代謝を調節する水溶性ビタミンの多様な生理と健康効果

水溶性ビタミンは水に溶けやすいビタミンの総称で、ビタミンA,D,E,K以外のビタミンを指します。

1.ビタミンB1(チアミン)
 ビタミンB1は糖質が体内で代謝されるときに必要な酵素の補酵素として作用している。食物から摂取された糖質はグルコースに変えられ、血液中を血糖(グルコース)として運ばれ、各臓器で利用されます。このグルコースを完全に燃焼し細胞内でエネルギーに変えるには、解糖系、TCA回路、呼吸鎖などの経路が必要です。この解糖系とTCA回路を結ぶ酵素にピルビン酸デヒドロゲナーゼがあり、この酵素の反応には補酵素としてチアミンにリン酸が結合したチアミンピロリン酸が必要です。
欠乏症:糖質が多い食生活の場合にビタミンB1が欠乏すると、脚気(多発性神経炎、浮腫)やウエルニッケ脳症(精神障害、運動障害、眼球運動麻痺)を起こします。

2.ビタミンB2(リボフラビン)
 ビタミンB2は生体内ではフラビンモノヌクレオチド(FMN)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)として存在しています。両者は多種類の酸化還元酵素に固く結合して存在するが、これらの酵素はフラビン酵素として知られ、生体内の酸化還元反応に関与しています。また水素伝達系の構成員として水素の運搬に関わっています。すなわちビタミンB2は糖質、脂質、タンパク質からのエネルギー(ATP)の生成に関与しています。
欠乏症:口角炎、舌炎、皮膚炎

3. ビタミンB6(ピリドキシン)
 自然界にはビタミンB6作用のある物質としてピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサミンの三つの型があります。体内ではリン酸エステルとして存在し、ピリドキサールリン酸(PLP)が活性型です。PLPは酵素の作用でアミノ酸と結合して、アミノ酸の代謝に広く関わっています。したがって、タンパク質の摂取が多くなると、ビタミンB6の必要量が増加するのです。
欠乏症:ヒトでは腸内細菌によってビタミンB6が合成されることもあり、欠乏症は起こりにくい。欠乏が起これば皮膚炎、貧血を起こす。

4.ナイアシン(ニコチン酸、ニコチン酸アミド)
 ニコチン酸とニコチン酸アミドを総称してナイアシンという。体内ではリボース、リン酸、アデノシンと結合してニコチン酸アミド・アデニン・ジヌクレオチド(NDA)あるいはニコチン酸アミド・アデニン・ジヌクレオチド・フォスフェート(NDAP)として存在し、補酵素として作用します。NDAおよびNDAPは多くの脱水素酵素の補酵素として水素の伝達反応に関与し、糖質、脂質、タンパク質の代謝に広く関与しています。
欠乏症:ペラグラ(皮膚炎、下痢、中枢神経症状(認知症))、口舌炎、胃腸病

5.パントテン酸
 パントテン酸は補酵素コエンザイムA(CoA)の構成成分です。体内でパントテン酸からCoAが生成され、脂肪酸の分解と合成など広範な代関わっていますう。
欠乏症:動物がパントテン酸欠乏になると、成長障害、皮膚炎等などが起きることがあります。ヒトでは腸内細菌がパントテン酸を合成するので欠乏症はあまりみられませんが、重症の栄養失調症では手足の麻痺や疼痛がみられる。

6.ビオチン
 ビオチンは酵素タンパク質と固く結合してビオチン酵素を形成している。ビオチンは代謝過程で生成する二酸化炭素を糖質や脂質に固定するピルビン酸カルボキシラーゼやアセチルCoAからマロニルCoAカルボキシラーゼなどの補酵素として重要な役割を果たしています。
欠乏症:ビオチンは腸内細菌によって合成され吸収利用されるので、通常の食生活では欠乏することはない。しかし生卵白を大量に食べると、卵白中のアビジンという糖タンパク質とビオチンが結合して吸収を阻害するため、欠乏を起こすことがあります。卵白を加熱するとアビジンの作用は消失します。ビオチン欠乏では、皮膚炎、筋肉痛、食欲不振、悪心などの症状を呈する。

7.葉酸(フォラシン)
 ホウレンソウから抽出した成分が乳酸菌の増殖に有効であることが見出され、葉酸と命名されました。葉酸の活性型テトラヒドロ葉酸は、1炭素原子の転移反応の補酵素として作用します。たとえばグリシンからセリンの合成、核酸塩基の合成、コリンの合成、ヘモグロビンのポルフィリン核の合成などに関与しています。
欠乏症:葉酸が欠乏すると巨赤芽球性貧血となり、さらに口内炎、舌炎、下痢などの症状を呈する。

8.ビタミンB12(コバラミン)
 分子中にコバルトを含むのでコバラミンと呼ばれます。生体内では補酵素型であるアデノシルコバラミン、メチルコバラミン、ヒドロキシコバラミンとして存在しますう。生体内での補酵素作用としてはメチル基、転移反応、核酸の合成、アミノ酸や糖質の代謝に関与しています。
欠乏症:ビタミンB12は赤血球の成熟に関係があり、欠乏すると悪性貧血を起こします。しかし腸内細菌が合成するので、一般的に欠乏症は起こりにくいと思われます。

9.ビタミンC(アスコルビン酸)
 ビタミンCにはアスコルビン酸(還元型ビタミンC)とデヒドロアスコルビン酸(酸化型ビタミンC)があります。アスコルビン酸は酸化されるとデヒドロアスコルビン酸となりますが、この物質は還元されるともとのアスコルビン酸に戻ります。ビタミンCは体内に広く分布していますが、摂取量が多くても体内の貯留量はそれほど増えず、尿中に排泄されます。
生理作用としては、アスコルビン酸の強い還元力で下記のような生体内の種々の酸化還元反応に関与しています。
① 過酸化脂質の生成抑制、ビタミンEの作用を増強。
② 肝臓の解毒物質の代謝に関与。
③ コラーゲン(結合組織タンパク質)の生成に関与。
④ 副腎皮質ホルモンの合成に関与。
⑤ フェニルアラニン・チロシン代謝に関与。
⑥ 鉄の吸収促進。腸管内での吸収を高める。
⑦ 発ガン物質であるニトロソアミンの生成抑制。
欠乏症:ビタミンCの欠乏により、結合組織のコラーゲンの生成が不足し、毛細血管が損傷しやすく、歯ぐきや皮下の出血が起こります。そのような症状を壊血病と言います。また小児では骨の形成不全がみられます。(近藤雅雄、2015年7月8日掲載)