変の診断
 15.肝臓がんの診断と術中胆汁漏検索法
 16.食道がんの診断
 17.副甲状腺の同定診断
 18.光線力学診断用機器の開発
 19.脳腫瘍に対する光線力学診断用機器の開発
 20.胸腔内悪性病変に対する光線力学診断用機器の開発
 21.放射線療法の増感
 22.超音波力学療法、温熱療法
第3章 代謝影響とヘルス・メディカルケア
 23.5‐アミノレブリン酸およびヘムの代謝影響
 24.ミトコンドリア病の治療と予防
 25.脂質異常症の治療と予防:エネルギーおよび脂質代謝を中心として  26.赤血球造血細胞への影響
 27.鉄芽球性貧血症の治療と予防
 28.皮膚に対する影響
 29.抗マラリヤ薬としての5-アミノレブリン酸
 30.虚血再灌流系での効果
 31.パーキンソン病への臨床効果
第4章 環境・農業・畜産業などへの応用
 32.植物・農業分野での利用
 33.畜産・水産分野での利用

以上です。  

5-アミノレブリン酸(ALA)のヘルス・メディカルケア

 最近、5-アミノレブリン酸(ALA)が新規機能性アミノ酸として健康食品や美容、がんの診断・治療をはじめ多くの疾患の予防・治療など、ヘルス・メディカルケアー領域に注目されています。ALAは蛋白質を構成するアミノ酸ではなく、生命維持に不可欠なヘムやクロロフィルおよびビタミンB12等を生体内で合成する経路の最初の共通物質として、動植物を問わず広く生物界に存在する生命の根源物質です。

1.ALAの生成

 ALAは動物のミトコンドリアや酵母、非硫黄紅色光合成菌を含む一部の細菌類ではALA合成酵素(ALAS)によりTCA回路のメンバーであるスクシニルCoAから合成されます。しかし、植物の葉緑体、藻類、シアノバクテリアなどの酸素発生型光合成を行う生物や他の多くの細菌類ではグルタミン酸からグルタミル酸t-RNA を利用して合成されます。

2.ヘム蛋白の機能

 ALA自体には生理作用がありませんが、ALAによって最終的に生産されたヘムは各組織にて生産されたアポ蛋白と結合し、①酸素の運搬体であるヘモグロビン、②酸素の貯蔵物質である赤筋中のミオグロビン、③エネルギー物質であるATPの生産に関与するチトクローム類、④解毒・薬物代謝に関与するチトクロームP-450類、⑤神経の神経の化学伝達物質であり、血管拡張物質である一酸化窒素や一酸化炭素の生産、⑥代謝調節に関わる甲状腺ホルモンの合成、⑦ホルモンの情報連絡に関与するグアニルシクラーゼ、⑧活性酸素を分解するカタラーゼやペルオキシダーゼ、⑨脳の機能調節に関与するセロトニンや睡眠ホルモンであるメラトニンの合成に関わるトリプトファンピロラーゼなど、生体が健康を保持する上で不可欠な各種ヘム蛋白質の作用基として機能しています。したがって、生体機能の三大情報システムである神経性調節、内分泌調節、免疫調節など多方面にて重要な働きを行っています。

3.ALAの機能性

 ALAはヘム生合成の出発物質として生命科学の重要な位置にあるため、ヘムの減少は様々な疾患や体調不良など(例えば貧血、エネルギー不足による筋疲労、免疫力低下、基礎代謝の低下など)を引き起こすことから、各種ヘルスケアーおよびメディカルケアーに対する有用物質として注目されています。その代表的なものが悪性腫瘍の研究です。外性的にALAを過剰投与すると腫瘍細胞内にポルフィリン誘導体が過剰生産・蓄積されることを利用した皮膚がん治療(光線力学的治療, photodynamic therapy; PDT)が実用化されています。今後、ALAを高濃度で投与した場合に腫瘍組織内に一時的に増加・蓄積するポルフィリン誘導体(特にプロトポルフィリンⅨ(PPⅨ))の光増感性を利用したがんのPDTや診断に広く利用されるようになるでしょう。
 一方、低濃度のALAと鉄やマグネシウムなどのミネラルを組合せることによって、植物や動物などの生物機能に大きな影響をもたらすことが分かってきました。

4.ALAの利用

1)植物への利用

 コスモ石油(株)のALA研究開発グループは、これまで困難であったALAの大量生産の方法を可能にし、植物に対するALAの効果に関する研究を進めてきた結果、①低濃度の添加により光合成能が増強され植物生長促進が得られること、②暗呼吸の抑制、③気孔開度の拡大、④耐塩性・耐寒性向上、⑤収量向上、⑦砂漠緑化、⑧健苗育成、⑨労働時間短縮などの効果を次々と見出しています。ALAを添加すればクロロフィルが増加するのは当然のように思えますが、添加したALA量よりもクロロフィル量は遥かに多いことから、ALAは植物の中で情報伝達物質的な役割を果たしていると考えられています。ALAは微量金属(マグネシウム、鉄、コバルトなど)との組合せが植物生長促進に有効であり、光合成能増強だけでなく、硝酸還元酵素の増強により窒素肥料の取組みを促進する効果もあることがわかっています。

2)健康増進に対する影響

 ALAの生産量が加齢に伴い減少すること、また様々なストレスによってヘムの分解が亢進することなどがら、ALAの健康に関わる研究が本格的に行われるようになりました。我われは、ALAを高齢マウスに適正量投与すると、造血、免疫、抗酸化および運動などの諸機能が亢進することを相次いで見出しました。とくに、免疫の中枢である胸腺重量は加齢に従って萎縮していくことがわかっていますが、ALA投与によって胸腺重量の縮退抑制、増量を見出しました。この増量については、細胞生物学的に詳細な検討を要しますが、胸腺の萎縮が免疫の機能低下および老化促進の原因であることが推測されていることから、ALAの投与によって免疫能の強化、QOLの向上および健康寿命の延伸が図られることが大いに期待されます。ALAの投与によってヘムの生産が亢進するだけでなく、様々な良い遺伝子の発現が見られ、逆に悪い遺伝子の発現抑制によって生体恒常性機能が高まる。すなわち、ALAは生体のホメオスタシス機能を高め、様々な機能障害の改善に有用であると考えます。

3)皮膚への影響

 坪内(皮膚科医)は皮膚とALAとの関係を検討し、ALAと鉄が入った溶液を週2回、計4回エレクトロポレーションにより皮膚内に導入すると、肌水分量が増加し、キメが改善されることを臨床的に明らかにしました。さらに、ALA、鉄投与によってヘムの生産が促進されため、細胞内にて多くの水とエネルギー(ATP)が生産され、水分と活力に満ちた細胞が生まれ変わること、ヒトの線維芽細胞にALAと鉄を加えるとコラーゲンやヒアルロン酸の生産量が増加することなどを報告し、肌のエイジングケアや保湿効果などが期待されています。

4)育毛効果

 伊藤(皮膚科医)はALAを用いた尋常性座そう(ニキビ)の光線力学療法(PDT)を開発し、重傷ニキビ患者へPDTを施したところ、ニキビの治癒と同時に「抜け毛が減った」、「産毛が生えた」という声があり、発毛促進剤としての可能性に着目しました。そこで、伊藤はALAと鉄の組合せによって男女を問わず発毛促進効果の発現の増強および高濃度投与時における光障害の回避を見出しました。ALAは5%ミノキシジル(リアップの主成分)よりも高い発毛促進効果があります。

5)がんの診断と治療

 ALAを用いたPDTの特徴は、治療後に傷跡が残らないことであり、皮膚がんの多い欧米では特に注目されています。また、ALAは腫瘍細胞内に特異的に取り込まれ、ミトコンドリアにてPPⅨに生合成され、PPⅨが紫外線照射によって赤色の蛍光を発光することから、がんの新しい診断法として注目されるようになりました。このALAを用いた診断治療の利点として、①ALAは水溶性であり、生体物質である。②過剰のALAは投与後1~2日以内に体内から尿中に排出され、副作用(光線過敏症)の心配がない。③ALAは腫瘍選択性が極めて高い。④従来PDT治療に用いられてきたフォトフリンなどのポルフィリン化合物に比べて血管内皮細胞への取り込みが少ない。⑤ALAは経口投与が可能である。⑥ALA投与による合併症がない。といった多くの利点が挙げられます。
 現在、最も注目されているのは脳腫瘍の術中診断です。我われは、これまでに数多くの脳腫瘍患者に対してALAを用いた術中脳腫瘍蛍光診断および腫瘍組織を摘出する方法を開発し、従来困難であった悪性脳腫瘍の術後の延命を可能にし、その機序も解明しました。
 一方、ALAはがん細胞に特異的に取り込まれ、ポルフィリンへと変換されるため、ALAの経口摂取によるがんの早期診断および術後の予防への応用も期待されます。

おわりに

 ALAから生産されるヘムには、それと結合する蛋白質(ヘム蛋白)によって多様な生理作用を持ち、生命維持に不可欠な様々な生化学的反応の根幹に関わる作用物質です。したがって、今後、新しい肥料、飼料、ヘルスケアなどの商品開発や次世代の新医療への応用など、ますます多領域での発展が期待されます。
(近藤雅雄:日本長生医学会「長生」, 4月号、pp.11-14, 2015.4を修正して掲載)

コスモ石油シーズ・メイル対談:ALAの植物利用と健康効果

シーズ・メイル対談
 コスモ石油(株)の田中徹博士は世界で初めて光合成菌を用いて天然のALA(5-アミノレブリン酸)の大量製造する方法を開発しいました。これによってALAおよびヘム生合成並びにその代謝研究は大いに進展しました。そして、コスモ石油は生命体のエネルギーとなる ALAを用いた事業を推進することで 社会の期待に応えています。ALAは 生命の根源に関わる物質として注目が高まっています。 ALAの働きと可能性、そしてコスモ石油(株)のALA事業について木村社長と意見交換をいたしました。
 現在はコスモALA株式会社にてペンタガーデン等の植物利用に関わる研究及び製造が行われています。
 2011年4月、コスモ石油株式会社の代表取締役社長 木村 彌一氏との対談の内容がシーズ・メイルで紹介され、その内容を下記のpdfで示しました。 PDF:コスモ石油社長対談HP

可能性広がる生命物質5-アミノレブリン酸の健康効果

 生体細胞内でのヘム/ポルフィリン合成経路の最初の生成物である5-アミノレブリン酸(ALA)が多方面から注目を集めています。
医療分野では光増感剤として各種がんの光線力学療法や、レーザー照射と組み合わせて脳腫瘍の術中診断に用いられている。また、農業分野では液体肥料として、さらに美容や健康分野など、様々な領域で注目を浴びている。
2010年8月9日薬事日報で掲載・紹介された記事
 

野菜中の各種フラボノイドのHPLC分析法の新規開発

 現代人の免疫能は低下しており、特に高齢者の免疫能は著しく低くなっている。免疫能低下の主な原因として、急速な食生活の変化による肥満および加齢、ストレスなど、酸化ストレスによる影響が示唆され、その結果、細胞障害や免疫能低下が起こることが知られている。そこで、酸化ストレスからの防御方法として野菜などに多量に含まれる抗酸化物質の摂取が注目されている。
 本研究ではこれまでに多くの抗酸化物質の中で、ルテオリンが細胞内および細胞外の活性酸素消去能が高いことから、ルテオリンを中心として各種フラボノイド類のHPLC分析の開発を行った。フラボノイド類には多数の異性体が報告されているが、統一された分析方法はいまだにない。したがって、各々の抗酸化物質の抗酸化機能についてもはっきりしない。
 本研究では各種フラボノイドのHPLC分析法の開発と、実際に野菜からの抽出ならびに定量を目的として検討し、PDFに示した。
(近藤雅雄、2019年4月17日掲載、2006年5月12日発表) PDF:野菜中の各種フラボノイド分析法の開発