鉄芽球性貧血のALA合成酵素(ALAS2)活性とポルフィリン代謝異常

 鉄芽球性貧血は,血清鉄,フェリチンおよびトランスフェリン飽和度の高値と環状鉄芽球(核周囲に鉄で満たされたミトコンドリアを伴う赤芽球)の存在を特徴とする多様な一群の貧血疾患である。遺伝性鉄芽球性貧血と後天性鉄芽球性貧血に大別される。最も頻度の高い遺伝性鉄芽球性貧血はX連鎖性鉄芽球性貧血(XLSA)で、現在までに100種類程度のδ-アミノレブリン酸合成酵素(ALAS2)の変異が確認され指定難病(286)に認定されている。鉄-硫黄クラスター形成不全などにより、ミトコンドリアでの鉄代謝に異常が生じ、ALAS2活性の著明な低下によるヘム合成不全を起こす。
 われわれは鉄芽球性貧血患者46例のポルフィリン代謝について検討した。その結果、ALAS2活性の低値に対してポルホビリノゲン脱アミノ酵素(PBGD)活性の高値等の酵素異常とポルフィリン代謝物の異常、とくにプロトポルフィリンの増量を見出した。さらに、遊離赤血球プロトポルフィリン(FEP)量が1mg/dl RBC以上を示した4例の患者には指定難病ポルフィリン症(254)の一病型である赤芽球性プロトポルフィリン症(EPP)と同様の皮膚の光線過敏症を合併していることを見出した。
 そこで、ALAS2活性の低下にも関わらず、FEPが増量することに注目し、FEP値の変化と他のポルフィリン代謝関連因子、肝機能、血液検査データとの相関関係を追及した。その結果、FEPとALAS2活性およびフェロキラターゼ活性には有意な相関(p<0.05)が認められた。また、ALAS2活性とアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)(p<0.01)およびASTとフェリチン、血清鉄(p<0.05)に有意な相関を認めた。さらに、因子分析の結果、FFPの変化が、尿中δ-アミノレブリン酸(ALA)、ウロポルフィリン、コプロポルフィリン(CP)Ⅰ、CPⅢ、ALAS2活性、網状赤血球数、フェリチン、AST、ALT、平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)の変化と関連性のあることが明らかとなった。とくにFEPの変化はフェリチンとMCHの関連性が大きいことが示唆された。さらに、ASTやALTにも関連性も見出されたので、ALAS2活性の異常は赤芽球内鉄代謝、肝機能および肝内ポルフィリン代謝との関連性が示唆された。
 さらに、最近ALAS2活性およびFEP量の両者が異常高値を示し、EPPと同様の皮膚光線過敏を診る新しい型の遺伝性ポルフィリン症、X連鎖優性プロトポルフィリン症(XLPP)が見出されたが、ALAS2活性の上昇並びに本研究にて示したALAS2活性の減少の両者においてFEPの増量を見ることは興味深く、各種赤血球造血性疾患の病態機序を追及する上で重要な知見と思われる。(論文:近藤雅雄、網中雅仁:ALA-Porphyrin Science 2(1,2)19-26.2013から引用した)(近藤雅雄、2025年5月11日掲載)

PDF:鉄芽球性貧血とポルフィリン代謝論文