難病患者が安心して生活,先進医療が受けられる医療・福祉

 現代人は遺伝子の異常を10個以上持って生まれてくると言われます。しかし、殆どの人が何の自覚症状もなく健康です。ところが、たった一つの遺伝子の異常が病気となって生まれてくる人もいます。これを先天異常といいますが、健常者と同じくこの世に誕生した大切な「いのち」です。人間社会において、いのちを大切にするこころは人としての基礎です。
 健康の反対が病気ですが、これまで健康であった人が、何らかの原因によって病気になった時に、初めて健康のありがたさを思い、誰もが二度と病気に罹りたくないと思うものです。そしてそれが実現できます。ところが、病気を持って生まれてきた人はどうでしょうか。患者さんは健康への願望、生きることへの願望、仕事への願望、いのちへの思いが、健康な人以上に強く、また、今日の人間社会に欠けている他者を理解し、思いやるこころ、家族・友人を大切にするこころ、いのちの尊さと感謝の気持ちを強く持ち合わせております。私たち健常者に足りないものを多く持ち合わせております。私たちは難病患者から実に多くのことを学びます。今の人間社会には、いのちを大切にするこころと、相手のこころの痛みを自分の痛みと感じる「思いやり」のこころ、そして信頼できる温かい人間関係の輪を作るこころといった人間としての根幹にかかわるこころが欠けつつあるのではないでしょうか。
 私は、これまでに多くの時間を費やして、先天異常の一つである「ポルフィリン症」の発症機序や診断・治療法について研究し、患者さんの立場に立った研究・教育活動をしてきました。この「ポルフィリン症」は、たった一つの遺伝子の異常が先天異常として出生後に発病する先天代謝異常症で、多彩な症状を診る難治性の稀疾患です。本症は、初期症状として消化器症状(腹痛、嘔吐、便秘等)や神経症状(運動麻痺や四肢知覚障害等)が前面に出る急性型と、皮膚の光線過敏症を主徴とする皮膚型がありますが、どちらも誤診や事故が後を絶ちません。
 しかし、今日においても、いまだに医師及び行政はこの病気に対する正しい知識を得ていないのが現状です。その結果、誤診による禁忌薬の投与などの誤った治療と十分な心身のケアーが得られず、毎年何人かの若い「いのち」を失います。患者さんにとっては根治療法が開発されない限りいつも時間がありません。
 「ポルフィリン症」は一度発症すると長期間の入院や高価な治療薬の投与が必要になります。そして何度も再発を繰り返し、その日を境に、太陽に当たれないとか、仕事がなくなる、一般的な薬が服用できなくなるなど、日常生活・社会生活に大きな障害を持ち、健常者には想像を絶する深刻なこころとからだの病を合併し、患者さん並びにそのご家族の辛苦は計り知れないものがあります。患者さんの中には17年間、入院生活を余儀なくされている方もおります。また、診断されずに突然に急逝したという話も聞きます。
 日本は経済大国、医療の先進国として、日本に住むポルフィリン症などの難病の患者さんが安心して生活し、先進医療が受けられるような、さらなる医療と福祉の充実が必要です。(近藤雅雄:健常人と難病患者、2015年7月12日掲載)