「急性肝性ポルフィリン症」という日本語表記の違和感

 生体内に広く存在するヘム蛋白のヘム部分を生成する系をヘム合成系と呼ぶが、途中、ポルフィリン前駆体及びポルフィリン類の計7種類のポルフィリン代謝物質を経て合成されることからポルフィリン代謝系とも呼ばれる。このヘムは8個の酵素の共同作業によって生合成され、肝では最初のδ-アミノレブリン酸合成酵素(ALAS)が律速酵素となってヘムの生産量がフィードバック調節されている。骨髄赤芽球では肝と異なってALASは律速段階ではない。したがって、ヘム合成の調節機序は異なる。
 そして、この8つの酵素のいずれかに遺伝子の変異や生体内外の因子によって影響を受けると、肝または赤芽球細胞内でヘム合成量の減少と同時に障害酵素までの中間代謝物であるポルフィリンまたはその前駆物質が大量に生産・蓄積される。その結果、活性酸素の発生などによって正常組織の働きが障害され、多彩な症状を起こすことになる。これがポルフィリン代謝異常症と呼ばれる一群の疾患であり、その中で最も深刻なのが9病型からなる遺伝性ポルフィリン症である。

ポルフィリン症の分類
 このポルフィリン症の分類として、日本では長い間、ポルフィリンの代謝異常が組織で異なることから組織別に肝性ポルフィリン症と赤芽球(骨髄)性ポルフィリン症とに分類されてきた。また、症状が異なることから臨床的に急性の神経症状を主徴とする急性ポルフィリン症 (AIP、ADP、VP、HCP)と皮膚の光線過敏症を主とする皮膚ポルフィリン症 (CEP、EPP、PCT、 HEP、XLDP)とに分類されてきた。
 ところが、近年、急性ポルフィリン症のADP,AIP,HCP,VPの4病型にたいして、肝臓でのポルフィリン代謝異常でもあることから急性肝性ポルフィリン症と記載する製薬企業がある。日本では長い間認められてきたポルフィリン症の分類学からすると違和感がある。これまでの日本語表記で何の問題もなく、指定難病も獲得してきたのだ。ポルフィリン症の分類は重要であり、「急性に対して皮膚」、「肝性に対して赤芽球(骨髄)性」を用いるべきと思う(下記PDFの表3参照)。(近藤雅雄、2025年4月23日掲載)

PDF:ポルフィリン症の分類