本原稿は、専門誌「ポルフィリン」7巻1号:51-57頁,1998年7月に掲載された筆者らの論文「慢性砒素被曝経験者のポルフィリン代謝異常」を修正して掲載した。
某国立大学附属病院にて、OO県にあった「某砒素(As)鉱山」地域で生まれ育った38歳女性(A氏)が23年前に常染色体優性遺伝の急性間歇性ポルフィリン症(AIP)と診断され、兄もその病気で死亡したと伝えられていた。その後、A氏は妊娠を希望し、某私立医科大学附属病院に相談し、病気の発症予防のための管理を依頼した。そこで、病院より病状把握のため血液、尿、糞便を採取し、筆者にポルフィリン代謝関連物質の検査を依頼された。
その結果、生化学および酵素診断によって、20年以上経って初めてAIPではないことが判明した。同時に、砒素中毒に特異的な、新たなポルフィリンの代謝異常を見出した。その原因を究明するためにA氏の家族歴、生活習慣・環境因子などの調査を行った結果、砒素被曝経験(中学卒業迄の15年間、鉱山地域の井戸水を飲用していた)があることがあった。そこで、同じ地域に住む2名を加え、合計3名のポルフィリン代謝について検討した結果、その代謝異常が砒素中毒に特異的であったことから、慢性砒素中毒の新たな生体指標となることが推測された。(近藤雅雄:2025年2月26日掲載)
PDF:砒素中毒における新たな生体指標の発見