5-アミノレブリン酸(ALA)による免疫増強とその機序

1.はじめに
 現代のストレス社会ではヘムオキシゲナーゼによってヘムの分解が亢進し、ヘム量が減少します。ヘムはアミノレブリン酸(ALA)からミトコンドリア内で生産でされる生体赤色素であり、呼吸やエネルギー生産、神経、内分泌、免疫の機能保持など、生命維持に不可欠な根源物質です。そこで、免疫機能の中枢である胸腺に対して、ALA・ヘムとの関連を検討しました。

2.研究方法
 雌雄高齢マウス(約35~45週齢;BALB/ cAJcl,日本クレア(株))に体重1kg当り2~10mgのALAを投与するように1日の飲水量に配合し7日間自由摂取させました(各群5匹)。実際の摂取量は飲水量から計算しました。飼料はCE-2(日本クレア(株))を自由摂取させました。飼育終了後、胸腺重量、胸腺細胞数、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)活性、グルタチオンペルオキシダーゼ(GpX)活性、ヘム合成関連物質の測定およびジーンチップによる遺伝子発現解析、リンパ球の幼若化能およびサブセットなどを測定しました。

3.結果
1)胸腺免疫機能に及ぼす影響
 ALA投与によって胸腺重量および胸腺細胞数が有意に増量し、その影響は高齢マウスで著しく、さらに雌に比べて雄の方が著しいことを見出しました。ALA投与により細胞の分化・増殖が亢進したものと示唆されました。胸腺細胞のリンパ球(CD4, CD8)サブセットが雌雄マウス共に増加傾向を示しました。さらに、ALA投与によって活性酸素を消去するSOD活性が有意に増加しました。

2)ヘム合成に及ぼす影響
 血液細胞および胸腺細胞共にALAを代謝する酵素が次々と活性化され、ヘム合成量が増加しました。この結果は、ALA投与によって胸腺の機能が回復・亢進することを示している。胸腺重量の増加は病理標本を作成・検討した結果、胸腺内リンパ球数の増加を認めました。

3)胸腺遺伝子発現に及ぼす研究
 胸腺細胞からt-RNAを抽出し、遺伝子解析を行いました。その結果、ALA投与によって934個の遺伝子の発現量に変化が見られました。さらにトランスクリプトミクス解析からSOD遺伝子の発現などが確認されました。

4.おわりに
 胸腺は加齢にしたがって萎縮し、それと共に免疫機能が低下することが分かっています。しかし、ALA投与によって萎縮抑制のみならず、若年期の重量にまで回復することを発見しました。さらにSOD活性の回復による抗酸化機能の増強が確認されたことは極めて重要な知見です。つまり、ALAは高齢者の免疫力増強と若返りに効能があることを示しています。
 これまでに胸腺の萎縮を抑制または回復させる因子は発見されておらず、ALAは免疫機能に影響を与える新しい因子として、今後大いに注目されるでしょう。
 一方で、健常者においては性差・年齢にかかわらず一日に約0.5~3mgのALAが尿中に排泄されています。同様な結果はマウスでも認められることから、ALA投与による生体影響についてはさらなる科学的検証が必要です。
 現在、ALAが健康食品や医薬品として商品化されていますが、ポルフィリン代謝異常症を有する人は避けた方が良いでしょう。(近藤雅雄:平成28年11月25日掲載)
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