あはき師厚生大臣指定講習会の教本「神経生理学」の出版

 生体には、あらゆる環境の変化、刺激に対して、常に体内の諸機能を健康状態に保とうとする能力があり、この能力が障害すると、種々な病態が発症する。この能力をホメオスタシスと呼んでいる。この最高司令官が神経器官(脳と脊髄)である。すなわち、人に存在する約1012個もの神経細胞(ニューロン)によって内分泌機能、あるいは運動、感覚、呼吸、消化、排泄、意識、睡眠、記憶など、生体の多くの機能に対するコントロールがバランスよく保たれている。
 最近、厚生省は“アクティブ80”、すなわち、少なくとも80歳まではなんの機能障害もなく健康な身体を維持しようという標語を出したように、現在、健康増進の三原則として運動、栄養、休養の重要性がいわれている。しかし、これらはすべて神経細胞の健康を指していると言っても過言ではない。すなわち、神経細胞に必要な栄養素の不足、脳血管運動の機能低下、適度な興奮の伝達不足、または睡眠不足などによって神経機能のバランス(脳内の恒常性)が崩れる。その結果として、記憶などの中枢の機能低下が生じて消化不良が生じ、各種免疫機能が低下し、代謝が円滑に行なわれなくなり、精神病、心身症が生じ、生きる意欲を失うという生体全体の組織細胞に影響が生じる。
 したがって、ストレスや各種病気に負けない、常にやる気、生甲斐を見出す丈夫な神経細胞、俗にいう図太い神経を持つことによって、丈夫で、認知機能の健全な神経細胞を維持し、QOL向上と健康寿命の延伸を獲得できるよう長生きしたいものである。そのためには、神経生理学を学び健康を意識することが最も重要である。

 本書は東洋療法学校財団が厚生大臣指定講習会として平成2(1990)年4月より平成4(1992)年3月の2年間開催された時に、筆者が講義資料として真面目な受講生に無料で配布した書物である。しかしながら、ネットにて高額で販売されているので、誠に残念である。(近藤雅雄、神経生理学、1991年6月14日発行)


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