「病気と治療1~7」のまとめ:病院と医師の質の向上を願う

 「病気と治療」の連載では望ましくない治療体験を7回に亘って掲載した。
 第1回目の原稿「病気と治療1.脊髄強打による圧迫骨折等脊髄損傷の治療経験」で、筆者は「多くの病院、医師は社会・人間に役立つ医療を提供しているが、一部の病院あるいは一部の医師に不適切な態度・技術‣知識・運営が見られることがある。患者は命を預ける弱者であり、病院、医師に従うしかない。病院、医師の社会に対する責任は重い。」と記載した。

 これまでに約500名の全国の病院医師と、共同研究者として論文や医学会での発表を行なったが、中には臨床研究にまったく関わらなかった名前だけの医師、患者の組織,血液や尿などの検体を採取しただけの医師等、研究への関わり方はさまざまであった。しかし、一緒に議論して研究した医師や共著論文を執筆した医師は「研究の質の向上は治療・教育の質の向上を担保する」、真に優秀な医師であった。
 医師には研究するこころを持っている医師とそうでない医師がいる。研究するこころを持った医師は向上心があり、その治療は優秀なのが多い。研究するこころを持っていない医師には患者に寄り添う医師と寄り添わない医師がいる。患者に寄り添う医師には仁愛のこころがある人が多い。問題は研究するこころを持たず、患者に寄り添わない医師が意外に多いことである。
 医学部に入学した医師の偏差値は高いが、「研究能力や仁愛のこころ」といった面では偏差値は無関係である。近年、研究できない(しない)医師があまりにも多くなった。医学部の医学教育では、医師としての道徳教育を重視してほしい。最高学府である大学医学部の附属病院の医師は同時に医学研究者でもあることを肝に銘ずるべきである。
 こころが病んでいる患者に対する病気の治療には多くの患者の物語があり、そのこころを少しずつ和らいでいくことによって患者の自然治癒力が高まり、病気の治療・回復に向かうことが多い。まず、患者と多く接することが第一に必要なことあって、病気の治療の基本である。
 この資料室で「病気と治療」を書いた理由は、病院医師の治療に対する意識の向上と自己点検・評価並びに必要な改善・改革を行い、病院および医師に望ましくない行為が起こらないような仕組みを作ってほしいという思いからである。特に特定機能病院日本医療機能評価機構の認定を受けた病院では日常的な自己点検・評価と第三者による点検・評価が必要であると思う。以下に、医療従事者に求められる言葉(こころ)と態度を挙げた。

医療従事者に求められる言葉と態度、12の習慣(近藤)

1.医療は経営に重きを置くのではなく、患者に寄り添った優れた治療を優先する
2.保健・医療・福祉の基本は布施行であり、高い志と知・技・心・態が求められる。
3.敬愛の精神を持って、常に謙虚で自己を厳しく律する。言葉の使い方を大切にする。
4.医療従事者、とくに医師の言葉は患者の免疫力・治癒力、さらに生死に大きく影響する。
5.成功者は自分のためではなく、患者のためになることを第一に考える(他者理解)。
6.患者に「治る」「治してあげる」という断定的な言葉を言ってはいけない。治るのは患者の治癒力による。
7.患者に寄り添い、患者の身体に聴診器や手を当て、病気の全体を総合的に判断する。
8.患者に嘘を言ってはいけない。知ったかぶりをしない。わからないことはその場で調べる。
9.患者に治療を行う前には必ず説明し、同意を得るのが基本。また、EBMを順守するのが基本。
10.症例から学ばぬ者は過ちを繰り返す。
11.研究の質向上は治療・教育の質の向上を担保する。
12.臨床研究の課題は身近に多く存在する。常に「研究するこころ」と「患者に感謝するこころ」を持つことを忘れない。
(近藤雅雄、2025年4月6日掲載)