急性ポルフィリン症の神経細胞内ヘム合成系酵素の異常

 指定難病である急性ポルフィリン症は急性間歇性ポルフィリン症(AIP)、ALAD欠損性ポルフィリン症(ADP)、遺伝性コプロポルフィリン症(HCP)、多様性ポルフィリン症(VP)の4病型が知られている。
 本疾患では共通して生命維持に不可欠なヘムの生産量が低下すると共にδ-アミノレブリン酸(ALA)やポルフィリンが過剰生産され、消化器、精神・神経、循環器、内分泌、泌尿器、代謝、運動など、多様な障害を起こす。
 症状は腹部症状、神経症状、精神症状が三徴をなし、腹部症状では腹痛、嘔吐、便秘(または下痢)が三徴をなす。症状は発作的に起こり、数日,数週間あるいはさらに長く続く。これら腹部自律神経症状に加えて痙攣、意識障害、精神症状などの中枢神経障害、筋力低下、知覚異常などの末梢神経障害、そして、赤色尿が出現する。
 我われは末梢神経障害を呈したAIP患者の極期と症状が回復した寛解期の肝、腓腹神経、腎、骨髄、リンパ球など、微量採取された生検材料を用いて世界で初めてALA合成酵素(ALAS)、ALA脱水酵素(ALAD)およびポルホビリノゲン脱アミノ酵素(PBGD)の3つの酵素活性を測定した。その結果、すべての組織でPBGD活性の50%低下を認めたがALAS活性の上昇は肝以外認められなかった。また、別の患者の坐骨神経組織においても同じであった。
 この結果は、極期のAIP患者の神経障害はALAS活性が亢進していないことから、PBGD活性の減少に基づく影響ではない。すなわち、肝で大量生産されたALAなどポルフィリン代謝産物による影響が明らかである。したがって、肝のポルフィリン代謝を正常化すれば治療可能であることを明らかにした。また、PBGD活性の減少はAIPの診断に重要だが、発症における直接的な原因とはならないことも明らかにした。これらの結果は他の急性ポルフィリン症も同じ肝だけの障害であることを示唆している。(近藤雅雄、2025年3月21日掲載)
PDF:急性ポルフィリン症の酵素異常