健常者の中年女性2人に1人が鉄欠乏性貧血の予備群と言われています。また、ポルフィリン症の患者さんに鉄欠乏性貧血が多く診られます。最近、鉄剤の摂取で急性肝炎になった中年女性2例を経験しました。鉄剤サプリメントの摂取には十分注意してください。
1.各年齢層における発症の原因
①乳幼児期:未熟期、食事摂取不良、牛乳貧血
②思春期:急速な成長、偏食、月経開始に伴う鉄需要の増加
③成人期:病的出血(消化管、泌尿器、痔核)、胃切除後、低・無酸症、月経異常(月経過多、子宮筋腫)、妊娠、出産、授乳
④高齢者:食事摂取不良(入れ歯、咀嚼力の低下)、病的出血(消化管、泌尿器、痔核)、胃切除後、低・無酸症、ヘリコバクターピロリ菌感染
⑤その他:異食症や消化管の悪性腫瘍などが挙げられます。
2.症状
症状としては①顔が蒼白い、②疲れ易い、③すぐに息がきれる、④ 胸がドキドキする(動悸)があります。その他、⑤集中力の低下や意欲の低下(落ち着きがない)、⑥抑うつ気分、頭痛、めまい、体力・作業能率と感染抵抗力の低下、脱毛、むくみ易い、脆弱爪など全身の症状が認められます。爪の変化としてはスプーン爪(18%)、爪の脆さ、爪に凹凸が出現、縦皺が見立ち平坦になる、⑦舌炎、口内炎、口角炎、嚥下障害を合併などが挙げられます。
3.予防
予防として、鉄含有食材と同時に鉄の小腸吸収を促進する食材を意識的に日常的に摂取してください。例えば、牛・豚・まぐろなどの赤身肉やレバーに含まれる“ヘム鉄”からの鉄の吸収率は約30%、これに対して、納豆、枝豆、そら豆、小松菜、ほうれん草といった植物系食材に含まれる“非ヘム鉄”からの吸収率は約5%ですが、両者一緒に摂るのが効果的です。非ヘム鉄(3価鉄は吸収されません)の摂取にはビタミンCや有機酸を含む食品を一緒に摂取すると、2価鉄に還元されて吸収が良くなります。また、ヘム鉄サプリメントの服用も有効ですが、基本は食事からの摂取です。
吸収を抑制する食品としては食物繊維の大量摂取やリン酸塩やカルシウム塩を多く含む加工食品、タンニンを多く含むコーヒー、緑茶、紅茶、抗酸化物質のポリフェノール、また、穀類のぬかや胚芽および豆類に多く含まれるフィチン酸により鉄の吸収が妨げられますので注意が必要です。
4.治療
治療として、病院から鉄剤の飲み薬が処方されますが、むかつきや吐き気、便秘(または下痢)といった副作用など、内服での治療が難しい場合には注射で投与します。血液検査でフェリチン値(貯蔵鉄)が正常化するまでに半年要します。緊急時には輸血が行われます。
5.注意事項
鉄欠乏性貧血は、鉄の供給不足が原因ですので、サプリメントとして鉄やヘム鉄を摂取する患者さんや健康志向で摂取する健常人が多くみられます。しかし、鉄剤の摂取により急性肝炎になった症例を数例診てきました。鉄剤の摂取は自己判断でなく、血液の専門医の管理の下、適切な治療を受けてください。
なお、「鉄欠乏性貧血~ヘム合成とミネラルバランスの関する新知見」として2021年11月8日に本資料室に掲載してありますので、こちらの方も参考にしてください。
(近藤雅雄、2025年3月10日掲載)