ポルフィリン尿症:鉛中毒のポルフィリン代謝異常と臨床

 鉛が生体に及ぼす影響として最も鋭敏なのがポルフィリン代謝です。鉛中毒では貧血や疝痛、神経症状など急性ポルフィリン症と類似の中毒症状をきたしますが、急性ポルフィリン症と治療法が異なることから両者の鑑別診断が重要となります。
 鉛によるポルフィリン代謝異常は造血系、肝、腎などで認められています。鉛の生物学的曝露指標として血液中鉛量(Pb-B)や尿中ALA、赤血球プロトポルフィリン(PP)、δ-アミノレブリン酸脱水酵素(ALAD)が用いられます。ALAD活性は他の指標に比して低濃度鉛曝露の評価には有効ですが、Pb-Bが40µg/dlを超える場合は指標にならず、労働衛生現場での鉛健診には用いられていません。また、Pb-Bが40~50µg/dlから血液中亜鉛プロトポルフィリン(ZP)、尿中δ-アミノレブリン酸(ALA)、コプロポルフィリン(CP)Ⅲの著明な増量がみられます。
 慢性・亜急性中毒では、無痛性の伸筋麻痺、視力障害、握力減退、手指の振戦、筋肉痛、関節痛、貧血を生じ、高濃度の場合は鉛蒼白、鉛縁が見られます。Pb-Bが80µg/dl以上では造血系障害として鉛貧血、好塩基性斑点赤血球、鉄芽球が出現します。急性中毒では興奮や不安、食欲不振、頭痛、意識障害を認め、150µg/dl以上で疝痛や嘔吐が認められます。鉛中毒の特徴的な末梢神経症状として神経筋症状や手首の伸筋麻痺(鉛麻痺)による下垂手(落下手)があります。下垂手は急性ポルフィリン症では診られません。
 鉛中毒ではCPⅢとペンタカルボキシルポルフィリン(PENTA)Ⅰが過剰に排泄されるのが特徴であり、他の遺伝性ポルフィリン症と異なったパターンを示します。(近藤雅雄、2025年4月19日掲載)
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